2019-01-01から1年間の記事一覧

誤読ノート499 「今ここにある往生」・・・「他力の哲学: 赦し・ほどこし・往生」(守中高明、河出書房新社、2019年)

「南無阿弥陀仏」とはどういう意味でしょうか。「南無」は「帰依」、「阿弥陀仏」は「無限なる者」だそうです。「南無阿弥陀仏」とは、つまり、「無限者に帰依(する/している)ということだそうです。 ここには「わたしは」という主語はありません。ただ「…

誤読ノート498 「夫の過去を報告する弁護士の最後の言葉が」・・・「ある男」(平野啓一郎、2018年、文藝春秋)

たとえば、ある過去やある背景があると知ったとき、わたしはその人とどう接するだろうか。 それゆえに、その人を怖いと思ったり、悪人と見なしたり、蔑視したり、差別したりするだろうか。 それとも、その人の過去や背景の厳しさを理解し、あるいは、理解し…

誤読ノート497 「キリスト教会の外にある救い」・・・「ヒップホップ・レザレクション」(山下壮起、2019年、新教出版社)

誤読ノート497 「キリスト教会の外にある救い」 「ヒップホップ・レザレクション」(山下壮起、2019年、新教出版社) 「解放の神学」を30年ほどまえに読み始めたころ、神は教会だけでなく、いやむしろ、教会の外で働く、というフレーズに強く惹かれた。 タイ…

誤読ノート496 「新約聖書の『意外』さ」・・・「NHK宗教の時間 新約聖書のイエス 福音書を読む(下)」(廣石望、2019年、NHK出版)

たとえ話、神の国、食卓、最後の晩餐、死、復活という項目で、福音書に書かれたイエス像を概観、いや、かなり専門的に論述しています。聖書学の知識がない一般読者やリスナー(ラジオ「宗教の時間」のテキスト!)には、相当「意外」ではないでしょうか。 ま…

誤読ノート495 「ダメ牧師を慰める書」・・・「種まく人」(若松英輔、2018年、亜紀書房)

若松さんのエッセイ集。 若松さんは井上洋治神父を師と呼ぶ。「神父の生涯は、人々に、言葉といういのちの炎を届けることにあった」(p.13)。 若松さんもまた、著作を通して、コトバを、いやコトバそのものではなく、コトバの炎を、わたしたちに垣間見せてく…

誤読ノート494 「本が読めないときは、若松英輔さんを読もう」・・・「本を読めなくなった人のための読書論」(若松英輔、2019年、亜紀書房)

酷い目にあった。相手に非を認めさせたい。うまくいかせたくて仕方がないことがある。そういうときには、若松英輔さんを読む。 悲しいとき、苦しいときには、本が読めなくなる。そういうときには、若松英輔さんを読む。若松さんのエッセイを読む。小型の本、…

誤読ノート493 「茨木のり子を読むための参考書」・・・「花神ブックス1 増補 茨木のり子」(花神社、1996年)

茨木のり子さんの自選詩63編、童話、エッセイ、本の後書きなどに加えて、川崎洋さん、新川和江さん、吉野弘さん、工藤直子さんらの「茨木のり子について」約20編が収められています。 「やわらかな人間のおかしみと、決然たる意志が、歴史に向かってひらかれ…

492 「非暴力と忍耐の人に成長したい」・・・「沖縄・辺野古の抗議船「不屈」からの便り」(金井創、2019年、みなも書房)

金井さんは大柄だが、どちらかというと、撫肩だ。そんなに、いかっていない。ぼくはいろいろな人と揉めてきたが、彼とは揉めたことも傷つけられたこともない。 「暴力を使えたら気持ちの上では楽かもしれません。警察や海保に暴力をふるわれてやり返したら、…

491 「いつかここから解放され結ばれる希望という名の苦難また苦難」・・・「アウシュヴィッツのタトゥー係」(ヘザー・モリス、2019年、双葉社)

アウシュヴィッツでは収容者を人間でなくするために番号をつけ、それを一人一人の腕に彫る。ラリはタトゥー係になることで、生き延びる可能性が他の収容者より何百分の一か高くなったのだろうか。それでも、死は絶えず彼を訪問する。 ある日、ラリは美しい少…

誤読ノート490 「春を告げる野の花」・・・「朝鮮から飛んできたたんぽぽ」(桜井美智子、2019年、書肆アルス)

二十世紀のはじめ、日本は朝鮮に侵略し、植民地にした。炭鉱などの労働力として、多くの人びとを日本まで強制連行した。形の上では強制連行ではなかったが、植民地化され、貧しくされたゆえに、日本に来ざるを得ない人びともいた。 それなのに、「勝手に来た…

