2023-01-01から1年間の記事一覧

767 「神さまの愛が伝わるには」 ・・・ 「キリスト教とローマ帝国 小さなメシア運動が帝国に広がった理由」(ロドニー・スターク、2014年、新教出版社)

イエス・キリストがユダヤ、ガリラヤで活動したのが紀元(AD)30年くらいまでですが、その後、キリスト教会が生まれ、成長します。信者は、紀元40年頃には1000人程度だったのが、紀元350年頃にはローマ帝国の人口の過半数である3400万人に達した、とする説が…

766 「思うこと:意識することと共感すること」・・・「新しい「教育格差」」(増田ユリヤ、講談社現代新書、2009)

著者と同じ時期に同じ高校で非常勤講師として勤めていたことがあります。話したことはありませんが。著書は1~2冊読んだことはあります。テレビではよくお見掛けします。 この高校での先輩教員が、こんな本があるよ、と紹介してくれたので、読んでみることに…

765 「ろくに働かず、読に遊ぶ」 ・・・ 「猫楠 南方熊楠の生涯」(水木しげる、1996年、角川文庫)

ぼくは子どものころ高等農林出の親父の口から南方熊楠は大人物だと聞いたことはありましたが、どういう人か本などで知ろうとしたことはありませんでした。 NHKの朝ドラ「らんまん」は植物学者牧野富太郎の生涯をモデルにしていましたが、これにこの粘菌学者…

764 「小説風を目指した神学談義」・・・「パウロの弁護人」(タイセン著、大貫隆訳、2018年、教文館)

著者は小説の形で、パウロやイエスについての考えを伝えようとしていますが、ストーリー性に富んでいるわけではありません。 紀元60年過ぎ、ローマ在住のエラスムスというローマ人(?)はパウロの弁護人になるように持ち掛けられます。彼にはハンナと言うユ…

763 「右手に聖書、左手にiPad」 ・・・ 「シネマで読む旧約聖書」(栗林輝夫、2003年、日本キリスト教団出版局)

学生に大好評だった一般教養科目「キリスト教学」の講義を下敷きに、栗林輝夫さんが旧約聖書の各書物のフレーズが出てくる映画と聖書を解説した一冊。 「屋根の上のバイオリン弾き」「ジュラシックパーク」「ドラえもん」「ふしぎの海のナディア」「タワーリ…

762 「キリスト教信仰は一世紀からすでに多様であった」 ・・・「原始キリスト教の「贖罪信仰」の起源と変容」(大貫隆、ヨベル、2023年)

イエス・キリストの十字架の死によって、人間の罪が贖われた、罪の奴隷となっている人間が買い戻された、人間の罪が赦された。 キリスト教の信仰はこのような「贖罪信仰」を中心にする、と一般には思われているようですが、著者は、キリスト教の最初からこの…

761 「共有、民主、平等の世界を目指して」・・・「ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた」(斎藤幸平、KADOKAWA、2022年)

この本では、非正規雇用労働、五輪の暴力、電力、食、気候不正義、外国人労働者、野宿者差別、水俣病、水平社、被災地、アイヌ・・・このような「社会問題=社会ゆえに生じそれゆえに社会の枠組みで考えなければならない問題」が挙げられています。 ぼくは、…

760 「今まで知らない!!キリスト教」 ・・・ 「今さら聞けない!? キリスト教 古典としての新約聖書編」(前川裕、教文館、2023年)

タイトルから、キリスト教のイロハの案内かと思われるかもしれません。たしかに、「第1章 新約聖書とは何か」「第2章 イエス」「第3章 パウロ」などの章立ては基礎的な事柄に思われますが、「本の素材」「本の形態」「本の製作と流通」を述べる「第8章 新約…

759 「神ご自身の神義論:ご自分の正しさを問う神さま」・・・ 「八色ヨハネ先生」(三宅 威仁、文芸社、2023年)

主人公のモデルは存在せず、すべて創作です、と著者は明言していますが、著者が認めるように、小説の舞台のひとつである同志社大学神学部の、わたしも聞いたことのある、N教授の小話をネタにしたエピソードが出てくることもあり、ある書評では、モデルとして…

誤読ノート758 「売るために必要以上に作るのはもうやめて、今あるものをわかちあいましょう」  ・・・ 「マルクス解体 プロメテウスの夢とその先」(斎藤幸平、講談社、2023年)

