2014-01-01から1年間の記事一覧

233 「風はどこから吹いてくる」

「行き詰まりの先にあるもの―ディアコニアの現場から―」(富坂キリスト教センター編、2014年、いのちのことば社) 風のように身軽だけれども大地の一本道のようにまっすぐな先輩が執筆者のひとりであり、敬愛する大先輩が書評を書いておられたので、ぼくも読…

232 「すばらしくないものに崇高なものを見出す」

「イエス・キリストの生涯」(小川国夫、2013年、新教出版社) 新約聖書には、イエスの伝記、すなわち、福音書が、四つ含まれています。それぞれの執筆者の立場から、イエスの誕生や30才前後の1~3年の言動が物語られています。当然そこにはたがいに違いもあ…

231 「愛すべき人間の深奥に潜むもの」

「シェイクスピア名言集」(小田島雄志、1985年、岩波ジュニア新書) 井上ひさしさんには「天保十二年のシェイクスピア」という初期の戯曲がある。これにはシェイクスピア37作品すべてが何らかの形で参照されている。たとえば、主人公の名前が「三世次(みよ…

230 「暮らしや旅のいたるところ、そして闇に、神のシンボルが」

「神さまの話」(リルケ、谷友幸訳、1953年、新潮文庫) 子どもたちは、神さまはどこにいるのか、どんな顔をしているのか、どんな言葉を話すのかと、しきりに尋ねます。 無限に青い天の半球は、神ではありませんが、神を想起させます。この本の芸術家たちは…

229 「アンは牧師か、牧師の妻か」

「赤毛のアン」(モンゴメリ、村岡花子訳、2008年、新潮文庫) NHKの朝ドラ「花子とアン」に誘われて、五十半ばのおじさんですが、読んでみました。 アンが歩いたり、走ったり、スキップしたりする道筋については、読者をわくわくさせながらも、けっして裏切…

228 「世界の深奥からの呼びかけ」

「生きる哲学」(若松英輔、2014年、文春文庫)朝の川面ににじむ楕円の陽光。その傍らに休む水鳥。驚き踊るタゴールの詩。カッチーニのアヴェ・マリア。道端のお地蔵さんに手をあわせる老婆。子を失くしたおかあさん。これらは、みな、なぜ、うつくしい。空…

227 「神の手の響き」

「吉満義彦 詩と天使の形而上学」(若松英輔、2014年、岩波書店) 見える世界だけでなく、見えない世界が実在する。パラレルワールドのことではない。見える世界の深奥にあり、これを存在させる、見えない根源のことである。これこそが、永遠であり、実在、…

226 「井上ひさしさんからの莫大な遺産」

「井上ひさしの劇ことば」(小田島雄志、2014年、新日本出版社) ぼくは、井上芝居のおそらくすべてを一度は読んでいますし、芝居もいくつも観に行きました。井上さんに促され、チェーホフも少しだけ、読んだり観たりしました。けれども、シェイクスピアは、…

225 「現状を批判し、それに代わるまったく新しい世界を思い描く」

「預言者の想像力 現実を突き破る嘆きと希望」(W. ブルッゲマン著、鎌野直人訳、2014年、日本キリスト教団出版局) 副題の「嘆き」は、旧約聖書のエレミヤに代表されます。悲惨な現状を認識し、それを嘆くことが、現状を打ち砕く批判になります。「希望」は…

224 「病を知り、今日一日を与えられた、もてなしびとたち」

「がんになったホスピス医の生き方論 希望という名のホスピスで見つけたこと」(細井順、2014年、いのちのことば社フォレストブック) 「ホスピスで過ごすことが、新たなスピリチュアルペインを生み出していることはないのであろうか」(p.204)。がんの進行…

223 「世界の現状を伝え、問う演劇の元祖」

「三文オペラ」(ブレヒト作、岩淵達治訳、2006年、岩波文庫) ぼくは、プロの演劇経験のある日系ペルー人の友人に誘われて、半時間ほどの劇の共同創作に加わったり、舞台に立ったりしたことがあります。 それから、そのずっと前から、井上ひさしさんの芝居の…

222 「のり子の詩ごころ、一ダース」

「詩のこころを読む」(茨木のり子、1979年、岩波ジュニア新書) しゅんたろう えりこ ひろし るみこ ひろし りん 詩を詠むこころ 詩を読むこころ 死をよむこころ いち いのちいとしむ こころをさそう にい 何か忘れていませんか さん 死と影を 恐れない しい…

221 「顔と言葉と音楽は、天と大地を通わせる」

「フォト・ソングブック 美しい大地は」(写真:桃井和馬、選詞:陣内大蔵、2014年、日本キリスト教団出版局) 写真家・桃井和馬さんの撮ったフォトに、シンガーソングライターで牧師の陣内大蔵さんが選んだ讃美歌21の歌詞が、しずかに寄り添っています。そし…

220 「いま、ここにあるすべての人の救い」

「キリスト教の自己批判 明日の福音のために」(上村静、2013年、新教出版社) この本には、贅肉がまるでありません。わりと短い時間で読めるかも知れません。けれども、中身は味わい深く、きっと満足できることでしょう。 神の救いは、「いつか、こういう人び…

219 「泥沼に咲く蓮たち」

「その先の世界へ」(長倉洋海、2014年、クレヴィス) スリランカでは、祈りの花には、蓮が好まれる、と長倉さんは言います。泥で濁った沼でも、きれいな花を開かせるから、とのことです。 ならば、この写真集は、世界の各地で咲き誇る何輪もの蓮への扉なので…

