2022-12-01から1ヶ月間の記事一覧

697「音でも文字でもなく、ことばを」・・・ 「小説をめぐって (井上ひさし 発掘エッセイ・セレクション)」(井上ひさし、2020年、岩波書店)

井上ひさしさんは2010年に亡くなった。それから12年。この本は未発表のエッセイを没後10年にまとめたもの。ひさしさんの本はたいてい読んできたが、このように、ぼくにとって新しい文章をいまだに読めることはとてもうれしい。 「この天つちに 溢れることば …

696「初期キリスト教世界と著者の思想は?」 ・・・「初期キリスト教の世界」(松本宣郎、新教出版社、2022年)

イエスの言動やその意味を探求したり、旧約聖書の中にイスラエルの神学思想史を追ったり、そういう書物はおもしろい。ストーリーがあるからだ。 けれども、この本にはそれが欠ける。人が何を考えて何をしたのかが描かれていない。1世紀から4世紀までのキリス…

695「都市と農村、の二元論を終わらせる」 ・・・ 「都市を終わらせる―「人新世」時代の精神、社会、自然」(村澤真保呂、ナカニシヤ出版、2021年)

広島の山地に移住して農業に取り組んでいる友人らと「農の神学研究会」を立ち上げた。といっても、数人のZOOM会議である。 その寄り合いで「農の神学」とは何か、「農」とは何か、とあれこれ言っているのだが、これまた「農」に関わる知人から、本書を紹介さ…

694「会衆ではなくキリストに説教する」 ・・・ 「「死」観の解体」(武田定光、因速寺出版、2022年)

著者の武田さんは浄土真宗の住職なのですが、この方の書いていることは、一宗教、一宗派の特徴というよりも、言ってみれば、宗教そのものというか、世界そのものであると思います。 だから、この本は「「宗教」観の解体」と言ってもよいでしょう。「宗教」の…

693「国家の抑圧と資本の搾取を克服する山人の思想」 ・・・ 「遊動論 柳田国男と山人」(柄谷行人、文春新書、2014年)

著者の最新刊(たぶん)「力と交換様式」を読んでいたら、本書の名前が出てきて、ぼくは、「柳田国男と山人」という言葉に飛びつきました。とくに「山人」に。 というのは、30年以上前、田舎の実家で民俗学の本を読んでいたら柳田の山人という概念が出てきて…