世界の環境をこれ以上悪化させず、自然資源を枯渇させず、世界の生物(人間を含む)を絶滅させないためにはどうしたらいいのでしょうか。 マルクスにはそのような思想がなかったので参考にならない、という声が支配的でしたが、「資本論」だけでなく、彼の残し…

757 「記憶、希望、そして、その弁証法」・・・「人を育むみことば 教育のモデルとしての旧約聖書」(W. ブルッゲマン、2023年、日本キリスト教団出版局)

この本の主張は、聖書の言葉が人を育てる、ということよりも、旧約聖書の「律法」、「預言者」、「知恵(文学)」という三つの文学形式の各機能と相互作用が教育のモデルになる、ということでしょう。ちなみに「預言者」は人のことでもありますが、預言文学を…

756 「ユダヤ人を信仰なき自力救済者に仕立て上げない」 ・・・ 「ユダヤ人も異邦人もなく パウロ研究の新潮流」(山口希生、新教出版社、2023年)

人間は神の前で罪人である。人間は自分の力では罪から救いへと行くことはできない。ただ、イエス・キリストにおいて現れた神の恵みによってのみ人間は救われる。パウロの言う救い、ひいては、聖書の伝える救いとは、そのような「無償の贈り物」である。アウ…

755 「ぼくたちが探していた言葉とは何だろう」 ・・・ 「ひとりだと感じたときあなたは探していた言葉に出会う」(若松英輔、亜紀書房、2023年)

「探していた言葉」とはどのような言葉だろうか。 「人生の始まりを告げる言葉は、生の根源へと導くものでもあるから、ここでは、根源語と呼ぶことにする」(p.8)。 「探していた言葉」は「根源語」であろう。 ここでいう人生とは、「生活は水平的な方向のな…

754 「神さまを語る言葉の感性」 ・・・「CREDO: わたしは信じます、わたしたちは信じます」(教皇フランシスコ (著), マルコ・ポッツァ (著, 翻訳), 阿部仲麻呂 (翻訳, 解説)、2022年、ドン・ボスコ社)

「初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった」(ヨハネによる福音書1:1)。 この「言(ことば)」と訳されたもともとのギリシャ語はロゴスという単語で、「言葉、理性、世界の根本原理」というような意味だそうですが、本書の訳者の阿部さんはこ…

753 「ぼくしのふくし、ふくしのぼくし」 ・・・ 「どん底から見える希望の光―ともに生きる福祉の実践」(佐々木炎、2019年、キリスト新聞社)

カバーに「牧師×福祉」とあります。著者の佐々木さんは牧師の仕事と福祉の仕事をしておられます。「ぼくし」、「ふくし」。一文字しか変わりません。 本書には、副題の通り、「福祉の実践」が書かれているのですが、ぼくには、これはそのまま、「牧師の実践…

752 「真理とは、分離以前、未分のこと」・・・「宗教とその真理」(柳宗悦著、若松英輔監修・解説、2022年、亜紀書房)

「余は例えばキリスト教の存在がただちに仏教の非認であるとは思わぬ。一宗の存在がただ他宗の排斥によって保たれるのは醜い事実であろう。多くの宗教はそれぞれの色調において美しさがある。しかも彼らは矛盾する美しさではない。野に咲く多くの異なる花は…

751 「わかちあい大事にしあう価値観を、中に間に、〈埋め込む〉」・・・ 「コモンの「自治」論」(斎藤幸平他著、2023年、集英社)

誤読ノート751 「わかちあい大事にしあう価値観を、中に間に、〈埋め込む〉」 「コモンの「自治」論」(斎藤幸平他著、2023年、集英社) コモンとは、空気や水、教育、医療など、社会の共有財産のことである。自治とは、政治家、支配者、資本家など一部の者…

750 「未来のために、未来がなくなってしまった事態を今想定する」・・・ 「未来のための終末論」(大澤真幸、斎藤幸平、2023年、左右社)

学術論文や専門書は読んだことはないが、一般読者向けのものを読む限り、大澤は難しいが、斎藤はわかりやすい。 本書の前半は、ふたりの対談、後半は、大澤の考察。前半は読みやすいが、後半はやや難しかった。 印象に残った言葉。 「まず是正すべきは資本の…

749 「深河鉄道の夜明け」 ・・・ 「遠藤周作『深い河』を読む: マザー・テレサ、宮沢賢治と響きあう世界」(山根道公、日本キリスト教団出版局、2023年)

