2017-05-01から1ヶ月間の記事一覧

379 「子どもたちに伝えるべきは、考え続ける生き方」

「みかづき」(森絵都著、集英社、2016年) 自宅の一室から始まり、やがて、千葉県を代表するようになったある塾とある家族、ある男女の五十年。昭和で言えば三十年代半ばから、平成で言えば二十年代半ばまで。塾も変われば、家族も変わる、男女も変わり続け…

(62)「ひとりひとりにあわせてささやかれる愛」

先日、ある家庭の食卓で、高校生の子どもがこんなことを言ったそうです。「今度の中間、やべえよ。ゲンブンとエイヒョーとコミュエー、サイテー」。 意味がわかるでしょうか。「今度の中間、やべえよ」とは、「今度の中間テストの結果が不安だ」という意味の…

52   「あなたのあの人を」

あなたの父母を敬え あなたの姉妹を大事にせよ あなたの兄弟を大切にせよ あなたの祖父母を労われ あなたの子の言葉に聞け あなたの孫の教えに従え あなたの友を好きになれ あなたの同僚と仲よくせよ あなたの隣人を慈しめ あなたの恋する人を愛おしめ あな…

(61)「見させる者から、見遣る者へ」

子どもたちに見せたいものがあります。興味本位の見物ではありません。知ってほしいことがあるのです。被災地のこととか、子ども食堂のこととか、沖縄の米軍基地のこととか、あるいは、人生にはいろいろな選択肢や可能性があることとか。すばらしい文学や音…

[誤読ノート]378 「憎しみが愛に変えられる未来が必ず来る。ならば

誤読ノート378 「憎しみが愛に変えられる未来が必ず来る。ならば、それを希望として、今から先取りしてそのように生きようではないか」「希望の倫理」(ユルゲン・モルトマン著、福嶋揚訳、新教出版社、2016年) 米軍基地建設、安保法制、原発再稼働、共謀罪…

(60)「いいねやすごいねをもらわなくても大丈夫です」

ある高校の先生が言っていました。四月になるとクラスがあたらしくなり、生徒同士の関係は、最初はぎこちなかったり、不自然だったりするそうです。ところが、五月、六月になり、「おちのない話」ができるようになると、それが、打ち解けてきた証拠になると…

377  「母の胎は最初の環境であり、環境汚染は差別です」

「金と銀 私の水俣学ノート」(原田正純、講談社、2002年)「子宮は環境である。環境を汚染することは未来のいのちを汚染することになる」(p.218)。 チッソ水俣工場は排水口を通して水俣湾を毒物で汚染しました。そして、そこで獲れる魚介を食べることで毒物…

(59)「目に見えない神を垣間見るためのレンズ」

「レ・ミゼラブル」(「ああ、無情」)という小説はとても有名ですが、文庫本で全四巻にわたる長編であり、ストーリーの展開や場面描写、登場人物のせりふ以外に、著者ヴィクトル・ユゴーの哲学や思想の展開が延々と続くので、作品そのものを読んだことのあ…

51   「大いなる安息の日を待ち望め」

つねに神の安息に生きよ そのために安息の日を覚えよ 六日働いたならば 七日目は安息にささげよ 神があなたにその日を与える あなたはその日を神にささげ返せ その日、あなたは 静かに祈れ 口を閉じよ 思いを止めよ ただ安息に耳を傾けよ ただ安息に全身を委…

376  「池澤夏樹が墓を塞ぐ大きな石を転がしてみせた」

「キトラ・ボックス」(池澤夏樹、角川書店、2017年) 「キトラ」という語にはなにか異国情緒を感じていたが、「北浦」が転じたという有力な説があるようだ。奈良のキトラ古墳。 最初に耳にしたのは小学校の授業で習う仁徳天皇陵といわれる前方後円墳。これ…

(58)「死者は遠くに行ってしまい、しばらく会えない、のではありません」

死んでしまった人は、今いったい、どこにいるのでしょうか。わたしたちは、「あの人は遠いところに行ってしまった」とか、「空の高いところから見守っていてくれる」などと口にすることがあります。死者との距離を感じているのです。 その人とはどうしたら会…

375  「ジャン・ヴァルジャンはあるキリストだった」

「『レ・ミゼラブル』の世界」(西永良成、岩波新書、2017年) レ・ミゼラブルのストーリーの内部と、ナポレオン一世、三世の時代のフランスや作者ユゴーという物語の背景あるいは外部。このふたつがこの一冊にコンパクトにまとめられています。 簡潔に、と…