2021-01-01から1年間の記事一覧
アウグスティヌスは四世紀後半から五世紀前半の人である。本書の著者によれば、この時代には「個人の内面的な世界が生まれてきた」。そして、「ここには孤独な個人を内側から支える『大文字で書かれた単数形の神』が説かれるようになった」(p.20)。 それはキ…
誤読ノート585 「説教をできなくなった牧師さんへの良いお知らせ」 「演劇入門 生きることは演じること」(鴻上尚史、集英社新書、2021年) ぼくはキリスト教会の牧師で、毎週、礼拝の脚本、演出、出演を担当しています。つまり、その日曜日の礼拝の流れ・構…
新自由主義とは、財産や能力は個人の私的所有物であり、それを他の人のそれと等価交換する自由があり、それについて契約する自由があり、私的所有物は自分の好きに使える、といった考え方であり、これが今の世界を覆っています。 ようするに、人は皆自由なの…
副題にある「危機の時代」には、日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、関東大震災が含まれる。 内村ははじめ「義戦論」を唱えた。のちに非戦論に転じたのではあるが。内村はまた、関東大震災は「天譴」つまり天罰であると論じた。 これらは内村の問題思想と…
宗教は、今、つまり、インターネットと消費の時代において、どういう顔をしているのだろうか。それを探るのに、本書は有意義な一冊であろう。 ところで、新教出版社の出す「福音と世界」という月刊誌は、近年、キリスト教界以外の読者を増やしていると聞いた…
581 「能力、功績は、ほんとうに自分だけのものか」 「実力も運のうち 能力主義は正義か?」(マイケル・サンデル、2021年、早川書房) 女性であるから、黒人であるから、貧しいから。こういう理由で、人を不合格にしたり不採用にしたりしてはならない。その…
神の存在や活動がほとんどすべての人びとにとって当然だった時代がありましたが、現代では、神は行方不明になり、せいぜいたまに「うわさ」を聞く程度になってしまいました。 しかし、著者は「われわれはそのうわさの探求に着手出来る――そして多分、そのうわ…
神の存在や活動がほとんどすべての人びとにとって当然だった時代がありましたが、現代では、神は行方不明になり、せいぜいたまに「うわさ」を聞く程度になってしまいました。 しかし、著者は「われわれはそのうわさの探求に着手出来る――そして多分、そのうわ…
著者はこう述べています。「私はクイアであること公言しており、バプテスト派教会の按手を受けた牧師という立場であり、同様にクイアの牧師であるパートナーと教会的契約による結婚関係を結んでいる」(p.44)。 ではクイアとは何でしょうか。「私は『クイア』…
本著は、キューバ出身でアメリカで学び教えているフスト・ゴンサレスが著した二巻ものの下巻です。 ゴンサレスは、キリスト教史上のある出来事の記録は「グローバルな視点の一部分」でなければならず、あるキリスト教徒が抱くキリスト教理解や表現は「万華鏡…
不思議な本です。第一章では、著者とヴェーバーとの出会いが(著者の言葉によれば)「小説の形式」で書かれています。巻末の資料集には「『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の内容分析」と題された横書きの(資料集以外は縦書き)読書ノートの…
イエズス会の神父さまがロヨラの「霊操」の手法を取り入れてお書きになった黙想の手引きの本ということで、読んでみようと思いました。 黙想においては、「神から徹底的に愛されている実感」「神からの呼びかけ」「何かから解き放たれた実感」「こころの中に…
四人の家族を一度に失った人がいました。その人は、それからはそれ以前にもまして、悲しみを考えるようになりました。自分の悲しみを軸としながら、人間の悲しみを深めるようになりました。悲しみの友もできました。本書の著者たちもそうです。 柳田邦男さん…
全7巻予定の1巻目です。これと2巻目を見る限り、このシリーズはまったくの書下ろしではなく、著者がこれまでに書いたり何かの本に収められていたりする20頁くらいの小文数編を書き直したものに、いくつかの書下ろしを加えたものです。したがって、章と章の流…