若松英輔さんの「日本人にとってキリスト教とは何か: 遠藤周作『深い河』から考える」を読み、ついで「深い河」そのものを読み、もう少し何かを読みたいと思っていたところ、本書を見つけた。 「深い河」がじつに深く解き明かされている。遠藤の生涯や諸作品…

748 「新約聖書を読む現代」 ・・・ 「新約聖書の時代: アイデンティティを模索するキリスト共同体」(浅野淳博、教文館、2023年)

じつにおもしろい。とても読みやすい。ぼくは、本は数冊並行読みするのだが、この十日間はこの一冊に集中した。 紀元30年ごろ、イエスが「神の国」運動をなした。それに何らかの意味でつながる、ユダヤやギリシャ諸王朝、ローマ帝国の歴史。イエスの運動の歩…

747 「イエスの原像は大河ドラマのごとく」・・・ 「イエスの福音 それは本当は何だったのか」(J. M. ロビンソン、新教出版社、2020年)

ある人物の像は伝わる過程で、雪だるまのようになっていく場合がある。雪だるまの中心には何があったのか。イエスの人物像の場合、雪だるまと違い、雪以外のもの、つまり、イエスそのものが存在する。 本書では、イエスは、もともとどういうことを訴え、どう…

746 「キリスト教の断捨離、あるいは、愛の剃刀」 ・・・「疑いながら信じてる50― 新型キリスト教入門 その1」(富田正樹、ヨベル社、2023年)

聖書やキリスト教に向けられる、向けられた、あるいは、向けられそうな疑問に、著者は、理性、論理、思索によって、回答しています。 それを50回繰り返す中で、浮かび上がってくる、あるいは、基調となるメッセージは、「神はわたしを、あなたを、すべての人…

745 「搾取と貧乏がない社会を目指して生きよう」・・・ 「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎、1982年、岩波文庫)

原著は1937年、それに丸山真男の解説をつけて文庫化されたもの。 デジタル化される前の活版印刷だと思われます。ポイントも最近の文庫文より小さいです。でも、老眼でも、読めなくはありませんでした。 「君が大きくなると、一通りは必ず勉強しなければなら…

744 「心の込もった、神学の書き下し文」 ・・・「キリストとともに――世界が広がる神学入門」(阿部仲麻呂、2023年、オリエンス宗教研究所)

「ロゴス=キリスト=神さまからの深い呼びかけ」(p.18)。 これほど易しくかつ優しく「ロゴス」という神学用語を書き下した言葉を、知りません。 「はじめにあったのは、神さまのおもいでした。おもいが神さまの胸のうちにありました。そのおもいこそが、神…

743 「神さまの芸術を伝える写真と詩」 ・・・「天の指揮者」(詩:服部剛、写真:関谷義樹、2020年、ドン・ボスコ社)

詩人はカトリック信者、写真は修道会司祭。 天の指揮者の作品を映した写真に、詩人が言葉を書く。 映像には、目に見えない創造者の息吹がする。 イエスも同じ風景を見、同じ空気を吸ったことだろう。 「「天」という字の中に/「人」が歩いている じっと み…

742 「霊性を失った世俗化社会における神の国の意味」・・・「キリスト教思想史の諸時代 (7) 現代思想との対決」(金子晴勇、ヨベル、2023年)

目に見えないもの、霊的なもの(この言葉のイメージは多様である)を忘れ、目に見えるもの、あるいは、合理的なもの、測定可能なもの、金、財産、権力、利便などにのみ関心を持つようになることを世俗化と呼ぶなら、本書のテーマは、世俗化、あるいは、無神…

741 「見えないものの言語化と非言語化」・・・「なぜ子どもは神を信じるのか? 人間の宗教性の心理学的研究」(J. L. バレット、教文館、2023年)

小中高生や青年に信仰を伝えるヒントはないかと期待しつつ、読み進めた。 「人間ではなく、目に見えず、私たちの知らないところで世界に作用している行為者(つまり隠れた行為者)の存在に、私たちは敏感である。この能力によって、神について考えることが非…

740 「キリスト教の最良思想は万人平等、万人救済」・・・「キリスト教思想への招待」(田川建三、勁草書房、2004年)

田川建三さんは聖書やキリスト教学者やキリスト教会の問題点をはっきりと指摘するが、良い点は良い点として認めている。 本書をネットの古本屋で買って、20年ぶりに読み返した。届いた本は99%、ぼくが以前に古本屋に売ったものだ。黄色いラインの引き方にぼ…