218「死者に語らせない宗教から、死者と生者の対話の仲立ちへ」

「3・11以後この絶望の国で 死者の語りの地平から」(山形孝夫・西谷修、2014年、ぷねうま舎) 大津波のあとの被災地には、従来の仏教、キリスト教の手の届かない現実が横たわっていた、と山形さんは言います。 できることは何もなかったのです、ともに哭くこ…

217「レミゼを19世紀の絵と20世紀の解説で再読」

「『レ・ミゼラブル』百六景」(鹿島茂、2012年、文春文庫) 映画や舞台を観た人、子ども向けに書き直されたものを読んだ人はいても、全巻を読破した人は、あまりいないことでしょう。鹿島さんも、原書で通読した仏文学者は、「大菩薩峠」を読了した国文学者よ…

216「活字から身を起こす詩句」

「茨木のり子集 言の葉 ?」(茨木のり子、2010年、ちくま文庫) 中国から北海道に強制連行された中国人青年を詠んだ「りゅうりぇんれんの物語」という長い詩が目当てで入手しました。沢知恵さんが曲をつけて歌っているのを聞いたのがきっかけです。 吉田清次さ…

215 「ピアノを弾くとはこういうことだったのか」

「左手のコンチェルト 新たな音楽のはじまり」(舘野泉、2008年、佼成出版社) ピアノの先生からいただいた一冊。先生の願いは、ぼくがこの本を読むことだけではなかったと、のちに気づきました。 舘野泉。ヨーロッパ、日本で演奏する第一流ピアニスト。東京芸…

214 「新鮮で、心に沁み込む聖書の読み方」

「聖書入門」(アンゼルム・グリューン著、中道基夫・萩原佳奈子訳、2013年、キリスト新聞社) はじめて聖書を読もうとする人のガイドブックにもなりますが、聖書を何度も読んでいる人、あるいは、教会などで聖書に触れる機会の多い人にとっての、聖書「再」入…

誤読ノート213 「在日韓国人牧師一家から日本住民へのラブレター:ヘイトに抗して」

「行動する預言者 崔昌華(チォエチャンホア) ある在日韓国人牧師の生涯」(田中伸尚、2014年、岩波書店) 中国国境に近い宣川(現在は朝鮮民主主義人民共和国の町)。日本による植民地支配のもと、天皇制教育を受けた少年時代。日本の敗戦による「解放」後は…

212 「歌は自分、それとも、他者」

映画「ゴスペル」(2014年、松永大司監督) 黒人でもない、キリスト者でもない日本住民がゴスペルを歌っています。それをどう考えたら良いのでしょうか。この映画には、そういうテーマがあるように思いました。監督はとくに判断をくだしていないようですが。 …

211 「聖書の内容、その信仰的意味、ちょっとだけ学説も、の三拍子」

「聖書入門 主を畏れることは知恵の初め」(落合建仁/小村尚子、2014年、日本キリスト教団出版局) 聖書にどんなことが書かれているか、旧約、新約各全体にはどんな流れが見られるか、何年経ってもそういうことに自身がないのと、教員や牧師として人様に聖書…

210 「イエスへの服従に自分を縛りつける人は、他者を解き放つ」

「異質な言葉の世界 洗礼を受けた人にとっての説教」(W. H. ウィリモン著、上田好春訳、2014年、日本キリスト教団出版局) 洗礼には、世の中の支配的な価値観に対抗するイエス・キリストの共同体に加入する決断が求められると著者は考え、幼児洗礼を神から一…

「映画『ノア 約束の舟』を私はこう観る」を私はこう読む

「福音と世界 九月号 2014」富田正樹さんによる「映画『ノア 約束の舟』を私はこう観る」は、映画に対する深い読みを、ひじょうに、わかりやすく、また、説得的に述べています。富田さんは、人間を他の生物の頂点におく人間中心主義に対する批判を映画に読み…

209 「人の沈黙、神の沈黙」

映画「大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院」 神自身が沈黙、だとぼくは思う。神に祈ろうと、手をあわせ、目を閉じた時、立ち位置の前に広がる沈黙。この沈黙は、まさに、神自身、あるいは、神の臨在のしるし。この沈黙に委ねたい。沈黙が、ぼく…

208 「罪か、それとも、時代の縛りか」

「われ弱ければ 矢嶋楫子伝」(三浦綾子、1989年、小学館) 女子学院の初代院長、キリスト教婦人矯風会会頭を務めた、幕末、明治、大正の女性。新島八重とほぼ同じ時代を生きた。 新島八重と言えば、同志社。そこに学び、のちに同志社を側面から支援する徳富…

誤読ノート207 「雨はまた降り、また上がる」  「洗脳 地獄の12

誤読ノート207 「雨はまた降り、また上がる」 「洗脳 地獄の12年からの生還」(Tosh1著、2014年、講談社) “Endless Rain” 曲、詞、奏楽、歌唱、どれもすばらしい。ロック・バラードの名曲。 ぼくはこの曲しか知りませんが、カルトから脱出したTosh1さんを支…

206 「1930年代、2010年代、現在の状況での信仰」

「現代信仰問答」(ボンヘッファー著、森野善右衛門訳、1961年、新教出版社) 1930年代、ナチスが台頭し、ヒットラーが君臨していくドイツで書かれた信仰問答。ルター派の信仰、神学をじゅうぶんに踏まえながらも、その時代を反映していると思われる記述も目…

205 「弾圧の理由はキリスト教の不寛容さにあった?」

「はじめて読む人のローマ史1200年」(本村凌二、2014年、祥伝社新書) ローマ史入門の新書であり、映画化もされたコミック、テルマエ・ロマエに便乗しているようにも思えるが(帯にそのコミック作家によるカエサルのイラストさえある!)、著者は、東大名誉…