誤読ノート

787 「剣を鍬(くわ)に、槍を鎌に」 ・・・ 「世界で最初に飢えるのは日本  食の安全保障をどう守るか」(鈴木 宣弘、講談社、2022年)

日本住民の生活の安全を守るには、戦闘機一機の購入費用を、農業支援に回したほうがよい、と著者は言う。 住民が安全な食料を口にするためには、農作物は自由市場の商品ではだめだ。消費者に安全な食料がそんなに高くない価格で届き、かつ、生産者の収入が保…

786 「ひとつの考えにこだわらず共存、自己創造」・・・「100分de名著 偶然性・アイロニー・連帯 ローティ」(朱喜哲、NHK出版、2024年)

哲学とは何でしょうか。と、哲学の入門書などにはいろいろ書いてありますが、最近、淡野安太郎「哲学思想史」を読み始め、さらに、「100分de 名著」のこの巻の最初の方にある「西洋哲学の歴史」という項目を読んで思ったことは、ぼくにとって、哲学とは、哲…

785 「警告と希望 21世紀のエレミヤ」・・・「レジリエンスの時代 再野生化する地球で、人類が生き抜くための大転換」(ジェレミー・リフキン、2023年、集英社)

著者は、地球の生態系危機を警告する一方で、それを克服する希望も示す。 地球の水、空気、土は、ひたすら「成長」を目指す産業、企業によって、収奪され、汚染されている。これはかなり前からすでに言われてきた。しかし、かつては公害はある意味地域的なも…

784 「ある批評家の揺籃期」 ・・・「藍色の福音」(若松英輔、2023年、講談社)

若松さんは、大学卒業のころだろうか、神経を病んだ、と言う。 「原因は実社会で働くことへの怖れもあったのだろうが、それは、ある意味で表層の理由に過ぎない。逃げようとしていたのは、自分自身からだった。ただ、そのことが実感できるまで、短くない時間…

783 「畦。あぜ? うね?」・・・ 「農は過去と未来をつなぐ――田んぼから考えたこと」(宇根豊、2010年、岩波ジュニア新書)

この新書シリーズから著者が出しているもう一冊の本を読んだ後のノートを公開したところ、「あ、宇根さんだ」というコメントをいただきました。何冊も本を出しておられるし、「宇根豊さんってこの世界では知られた人なのだな」くらいにしか思わなかったので…

782 「農村は国家や企業のためにあるのではない」・・・「日本の農村社会とキリスト教」(星野正興、日本キリスト教団出版局、2005年)

幕末までの農村社会には、自治と自由があったが、それ以降、貧しくされてきた、と著者は言う。 ひとつは、地租改正による。穫れ高に関係なく地価に基づいて金で納税しなくてはならなくなった。また、入会地、草刈場のようにもともと共有地であったものが官有…

781 「神学などと言わず、証しと言おう」 ・・・「証し 日本のキリスト者」(最相葉月、KADOKAWA、2022年)

キリスト教の牧師を30年近くやっているが、ぼくの話は「証し」ぽくない。難解な理屈っぽいことは語らないが、「ぼくはこう信じている」というよりは「聖書によれば、神はぼくたちにこうしてくださる」ということを中心に述べる。 具体的には、神は無条件でぼ…

780「世界的規模の思想とつながっていくキリスト教思想の展開を」・・・「農村伝道神学校創立70周年記念誌 荒野を拓く」(2022年)

「農の神学」というZOOMミーティングを、広島の山間部に移住した友人の牧師らと月一くらいで細々とやっている。 これに刺激され、またメンバーのひとりに紹介され、今かなり売れているらしい「レジリエンスの時代 再野生化する地球で、人類が生き抜くための…

779 「地球を破壊する資本主義産業、それを支える政治、二元論思考。これに立ち向かうための35のポイントや抜粋」・・・

「資本主義の次に来る世界」(ジェイソン・ヒッケル、2023年、東洋経済新報社) 生命圏としての地球はまもなく破壊され尽くされます。その原因は成長を追求し続ける資本主義産業社会とそれを支える政治にあります。格差を今よりずっと縮める政治ぬきに地球の…

778 「善は個人の美徳なのでしょうか」 ・・・ 「RITA MAGAZINE テクノロジーに利他はあるのか?」(伊藤亜紗/中島岳志/北村匡平/さえ/砂連尾理/三宅美博/三宅陽一郎/稲谷龍彦/藤原辰史/真田純子/塚本由晴/ドミニク・チェン/山本真也/小林せかい/磯﨑憲一郎/木内久美子/國分功一郎/山崎太郎/若松英輔、2024年、ミシマ社)

ソウルメイトから紹介されて、ソクヨミしました。対談とか講演とかだし、東京工業大学関係とは言え、論文集ではなく、MAGAZINEなので、とても読みやすかったです。 最近読んだ「資本主義の次に来る世界」とか「レジリエンスの時代」とか「旧約聖書と環境倫理…

