誤読ノート
言語はひとつのものをひとつのままで表すことはできません。言語はものごとを細かく分けます。分節します。しかし、分節されたものを足し合わせてもひとつのものにはなりません。言語で言い表されるものだけが分節として残りますが、それ以外は捨てられるか…
釈さんは浄土真宗、若松さんはカトリック。この二人が「宗教の本質」ということで書簡を交わしているのだから、これは二十世紀後半から宗教界で言われてきた「宗教間対話」と呼ばれるもののひとつではないでしょうか。しかし、これはそれぞれの宗教を紹介し…
核兵器や原子力発電など、原子力は人類や地球に決定的破滅をもたらす脅威を持っている。この破滅を回避するにはどうしたらよいのか。本書では原子力を科学技術だけでなく、人間の哲学の課題として考察する。原子力には生命を絶滅させる可能性と力がある。原…
「例話集」とありますが、キリスト教思想の具体的な適応例が読めるのではなく、じっさいは、副題のとおり、「命題集」です。いくつかのテーマごとに、神学者や関連する哲学者の命題、それらをめぐる金子先生の解題が記されています。「人間とは何か」の章に…
今年出た「1945年に生まれて──池澤夏樹 語る自伝」を読んで、「ぼくはあと何年生きるかわからないが、できれば、死ぬまでに池澤の小説を全部読もう」と思い立ち、「まずはこれ」ということで読んでみました。これまでに「また会う日まで」「カデナ」「双頭の…
イエス・キリストが十字架につけられ死んでよみがえったことで人間は救われる、と一般的なキリスト教は唱えます。 しかし、イエスはローマ帝国によって死刑にされた、つまり、殺されたのであり、人間が救われるために、誰かが暴力を受けなければならないのか…
今年出たゲド戦記の最終巻「火明かり」を読んで、シリーズを最初から読み直したくなりました。第一巻を最初に読んだのは20年前。結末は覚えていましたが、全体のストーリーはほとんど忘れていました。ただ、「ファンタジー」に位置付けられることはあっても…
上巻に続くこの下巻では、第二イザヤ(40~55章)と第三イザヤ(56~66章)が取り扱われています。そして、第二イザヤは「主の僕」、第三イザヤは「主の僕たち」を中心に説き明かされています。さて、第二イザヤの「主の僕」が誰かということについては、「最…
監訳者の宮田光雄さんはこう記しています。 「具体的な現実の状況を眼前にして、『倫理』草稿では、基本的に、固定的・原則的・無時間的な〈規範倫理〉を越えて神の戒めに応答する〈状況倫理〉が展開されていく」(p.702)。つまり、ヒトラーに率いられるナチ…
旧約聖書と新約聖書はこれら全体を貫くようにして、神の救いを物語っている。本書のテーマのひとつはここにあると言えるでしょう。「祝福とは、祝福する者と祝福を受ける者との関係が「正常化」されており、その相互の交わりにおいて初めて可能となるもので…
誤読ノート882 「小さな脳ではなく、広い世界で考える」 「1945年に生まれて――池澤夏樹 語る自伝」(著者:池澤夏樹、聞き手・文:尾崎真理子、2025年、岩波書店) 井上ひさしの小説、エッセイはすべて読んだ。残りの人生において、今度は、池澤夏樹の書いた…
小友先生は旧約聖書学者ですが、本書では、愛、義、契約、信仰、復活といった聖書の「ことば」が、ひじょうにわかりやすく、また、興味深く解き明かされています。 「契約による救済がイスラエルに限定される一方で、救済から除外される人々が救いに招かれま…
社会学の入門書として、これは良書だと思います。社会学を学ぶには、知的関心や学者になるためなどということより、副題にあるように、まさに「差別をこえるために」という動機が適切であると考えます。ぼくはマイノリティ問題に関心の深い専門学校で専門外…
ハンス・ヨナスは、ハイデガーの弟子で、アンナ・ハーレントの友人で、ブルトマンのゼミ生で、そこに、荒井献もいたようです。本書では、テクノロジー、生命、人間、責任、未来への責任、神をヨナスがどのように論じたか、著者の戸谷さんが紹介しています。…
日本語は主語があいまいだが、英語ははっきりしている、とかつて習った。そして、動詞の主語と目的語を入れ替えると、能動態から受動態になると。ところが、言葉は動詞からではなく名詞から始まった、とこの本は言っている(ように思う)。「ぼくがあなたを…
