2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

603 「信仰は意地でも信念でもなく・・・」 ・・・「女の一生 一部・キクの場合」(遠藤周作、新潮文庫、1986年)

遠藤のもうひとつのキリシタン小説「沈黙」に登場するキチジローは、キリストを棄てる。だが、キリストはキチジローを赦す。 しかし、遠藤は弱い者、人間の弱さだけを描いているのではない。「沈黙」にも、この「女の一生」にも、けっして信仰を棄てない者た…

602「ふたりのむすめ」・・・「マイ・ダディ」(山本幸久、2021年、徳間書店)

女の子は十代。父親の仕事を手伝ったりもするが、恋もする。ところがある日、大きな試練に見舞われる。 父親は小さな教会の貧乏牧師。牧師職だけでは食べていけないので、ガソリンスタンドでアルバイトをしている。 ぼくも牧師をしながら非常勤教員もしてい…

601   「復活とは、転生とは、神とは、たとえば」 ・・・「深い河 新装版」(遠藤周作、2021年、講談社文庫)

登場人物のひとり大津は、「日本人の心にあう基督教を考えたいんです」と言いますが、これは、遠藤周作さん自身も同じようなことを言っています。けれども、ふたりは、キリスト教を日本人向けにしたのではなく、むしろ、世界のどんな人間にも通じるものをキ…

600   「それはほんとうに本当なのか」・・・「フーコー入門」(中山元、1996年、ちくま新書)

人間とは何か。唯一の正解はない。いくつもの答えがある。そして、それは、解答者の属する歴史にもよるだろう。けれども、「真理という概念は、この歴史性を隠蔽して、なにものかの『本質』であるかのように振る舞うものである」。しかし、「『真理』とは論…

599   「言葉にならないものを聴く」 ・・・「沈黙のちから」(若松英輔、2021年、亜紀書房)

精魂尽き果てたときは、若松英輔さんの本を読みたくなります。それも、ひとりの人の一冊の評伝よりも、小文集、エッセイ集が良いと思います。心がつぶれそうなとき、若松さんの新刊が出ると、闇夜でマッチ箱を拾ったような気持ちになります。 「喉に渇きを感…

598   「キリスト教を日本化するのではなく、宇宙化し、しもべとする」・・・「日本人にとってキリスト教とは何か: 遠藤周作『深い河』から考える」(若松英輔、2021年、NHK出版)

誤読ノート598 「キリスト教を日本化するのではなく、宇宙化し、しもべとする」 「日本人にとってキリスト教とは何か: 遠藤周作『深い河』から考える」(若松英輔、2021年、NHK出版) 「日本人にとってキリスト教とは何か」を考えるとは、どういうことでしょ…

597  「百パーセントでなくてもよいなら、神は信じられるか」 ・・・ 「現代人はキリスト教を信じられるか 懐疑と信仰のはざまで」(ピーター・バーガー、教文館、2009年)

聖書には、処女降誕、病気の癒し、嵐の鎮静、復活など、科学的には信じられないことがらが満ちている。また、大虐殺など歴史や社会に起こる残酷な出来事ゆえに、神の存在を疑う人びともいる。 奇跡をそのまま信じなさい、大虐殺も神が起こしたと信じなさい、…

596  「神の象徴・比喩を絶対化せず、再解釈しつづける」 ・・・「究極的なものを求めて 現代青年との対話」(ティリッヒ、新教新書、1968年)

「一般的な宗教、つまり狭義の宗教では、私が悪魔化と呼んでいる危険性に支配されています。これは、ある特定の象徴や概念が絶対化され、それら自体が偶像化したときに、悪魔化が起こるのです」((p.22)。 たとえば、イエスが馬小屋で生まれたという「象徴」…

595  「神は名前をいくつ持つか」・・・ 「宗教学の名著30」(島薗進、ちくま新書、2008年)

この本で紹介されている30冊は、「宗教学」を意識して書かれたものとは限らない。「宗教学」という学問ができるずっと以前にのものも少なくない。しかし、これらの著作から、宗教とは、そして、神とはどのようなものと考えられてきたか、いや、どのようなも…