2021-01-01から1年間の記事一覧
日本聖書協会が2018年に出した新旧約聖書の翻訳「聖書協会共同訳」は、どのくらい普及しているのでしょうか。それを促すことにも関係しているのでしょうか、この訳に基づいた詩編のガイドブックが2021年に出版されました。 わたしが最初に手にした聖書は1955…
深井さんは本書では「脱出」と「受容」という視点からティリヒを描いたと言います。ドイツ、父親、ルター派教会、キリスト教会からの脱出、そして、アメリカ、学会、読者による受容、また、性や政治面での逸脱、既存の信仰からの逸脱、神による受容が重なり…
岡倉天心と言えば、東京美術学校開校者、日本美術院創設者、近代日本美術の先駆者とされ、その仕事は、美術教育、美術家養成、古美術保護、日本美術史研究、日本美術思想の世界への伝達として知られています。 しかし、若松英輔さんのこの本は、岡倉が茶道を…
霊性とは何か。世界、万物、生命、人間を創造し維持する力、あるいは、神を大霊とすると、人間には(あるいは、万物にも)大霊を感知したり、それにつながったりする小霊がある、と考えられる。小霊は、大霊が人間に宿った、あるいは、自身を人間にわかちあ…
本書の特徴は、書名にあるように、ヨーロッパ思想史を哲学と神学の両面から描いている点です。したがって、哲学者のみならず、神学者も数多く登場します。両者を兼ねていたり、どちらか一方に定義できなかったりする人物もいます。 「宗教的な霊性が哲学的な…
若松英輔さんの「深い河」の批評本をきっかけに、「深い河」、「女の一生 一部・キクの場合」、そして、「女の一生 二部・サチ子の場合」と、この秋、遠藤周作さんを続けて読みました。他の小説も、残りの人生で、できるだけ追いたいと思います。 本書には、…
わたしが講師を務める高校では毎年二年生の現代文で漱石の「こころ」を取り上げています。生徒たちは教科書とは別に「こころ」を文庫本で読んでいます。もう何年もそうしているのは、ひとつは、この作品が高校生に強く訴えるものを持っているからでしょうか…
吉満義彦、内村鑑三、井筒俊彦、池田晶子、須賀敦子、神谷美恵子、小林秀雄。 2011年以降、若松英輔さんによる評伝を何点か読んできました。最初のころは、まったく読めませんでした。読んでも読めなかったのです。 けれども、少しずつわかってきたことは、…
「第一部 旧約聖書の思想」は、コヘレトについての興味深い考察を中心に、詠み応えがありました。 けれども、「第二部 旧約聖書と教会」は、はじめに「洗礼を受けていない人との聖餐式はいけない」という結論があって、それを旧約聖書から「根拠づける」スタ…
小友さんは神学教授でキリスト教の牧師ですが、枠に囚われない考えをしています。 「信仰がなくたって、いまをこのように生かされていることは恵みなんだと気がつくんです」(p.29)。 本書の題材である「コヘレトの言葉」は、人間は神のように未来を知り得な…
対談ですので、ひじょうに読みやすいです。しかし、十分な準備に基づいていて、とても深いです。 世界の根底には目に見えない大切なものがある、それは、神、仏、あるいは、いのちなどと呼ばれる、政治は、特定の政治集団にでもなく宗教集団にでもなく、その…
「政治は、そうした価値の複数性や多元性を前提としながら、いくつかの『正しさ』の間で調整や妥協を図る営みなのです」(p.39)。 しかし、「価値の複数性や多元性」と言っても、人を殺してはならない、人から盗んではならないという考えと、人を殺してもよい…
「政治において重要なのは、公共的な議論によって意思決定をすることです。言い換えれば実力による強制はもちろん、経済的利益による買収や、議論を欠いた妥協は政治ではないのです」(p.50)。 憲法改正には衆参両議院で三分の二以上の賛成が必要ですが、それ…
遠藤のもうひとつのキリシタン小説「沈黙」に登場するキチジローは、キリストを棄てる。だが、キリストはキチジローを赦す。 しかし、遠藤は弱い者、人間の弱さだけを描いているのではない。「沈黙」にも、この「女の一生」にも、けっして信仰を棄てない者た…
女の子は十代。父親の仕事を手伝ったりもするが、恋もする。ところがある日、大きな試練に見舞われる。 父親は小さな教会の貧乏牧師。牧師職だけでは食べていけないので、ガソリンスタンドでアルバイトをしている。 ぼくも牧師をしながら非常勤教員もしてい…
