2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

535 「経営側の抑圧にもかかわらず、まぶしい教育実践を遂げる生徒たち、教師たち」・・・「教師はあきらめない」(三木ひろ子著、新日本出版社、2020年)

驚くようなパワーハラスメントを長年にわたって受けながらも、いっぽうで雇用者側の虐待と不正と闘い、たほうで生徒たちの現在と未来を願い続けた教員たちがいることに深い感銘を受けました。どうじに、20年近く非常勤の高校講師をしながら、彼女たちの何十…

534 「悪いことばかり考えてしまう、ということを考えることの救い」・・・「パスカル『パンセ』(NHK100分de名著)」(鹿島茂著、NHK出版、2012年)

パンセとは「考え」という意味です。 パスカルは「考えることが人間の尊厳のすべて」と「パンセ」の中で述べています。 では、人間は何を考えるのでしょうか。人間は自分の不幸、そして、究極的には、自分がやがて死んでしまうということを考えますが、それ…

533 「近くの情念ではなく、遠くの死者を見よ」・・・「アラン『幸福論』(NHK100分de名著)」(合田正人著、NHK出版、2011年)  

人が不幸になる――幸福になれない――のは、「情念」に支配されているからだとアランは言います。情念を制御するには「高邁の心」が必要ですが、これは傲慢にもならず卑下もせず自分を大事にする心のことです。「悲観主義は感情で、楽観主義は意志の力による」…

532 「恨みを乗り越え、創造的に」・・・「ニーチェ『ツァラトゥストラ』(NHK100分de名著)」(西研著、NHK出版、2011年)

「あの人のしたあのことは赦せない」「あの人があんなことをしなければ、ぼくはこんなひどい目に遭うことはなかった」「ぼくは苦しい。あの人にあれだけは認めさせて謝らせるしかない」 こういう恨み言、復讐心、ニーチェの言葉ではルサンチマン、を持ちつづ…

531 「哲学のやさしさ」・・・「西田幾多郎『善の研究』(NHK100分de名著)」(若松英輔著、NHK出版、2019年)  

哲学はやさしい。しかし、哲学は難しいと思われている。カタカナや漢字の抽象的な用語。用語と用語の間の複雑な結びつき。それらを述べる文章のわかりにくさ。 西田幾多郎「善の研究」も難読書と言われている。幾多郎の「幾」は幾何学を連想させるし、「善」…

530 「ファシズムの潜入と急襲」・・・「供述によるとペレイラは……」(アントニオ・タブッキ著、須賀敦子訳、2000年、白水社)

小説の舞台は1930年代。ファシズムはポルトガルの一新聞記者をも見逃さなかった。 ファシズムは、さいしょは、姿を見せない。密かに忍び寄り、得体のしれない不気味さを漂わせるだけだ。 しかし、それは、ある日、姿を現す。知性のない、しかし、反論を許さ…

529 「こころは宇宙大」・・・「中井久夫との対話 ―生命、こころ、世界―」(村澤真保呂、村澤和多里、河出書房新社、2018年)

誤読ノート529 「こころは宇宙大」 「中井久夫との対話 ―生命、こころ、世界―」(村澤真保呂、村澤和多里、河出書房新社、2018年) 黒船などという想像を絶する正体不明のものが現れこれまでの社会の確実性がなくなり、その社会と自分の精神との結びつきも崩壊…

528 「須賀敦子が霧の彼方に見たものは」・・・「霧の彼方 須賀敦子」(若松英輔、集英社、2020年)

須賀敦子と言えば、イタリアに造詣の深いエッセイスト、小説家、翻訳家、といったイメージが強いのではなかろうか。 けれども、本書では、須賀の霊性がゆっくりと味わわれている。 須賀も、そして、著者の若松英輔さんも、キリスト教はカトリックに属する、…

527 「共通の目的に異なる道で ブルトマンの意外な学生たち」・・・「漂泊のアーレント 戦場のヨナス ふたりの二〇世紀 ふたつの旅路」(戸谷洋志、百木漠、慶應義塾大学出版会、2020年)

全体主義は何百万人も殺した。それはその人たちがこれから展開するはずだった人生のさまざまな可能性を奪うことであった。 テクノロジーも同じ結果を招くかもしれない。たとえば、出生前検査によっては出生そのものが阻止されうるし、遺伝子操作によって親の…