2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧

707 「窓のむこうには空、こちらには影」・・・「まど・みちお詩集」(谷川俊太郎編、岩波文庫、2017)

浄土真宗のある住職が書く文章が深くて、何冊か読んできたが、その中で、何度か、まどみちおさんの名前が出てきた。「ぞうさん、ぞうさん、おはなが ながいのね」の、まどさんだ。 その理由は、谷川俊太郎さんの本書のあとがきにうかがえる。 「詩を書くとは…

706 「月や星、苦しみや悲しみは、ぼくらに委託している」 ・・・ 「晩祷 リルケを読む」(志村ふくみ、人文書院、2012)

志村ふくみさんは染織家です。その志村さんが詩人リルケの「時祷詩集」「マルテの手記」「ドゥイノの悲歌」を読む。ふたりの距離と重なり。それがこの一冊です。 志村さんはリルケに逆説を見ます。 リルケはうたいます。 「貧しさは内部からの大いなる輝き」…

705 「資本主義による社会と自然破壊を防ぐのは社会主義国家ではなく、貨幣や商品に頼らない自発的助け合い社会=アソシエーション」 ・・・ 「ゼロからの『資本論』」(斎藤幸平、NHK出版新書、2023)

資本主義は自然を破壊するとマルクスは考えていた。社会主義と形容される国家はコミュニズムではない。貨幣への依存という点でベーシックインカムにも問題がある。 本書からはこの三つ、その他のことを学びました。 「私たちの暮らしや社会、それを取り囲む…

704 「限りなく沈黙に近い詩集」・・・ 「虚空へ」(谷川俊太郎、新潮社、2021年)

「言葉数を少なくすることで、暗がりのなかで蛍火のように点滅する詩もあるかもしれない」「今の夥しい言葉の氾濫に対して、小さくてもいいから詩の杭を打ちたいという気持ちがあった」(p.198)。 詩人はあとがきにこのように記しています。 「言葉の氾濫」へ…

703 「人生とともに深まる精神、広がる宇宙」・・・「暮らしの哲学」(池田晶子、毎日新聞社、2007)

この書名にはどのような意味があるのでしょうか。毎日の生活にも哲学のヒントがある、ということでしょうか。そうかもしれませんが、暮らしというより「生きていること」そのものの哲学、つまり、わたしたち人間と世界の根本を考える哲学、というようにも思…

702 「カルト問題と自己のカルト化問題」・・・ 「徹底討論 ! 問われる宗教と“カルト”」(島薗進、釈徹宗、若松英輔、櫻井義秀、川島堅二、小原克博著、NHK出版新書、2023年)

NHKの討論番組を文字化したものとのことです。 まず、カルトとは何か、どういうもののことを言うのでしょうか。 「マイノリティ集団で、熱狂的な崇拝行為を実践している団体で、関わってしまうと違法行為や反社会的な行為に巻き込まれて、自分も不利益を被る…

701 「人間関係のカルト的要素とその克服要素」 ・・・ 「宗教2世」(荻上チキ編、太田出版、2022年)

櫻井義秀さん、鈴木エイトさん、横道誠さん、遠藤まめたさんら、この問題のリソースパーソンらへの、編者の荻上チキさんのインタヴュー、編者が所長を務める「社会調査支援機構チキラボ」のアンケート調査、分析、そこに寄せられた当事者の声などで、本書は…

700 「老いとともに育つ麦畑」・・・「老いと祝福」(石丸昌彦、日本キリスト教団出版局、2022年)

たとえば五十代、六十代の中には、自分の老いを感じ始め、それにどう向かい合っていくか考え始める、と同時に、たとえば七十代以上の親などのこともいつも頭にある、という人もいるのではないでしょうか。そういう方には読みごたえのある一冊だと思います。 …

699 「衰退する21世紀キリスト教再生のヒントになるか」・・・「古代末期の世界――ローマ帝国はなぜキリスト教化したか?」(ピーター・ブラウン、刀水書房、2006年)

古代末期のローマ帝国よりも、キリスト教はパレスチナを出でどのように地中海沿岸やヨーロッパに広がって行ったのか、どうして帝国の宗教となったのかに関心があり、手に取ってみました。 「キリスト教が普及した本当の理由は、キリスト教が悪魔の敗北を確か…

698 「誠実な牧師の数十年、その風景の数々」・・・「ある牧師の眼 その視線の先にあるもの」(栗原茂、リトン、2022年)

三十年近く前、ぼくは教会での牧師職を失い、家族と生きるために、ホテルでの「キリスト教式」の結婚式の仕事をすることになった。栗原先生が紹介してくださったのだ。 式場に向かう車をいちど停め、先生は祈ってくださった。その仕事がうまく行きますように…