573 「倚りかからないために」 「清冽 詩人茨木のり子の肖像」(後藤正治、中公文庫、2014年) 「もはや/できあいの思想には倚りかかりたくない・・・倚りかかるとすれば/それは/椅子の背もたれだけ」 十年以上前でしょうか。「倚りかからず」と題された…
「空の空。すべては空」、あるいは、「なんという空しさ、すべては空しい」。「コヘレトの言葉」と呼ばれる旧約聖書の一書物は、この句で有名ですが、小友さんは、「空」「空しさ」は「束の間」と訳すことができると言います。そして、人生は束の間であると…
「理系」の大学、東京工業大学に、「利他プロジェクト」という「文系」の研究グループがあるそうです。本著は、そこに属する五人の、一般読者向けの論考エッセイが収められています。ちなみに、東工大の文系教員は昔から読み応えのあるものを書いているよう…
570 「韓国を目的語ではなく主語に」 「隣の国のことばですもの 茨木のり子と韓国」(金智英、筑摩書房、2020年) 本書の副題にあるように、ぼく個人にとっても、茨木のり子と韓国は密接につながっています。 「自分の感受性ぐらい/自分で守れ/ばかものよ…
教会の牧師として、三十年間、毎週つまり一年に五十回、ニ十分弱のお話をしてきました。その原稿として、三十年間、毎週三千字ほどの原稿を書いてきました。 けれども、文章は一向に上達せず、多くの人に読まれる名文なども書いたことはありません。ブログな…
日本ではなぜ「学歴に価値がある」とされるのでしょうか。それは「学歴に価値がある」と思っている人が多いからです。かりに、学歴に価値はないと思っている人が多い社会があるとすれば、そこでは学歴には価値はあるとはされません。つまり、「学歴に価値が…
タイトルからはキリスト教の常識や入門知識が書かれているように思われますが、じっさいに読んでみますと、キリスト教に触れて何十年も経った者でも、「あ!そういう考えもあるのだ」と思わせられることがいくつも出てきます。 創世記12章3節には「地上の氏…
ヨハネの黙示録などはめったに読みません。 「見よ、神の幕屋が人の間にあって、神が人と共に住み、人は神の民となる。神は自ら人と共にいて、その神となり、彼らの目の涙をことごとくぬぐい取ってくださる。もはや死はなく、もはや悲しみも嘆きも労苦もない…
565「社会学者の宗教への関心」 「退屈させずに世界を説明する方法――バーガー社会学的自伝」(ピーター・バーガー著、新曜社、2015年) バーガーは「笑う社会学」を目指すと言います。どういうことでしょうか。「滑稽は人間の現実を鮮やかに照らし出すことが…
「結局のところ、聖書的正義とは、喜びに満ちた正義であって冷厳な正義ではありません。物事を修復し、癒し、正常化するような、喜びあふれる正義なのです」(p.109)。 ぼくの場合、正義は恨みに満ち、冷酷で、相手との関係を破壊する、喜びのないものであっ…
「社会学的想像力とは、政治的なものから心理的なものへ、ある単一家族の調査から世界の国家予算の相対評価へ、神学校から軍事体制へ、石油産業への考察から現代詩の研究へ、というように、あるパースペクティブを別のものへと切り替えてゆく能力なのである…
神戸新聞、「噂の眞相」、「週刊文春」記者を経て講談社ノンフィクション賞受賞のジャーナリスト西岡研介さんが、この本には教えられる、と絶賛する一冊。だから買って読んだ。 「最初の一文、長くても三行くらいでしょうか、そこで心を撃たないと、浮気な読…
今回のパンデミック、あるいは、大地震、大津波のような大災害は、人間を悔い改めさせるために、あるいは、罰を与えるために、神が起こしたのではないか、と考える人がキリスト者の中にもいるが、そうではない、と著者は言います。 本著で、著者はまず、現在…
個人の人生に起こることには社会的な背景がある。個人的なことに思えても、それは、じつは、社会的なことなのだ。 「失業のライフストーリーによって明らかになるのは、個人の失敗ではなく、より広い経済の仕組みである。同性愛は個人の病理ではなく、法律と…
1789年のフランス革命勃発あたりからを近代とみると、1864年生まれ1920年没のウェーバーは、近代の成人期から中年期を生きた、と言うことができるかも知れません。 本書は、ウェーバーがどういう意味で近代と格闘したと言うのでしょうか。 「究極的な『実体…