誤読ノート489 「父と子どもが仲良くなるには」・・・「流星ワゴン」(重松清、2005年、講談社文庫)

テレビドラマを観てから、原作のこの本を手に取った。主人公の子どもの中学受験の結果、死者となった別の父子の子どもの母親との再会、ラストシーンなど、感動的だった場面は、ビデオによるオリジナルだったようだ。 原作は派手ではない。奇跡は起こらない。…

誤読ノート488 「イエスとイエスの演出家を知るための入門書」・・・「新約聖書のイエス 福音書を読む 上」(廣石望、2019年、NHK出版)  

おそらく、今、日本語では一番新しく、一番安価な(ラジオ講座用のペーパーバックゆえに税別920円!)聖書学のテキストでしょう。 歴史上のイエスはどんな人物であったか、そのイエスという素材を四つの福音書はどのように味付けしたか。世界レベルの最近の…

誤読ノート487 「自死者は犯罪者ではない」・・・「『こころ』異聞 書かれなかった遺言」(2019年、若松英輔、岩波書店)

「自死を『選択』したのではない。その他に道がなかった、というのである」(p.228)。「先生」の手紙を、若松さんはこのように読む。 自死を選択しようとする人がいれば、止めなければならない。しかし、なされた自死は、文字としては矛盾するが、自ら死んだ…

誤読ノート486 「キリスト教が広まらないのは一部宣教師の傲慢と悪徳のせいかも」 ・・・   「キリスト教と日本人――宣教史から信仰の本質を問う」(2019年、石川明人、ちくま新書)

日本にキリスト教が広まらなければならなかったのか。ならないのか。 キリスト教のもっとも良質な部分(この世界は偶然ここにあるのではなく創造されたものであること、その創造者の意志、愛、無償性、信頼、委ね、正義、平和・・・)が人びとに伝わり、人び…

484 「耳を澄ませば、愛されている」 ・・・「『若者』と歩む教会の希望――次世代に福音を伝えるために」(2018年上智大学神学部 夏期神学講習会講演集、2019年、日本キリスト教団出版局)

五人の講演が収録されていますが、まずは、塩谷直也さんの言葉が印象的でした。 「学生たちは愛についての説明が聞きたいのではないのです。そうではなく、愛せない私、愛したけれど裏切られた経験、愛されたけれど相手を見捨てた経験、それを共有したいので…

483 「太陽は隣人、月は同胞」・・・ 「回勅 ラウダート・シ――ともに暮らす家を大切に」(教皇フランシスコ、2016年、カトリック中央協議会)

地球の環境を保護しようとする言動は、貧しい人びとの生と権利を守ろうとする考えや行いと切り離すことができない。エコロジーについての書が数多くある中で、これは、本書の大きな特徴だと思った。繰り返し述べられている。 では、環境と人権保護は、キリス…

誤読ノート482 「ご隠居牧師のユーモアと真実」・・・「なみだ流したその後で――断想と追想と」(上林順一郎、キリスト新聞、2019年)

点滴だけの生活を二週間経た後、ひさしぶりの食事。「点滴の取り換えの時に祈ることはありませんでしたが、この日入院してはじめて食事の感謝の祈りをしました」(p.246)。絶妙なおとぼけぶりですが、その祈りはとても神妙だったろうなと思わされます。 牧師…

誤読ノート481 「キリスト教を呑み込んだメキシコ先住民宗教」・・・「グアダルーペの聖母」(鶴見俊輔、筑摩書房、1976年)

メキシコ人の中には、さまざまな抵抗精神が見られる。 たとえば、メキシコの新聞などはアメリカ合州国批判を盛んにするが、鶴見によれば、それは、メキシコ政府批判の隠れ蓑らしい。 たとえば、メキシコは亡命者を受け入れる。その背景には、メキシコの人び…

誤読ノート480 「不幸中の幸い」・・・「NHK「100分de名著」ブックス 石牟礼道子 苦界浄土~悲しみのなかの真実」(若松英輔、NHK出版、2019年)

昨日だったか、朝日の朝刊で、鷲田清一さんが尹東柱の「悲しむ者はさいわいである。だから、僕は永遠に悲しむのだろう」という言葉を紹介していた。前半は無論、マタイによる福音書でイエスに帰せられている有名句だ。 ぼくはぼくで、ルカによる福音書の、イ…

479「先生になるには」・・・・・「せんせい。」(重松清、新潮文庫、2011年)