777 「アーメン、ぼくも信じます」 ・・・「ことばのきせき」(若松英輔、2024年、亜紀書房)

若松英輔さんの詩は読みやすい。ぼくは読めていないのかもしれないが、読んでいるようにも思う。 若松さんが紹介するリルケの詩はぼくには読めない。むずかしい。でも、あそこに書かれていることは若松さんがこの詩集で書いていることと同じことなのかもしれ…

776 「格差、差別、戦争、汚染、絶滅を乗り越えるカフェを」 ・・・ 「食べものから学ぶ世界史: 人も自然も壊さない経済とは?」(平賀緑、2021年、岩波ジュニア新書)

「世界史」をふりかえると、人間の口に入る「食べもの」は、支配者の都合によるものだったことをこの本は教えてくれます。 小麦、大麦、コメ、トウモロコシが主食とされたのは、長期間保存、貯蔵、輸送ができたので、支配者の富の蓄積に好都合でした。地中に…

775 「精神科臨床医のおそるべき言語教養」・・・ 「私の日本語雑記」(中井久夫、2022年、岩波書店)

「私は「負うた子に教えられ」を「大蛸に教えられ」と誤解して、どんな蛸かと思っていた時期もあった」(p.153)などというとぼけた一節もあるから、やはり「雑記」でもあるのかもしれない。あるいは、著者にとっては何かを論説しているつもりはないのかも知れ…

774 「あなたも、少しでも今より伝わるお話ができるかも」 ・・・ 「聖書のお話を子どもたちへ」(小見のぞみ、日本キリスト教団出版局、2024)

子どもたちの前での説教が苦手で(むろん、大人たちの前でもそうですが)、この本を読んでみることにしました。すると、子ども説教のみならず、大人説教の参考になることがたくさん書かれていましたので、以下に箇条書きします。 〇「物語る」ことは、原稿や…

773 「旧約聖書には人間と神以外の人格が存在する」・・・「旧約聖書と環境倫理: 人格としての自然世界」(マリ・ヨアスタッド (著)、魯 恩碩 (翻訳)、教文館、2023年)

誤読ノート773 「旧約聖書には人間と神以外の人格が存在する」 「旧約聖書と環境倫理: 人格としての自然世界」(マリ・ヨアスタッド (著)、魯 恩碩 (翻訳)、教文館、2023年) 旧約聖書にみられる以下のような記述は、擬人法ではない、と著者は言います。 「…

772 「食品を知れば、現代世界四大問題がわかる」・・・ 「食べものから学ぶ現代社会 私たちを動かす資本主義のカラクリ」(平賀緑、2024年、岩波ジュニア新書)

これの少し前に「食べものから学ぶ世界史」というのも出ていますから、高校の科目を題名に入れてやろうというシリーズなのでしょうね。つぎは、「食べものから学ぶ日本史」「食べものから学ぶ政治経済」「食べものから学ぶ倫理社会」「食べものから学ぶ地理…

771 「聖書を農で読むヒント」・・・ 「農はいのちをつなぐ」(宇根豊、2023年、岩波ジュニア新書)

「農村伝道神学校」というところで、ぼくは学者でもないのに、非常勤講師をさせていただいています。担当クラスで学ぶことは、むろん、農にかかわるものではなく、キリスト教の基本的な信仰内容です。 それから、広島の山間部に移住して農にとりくんでいる友…

769 「老いる読者へのちょっとステキな配慮」 ・・・「夕暮れに、なお光あり 老いの日々を生きるあなたへ」(小島誠志、川崎正明、 渡辺正男、 島しづ子 、上林順一郎 、キリスト新聞社、2023年)

70代もできれば元気に過ごすためには、今から健康にと、15キロのダイエットを達成し、週二日は40分、それ以外にもなるべく歩くことを心がけてきましたが、この冬、血圧が高いのはちょっと残念。 同業の、ひとまわりくらいか、先輩方はどうしておられるのでし…

誤読768 「バルトの修辞と倫理と無償の神」・・・ 「カール・バルト《教会教義学》の世界」(寺園喜基、2023年、新教出版社)

一番目。バルトは神学概念の定義に長けている。定義はむろん言葉でなされるが、その言葉には一定のリズムがある。あるいは、異なる二つのことの重ね合わせ、並列などの表現が用いられる。 たとえば・・・ 「聖書神学は教会の宣教の基礎づけを、実践神学はそ…

766 「思うこと:意識することと共感すること」・・・「新しい「教育格差」」(増田ユリヤ、講談社現代新書、2009)

著者と同じ時期に同じ高校で非常勤講師として勤めていたことがあります。話したことはありませんが。著書は1~2冊読んだことはあります。テレビではよくお見掛けします。 この高校での先輩教員が、こんな本があるよ、と紹介してくれたので、読んでみることに…