ぼくは、傷つきやすい人間である、あるいは、自分は傷ついたと思いやすく、自分が傷ついていると思うことに気持ちのよさを覚えてしまう人間である、と思います。 ですから、数十年前、この本のタイトルにも強く惹かれたのだと思います。しかも、自分が傷つい…
キリスト教の長い歴史を学ぶことによって、わたしたちは時間軸に沿った歴史だけでなく、現在の世界空間にある多様なキリスト教と信仰者を鳥瞰することもできるでしょう。宗派・教派、教義、さらには、個々の信仰者の違いを、どれが正しい、どれが本当として…
「少年文庫」とありますが、ぼくがゲド戦記の第1巻を読んだのは40歳前後だったと思います。そして、そのテーマも「少年」だけに限られるものではありませんでした。 この別冊には「オドレンの娘」「火明かり」の物語二作と、「アメリカ人はなぜ竜がこわいか…
傷つきやすく、傷つけやすい、わたしたちの日々の生活の中で、参考になりそうなことを抜き出してみます。「現代社会ではみんなが、二股、三股の人間関係を同時進行させているので、相手の反応がそのまま自分に対する反応であるとは限りません・・・そのとき…
本書の著者の戸谷さんによると、ハイデガーは「存在と時間」で、「存在するもの」ではなく「存在」そのものを論じようとし、そのために、まず、人間の「存在」の仕方を論じた、しかし、それで終わってしまい、存在そのものについては論じずじまいだそうです…
2年前に読んだ本なのに、それを忘れて、また買ってしまいました。さいわい、中身もほとんど忘れていたので、楽しく読めました。今回は「精神」と「信仰」の二点をノートしたいと思います。「精神とは何か。一言でいうとそれは「私たち」のことです。私たちは…
「誰にでもできます」とこの本の帯で著者は言っていますが、オープンダイアローグはやはり病院、精神科医、カウンセラーのいる場でなされることがほとんどのようで、この本の事例もそういう場でのものです。 けれども、子どもや他の人との会話においても、参…
題は難しく聞こえますが、「対話ごときでなぜ回復が起こるのか」という副題に惹かれて、読むことにしました。 ただし、「なぜ」、つまり、論理的な部分は、やはり難しくて理解できていないところが多々あるので、オープンダイアローグと呼ばれる「対話」のや…
本書では、日本国内や世界の政治問題、社会問題が取り上げられていますが、山崎さんは「これらはすべて、我々市民の暮らしに直接関わるもの」(p.309)だと言います。具体的には「第1章 倫理的崩壊の危機」「第2章 地に落ちた日本の民主主義」「第3章 教育シス…
「愛しい」を「かなしい」と読むことがある、と聞きました。本書を読んで、これを想いました。 本書は「理不尽な「今」を生きる哲学」シリーズの第2巻ですが、「シリーズ巻頭言」では、「大切なのは「見所(客席)の素人は、何を観ているのか?ということ」(…
柄谷行人の「力と交換様式」のことを初めて聞いたのは2018年ころでしたか、神学者の福嶋揚さんを通してのことでした。そのころは「力と交換様式」はまだ出ていなくて、福嶋さんも柄谷さんの「世界史の構造」からそれを語ってくださいました。 その後、福嶋さ…
差別とはどういうことでしょうか。それに抗うとはどういうことでしょうか。この点に絞って、本書から、いくつかの言葉を抜き出してみます。「日本の学問のパラダイムを決定するのは論理的正しさや論文生産技術でさえなく、たんなる気分なのです。もっと正確…
人の中には仏の姿がある、と聞いたことがあります。あるいは、旧約聖書の創世記には「神は御自分にかたどって人を創造された。神にかたどって創造された」とあります。この本で言われている〈尊厳〉は、人の中にあるという仏の姿、あるいは、人の中にある「…
信田さんの本を読むのはひさしぶりです。30年以上前だと思いますが、はじめて信田さんの本を読んだ時、自分の心の問題に入っていくと社会の問題から離れてしまうのではないかという懸念が、解消されました。信田さんは、人の生きづらさの問題を権力的な人間…
ひとつは、クラウス・ヴェスターマンの名前がなつかしくて、読むことにしました。この方は、1909年から2000年まで生きたとのことで、ぼくが神学部生だった1980年代は70代だったことになります。また、ドイツで学んだぼくらのゼミの教授もよくこの名前を出し…