「泣くな赤鬼」という先生モノの映画を観たら、この短編集に原作が収められていると知り、手に取ってみました。タイトル通り、先生が出てくるお話しばかり。 「学校の先生って、生徒をほめてあげることが仕事だと思うけど」(p.218)。 ぼくも、時々先生をして…

478 「ぴーひょろろ」・・・・「とんび」(重松清、角川文庫、2011年)

母に早く死なれ、父に去られた男が、ご近所さんや坊さんに育てられ、やがて、結婚。男の子が生まれる。けれども、妻も早くに死んでしまう。 そんな男の子育て物語。というか、父親になっていく物語かもしれない。NHKと民放でテレビドラマ化され、それぞれ、…

477 「世界の根源のメディアにされた画家」 ・・・「ゴッホと〈聖なるもの〉」(正田倫顕、新教出版社、2017年)

477 「世界の根源のメディアにされた画家」 「ゴッホと〈聖なるもの〉」(正田倫顕、新教出版社、2017年) ゴッホの「絵画には自己の内にも外にも位置づけられない〈聖なるもの〉が横溢していた。教会、イエス、太陽を貫く共通のリアリティはヌーメンであっ…

476 「神学はいつも人間解放を目指す」・・・「アメリカ現代神学の航海図 栗林輝夫セレクション2」(栗林輝夫、新教出版社、2018年)

「搾取と抑圧の現実を生きる人々にとって、『進化する神』や『全宇宙の根源』といった神の概念がどれほど解放的になるのかはまだまだ不透明である」(p.360)。栗林先生はプロセス神学をこのように評価する。 「ポストモダンの神学論議の落とし穴は、日本も含…

475 「詩人は偶像崇拝を斥ける」・・・「別冊NHK100分de名著 読書の学校 若松英輔 特別授業『自分の感受性くらい』 (教養・文化シリーズ)」(若松英輔、NHK出版、2018年)

偶像崇拝はどうして禁じられるのでしょうか。それは、神ではないものを神として崇めるからです。たとえば、信仰のように見なされるものでも、それがある時期の自分の思いに固執することであり、自分の奥底につねにあらたに湧き出し続ける声(自分の声である…

474 「自分で自分を編集し続けた生涯」・・・「鶴見俊輔伝」(黒川創、新潮社、2018年)

474 「自分で自分を編集し続けた生涯」 「鶴見俊輔伝」(黒川創、新潮社、2018年) 鶴見俊輔は、自分が経験したことや本で読んだことなどをほとんど忘れない記憶力の持ち主だったという。たとえば、「思想の科学ダイジェスト」を編集する際も、二千にのぼる…

473 「差別の根っこと新しい分析」・・・「福音と世界2019年6月号」

特集は「『差別』再考」。 ぼくが差別者であることをあらためて「確認」し、また、差別の「あらたな分析」に触れることができ、まさに「再考」であった。 たとえば、パラリンピック・キャンペーンに見られる、障害は「克服される」べきことであり、障害者は…

472 「キリスト教は古代ヨーロッパのwww.」

「世界史の新常識」(文藝春秋編、文春新書、2019年) 共通一次試験は倫理・社会と政治・経済を選択した。世界史は授業は受けたが、ほとんど身につけていない。そんな人間にも世界史を学びたい年齢が来た。この手の本にも手が伸びる。 同僚の世界史の先生に…

471 「教皇の二本柱:イエズス会精神と民衆」

「教皇フランシスコ キリストとともに燃えて――偉大なる改革者の人と思想」(オースティン・アイヴァリー (著), 宮崎修二 (翻訳)、明石書店、2016年) 教皇フランシスコには、ふたつの柱がある。ひとつは、イエズス会の霊性(信仰、宗教精神)であり、もうひ…

470 「授業や宿題で詩を書かされるのが嫌な中学生に」

「詩を書くってどんなこと?: こころの声を言葉にする (中学生の質問箱)」(若松英輔、 平凡社、2019年) ぼくは、何人かの人の前で話をする仕事をしています。ある人びとは、ぼくの話をつまらないと思うようです。けれども、ある人びとは、ぼくの話に慰めら…

469 「哲学者の、到達した場所ではなく、歩んだ道」

469 「哲学者の、到達した場所ではなく、歩んだ道」 「考える教室 大人のための哲学入門」(若松英輔、 NHK出版、2019年) 哲学者の名前や用語をすらすら並べるのは、カッコよく見え、自分もそうなりたいと思って、入門書を手にする人も少なくないでしょう。…