765 「ろくに働かず、読に遊ぶ」 ・・・ 「猫楠 南方熊楠の生涯」(水木しげる、1996年、角川文庫)

ぼくは子どものころ高等農林出の親父の口から南方熊楠は大人物だと聞いたことはありましたが、どういう人か本などで知ろうとしたことはありませんでした。 NHKの朝ドラ「らんまん」は植物学者牧野富太郎の生涯をモデルにしていましたが、これにこの粘菌学者…

764 「小説風を目指した神学談義」・・・「パウロの弁護人」(タイセン著、大貫隆訳、2018年、教文館)

著者は小説の形で、パウロやイエスについての考えを伝えようとしていますが、ストーリー性に富んでいるわけではありません。 紀元60年過ぎ、ローマ在住のエラスムスというローマ人(?)はパウロの弁護人になるように持ち掛けられます。彼にはハンナと言うユ…

763 「右手に聖書、左手にiPad」 ・・・ 「シネマで読む旧約聖書」(栗林輝夫、2003年、日本キリスト教団出版局)

学生に大好評だった一般教養科目「キリスト教学」の講義を下敷きに、栗林輝夫さんが旧約聖書の各書物のフレーズが出てくる映画と聖書を解説した一冊。 「屋根の上のバイオリン弾き」「ジュラシックパーク」「ドラえもん」「ふしぎの海のナディア」「タワーリ…

761 「共有、民主、平等の世界を目指して」・・・「ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた」(斎藤幸平、KADOKAWA、2022年)

この本では、非正規雇用労働、五輪の暴力、電力、食、気候不正義、外国人労働者、野宿者差別、水俣病、水平社、被災地、アイヌ・・・このような「社会問題=社会ゆえに生じそれゆえに社会の枠組みで考えなければならない問題」が挙げられています。 ぼくは、…

760 「今まで知らない!!キリスト教」 ・・・ 「今さら聞けない!? キリスト教 古典としての新約聖書編」(前川裕、教文館、2023年)

タイトルから、キリスト教のイロハの案内かと思われるかもしれません。たしかに、「第1章 新約聖書とは何か」「第2章 イエス」「第3章 パウロ」などの章立ては基礎的な事柄に思われますが、「本の素材」「本の形態」「本の製作と流通」を述べる「第8章 新約…

誤読ノート758 「売るために必要以上に作るのはもうやめて、今あるものをわかちあいましょう」  ・・・ 「マルクス解体 プロメテウスの夢とその先」(斎藤幸平、講談社、2023年)

世界の環境をこれ以上悪化させず、自然資源を枯渇させず、世界の生物(人間を含む)を絶滅させないためにはどうしたらいいのでしょうか。 マルクスにはそのような思想がなかったので参考にならない、という声が支配的でしたが、「資本論」だけでなく、彼の残し…

757 「記憶、希望、そして、その弁証法」・・・「人を育むみことば 教育のモデルとしての旧約聖書」(W. ブルッゲマン、2023年、日本キリスト教団出版局)

この本の主張は、聖書の言葉が人を育てる、ということよりも、旧約聖書の「律法」、「預言者」、「知恵(文学)」という三つの文学形式の各機能と相互作用が教育のモデルになる、ということでしょう。ちなみに「預言者」は人のことでもありますが、預言文学を…

756 「ユダヤ人を信仰なき自力救済者に仕立て上げない」 ・・・ 「ユダヤ人も異邦人もなく パウロ研究の新潮流」(山口希生、新教出版社、2023年)

人間は神の前で罪人である。人間は自分の力では罪から救いへと行くことはできない。ただ、イエス・キリストにおいて現れた神の恵みによってのみ人間は救われる。パウロの言う救い、ひいては、聖書の伝える救いとは、そのような「無償の贈り物」である。アウ…

755 「ぼくたちが探していた言葉とは何だろう」 ・・・ 「ひとりだと感じたときあなたは探していた言葉に出会う」(若松英輔、亜紀書房、2023年)

「探していた言葉」とはどのような言葉だろうか。 「人生の始まりを告げる言葉は、生の根源へと導くものでもあるから、ここでは、根源語と呼ぶことにする」(p.8)。 「探していた言葉」は「根源語」であろう。 ここでいう人生とは、「生活は水平的な方向のな…

754 「神さまを語る言葉の感性」 ・・・「CREDO: わたしは信じます、わたしたちは信じます」(教皇フランシスコ (著), マルコ・ポッツァ (著, 翻訳), 阿部仲麻呂 (翻訳, 解説)、2022年、ドン・ボスコ社)

「初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった」(ヨハネによる福音書1:1)。 この「言(ことば)」と訳されたもともとのギリシャ語はロゴスという単語で、「言葉、理性、世界の根本原理」というような意味だそうですが、本書の訳者の阿部さんはこ…