登場人物のひとり大津は、「日本人の心にあう基督教を考えたいんです」と言いますが、これは、遠藤周作さん自身も同じようなことを言っています。けれども、ふたりは、キリスト教を日本人向けにしたのではなく、むしろ、世界のどんな人間にも通じるものをキ…
人間とは何か。唯一の正解はない。いくつもの答えがある。そして、それは、解答者の属する歴史にもよるだろう。けれども、「真理という概念は、この歴史性を隠蔽して、なにものかの『本質』であるかのように振る舞うものである」。しかし、「『真理』とは論…
精魂尽き果てたときは、若松英輔さんの本を読みたくなります。それも、ひとりの人の一冊の評伝よりも、小文集、エッセイ集が良いと思います。心がつぶれそうなとき、若松さんの新刊が出ると、闇夜でマッチ箱を拾ったような気持ちになります。 「喉に渇きを感…
誤読ノート598 「キリスト教を日本化するのではなく、宇宙化し、しもべとする」 「日本人にとってキリスト教とは何か: 遠藤周作『深い河』から考える」(若松英輔、2021年、NHK出版) 「日本人にとってキリスト教とは何か」を考えるとは、どういうことでしょ…
聖書には、処女降誕、病気の癒し、嵐の鎮静、復活など、科学的には信じられないことがらが満ちている。また、大虐殺など歴史や社会に起こる残酷な出来事ゆえに、神の存在を疑う人びともいる。 奇跡をそのまま信じなさい、大虐殺も神が起こしたと信じなさい、…
「一般的な宗教、つまり狭義の宗教では、私が悪魔化と呼んでいる危険性に支配されています。これは、ある特定の象徴や概念が絶対化され、それら自体が偶像化したときに、悪魔化が起こるのです」((p.22)。 たとえば、イエスが馬小屋で生まれたという「象徴」…
この本で紹介されている30冊は、「宗教学」を意識して書かれたものとは限らない。「宗教学」という学問ができるずっと以前にのものも少なくない。しかし、これらの著作から、宗教とは、そして、神とはどのようなものと考えられてきたか、いや、どのようなも…
イスラム教、仏教、キリスト教と言った特定の宗教を信じていなくても、人間には、宗教心があります。 そして、特定の宗教が特定の表象(言葉)で言っていることは、人間一般の宗教心ではどのように言われているのか考えてみることで、特定の宗教の意味が深ま…
2001年9月11日午前、ワールドトレードセンター内で天に召されたマイカル・ジャッジ神父が、いつも唱えていた四行の祈り。 著者は、その一行一行を、神父の行動、聖書の言葉や物語、著者自身の経験に照らして、噛み締めていく。 聖書とイエスを信じる者たち、…
わたしは3月11日の被害者ではない。友人に被災者はいるが、死者はいない。わたしは、ただ、というか、不遜にも、5月に仙台を訪問し、停電や水不足、初期の支援奔走を経験した友人の車で、あの道路の向こう側にまで案内していただいたものに過ぎない。 「仙台…
著者はキリスト教プロテスタントの西南学院中学で洗礼を受けたという。しかし、彼はキリスト教を広めようとすることはまったくない。むしろ、イスラム教や人間の宗教心一般を尊重する。 それにもかかわらず、この本には、モーセも登場する旧約聖書の精神、ヴ…
誤読ノート590 「公平な分配と自己犠牲」 「ケノーシス: 大量消費時代と気候変動危機における祝福された生き方」(サリー・マクフェイグ、新教出版社、2020年) 370頁の大著だが、多くのことがらが記されているわけではない。地球環境を破壊する大量消費、そ…
旧約聖書は一神教である。たいていの人はそう思っているだろう。 しかし、著者は、旧約聖書学の最新成果を踏まえて、旧約聖書全体に一神教が完全に貫かれているわけではない、「唯一神的神観が最も集中的に見られるのは、イザヤ書四三-四六章である」(p.340…
「イエスは彼らが見ているうちに天に上げられたが、雲に覆われて彼らの目から見えなくなった」(使徒言行録1:9) 聖書に書かれていることを一言一句事実であると信じる人びとでも、わたしたちがロケットに乗って雲より高く高く昇って行けば天に行ける、と考…
その島では、男は祭司、神官にはなれない。歴史の語り部にもならない。いや、歴史そのものを知ることはできない。なぜか。それになろうとする少女と、それになろうとするが許されない少年。その理由は、巻末で一挙に明かされる。 東アジアのある国は、ある人…