2012-01-01から1年間の記事一覧

81 「うたっている歌の僕になる方法」

「アンデスのリトゥーマ」(マリオ・バルガス=リョサ、岩波書店、2012年) アンデス山中に配属された治安警備隊・伍長のリトゥーマ。 もと麻薬密売人のボディガードで、わけありの恋の逃避行についてしゃべり続ける助手。 外国からの“研究者”、旅行者、アン…

80 「喪失は瞬時 発見は恩寵」

Lost & Found (Lost and Found Omnibus) (絵本というか、こんな本 → http://www.amazon.co.jp/Lost-Found-Omnibus/dp/0545229243/ref=cm_cr-mr-img)Shaun Tan著 「赤い木」「迷子」「うさぎども」とでも訳せそうな、三つの作品が収められています。 出口の…

79 「祈るんだよ、願ってるだけじゃダメ」

「幕が上がる」(平田オリザ、講談社、2012年) 新任の先生と転校生。 ふたりの登場によって、さおりたち演劇部員を乗せた汽車は、乳白色の路を走り出した。 「これはまるで『演劇修行』、それでいて青春小説」という、俳優・堺雅人の推薦文に、いつわりはな…

78 「すべてのものを 与えしすえ」

「おおきな木」(シェル・シルヴァスタイン著、村上春樹訳、あすなろ書房、2010年) 原作者の絵。村上春樹の文。 絵も文も、何度もかみしめ、味わいたい。 村上春樹はこれ以外には短編小説を1〜2編しか読んだことがないが、良い日本語なのだろう。気負いがな…

77 「いつでも帰ってきなさい」

「同志社大学神学部」(佐藤優、光文社、2012年)佐藤優はどうして、外交官になったのか。牧師にならずに。神学部を出ているのに。神学部を出ていない人にもこの本はじゅうぶんおもしろい。佐藤優の濃厚な人生。その何分の一にあたるのか。大学・大学院時代…

76 「言葉となって顕われ出で」

「内村鑑三をよむ」(若松英輔、岩波ブックレット、2012年)たとえば「見よ、新しいことをわたしは行う。今や、それは芽生えている。あなたたちはそれを悟らないのか。わたしは荒れ野に道を敷き、砂漠に大河を流れさせる」(イザヤ43:19)という、文学的には…

75 「別案が採用されても」

「アメリカを動かす思想 プラグマティズム入門」(小川仁志、講談社現代新書、2012年) 中学校の英語で、日本語にすれば「もっとも美しい景色(複数)のひとつ」という表現を習ったとき、わたしもご多分に漏れず、「もっとも美しい景色」がふたつもみっつも…

74 「到着のつぎに来るものは」

“The Arrival”(Shaun Tan, Arthur a Levine, 2007) Facebookで知り合った画家の友達が紹介してくださった珠玉の一冊。 この本から、ぼくは絵をていねいに読むことを教わりました。 タイトルの通り、貧困、暴政、戦争・・・何らかの事情による、ある国から…

73 「対話が育ちますように」

「わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か」(平田オリザ、講談社現代新書、2012年) これは、プレゼンや人づきあいがうまくなって仕事や人生で成功しよう、などというイカサマ・ハウツー本ではありません。むしろ、それへの疑問です。 劇作…

72 「救われるはずがない彼・彼女らの救い」

「イエスとパウロ キリスト教の土台と建築家」(G. タイセン著、日本新約学会編訳、教文館、2012年) この本はタイトルの通り、イエスとパウロを取り扱っています。 歴史上の人間(としての)イエスは、自分自身を神として示すことはなく、自分が根本的な信…

70 「権力者が歴史を、苦しむひとびとは歌を」

「アイルランド紀行 ジョイスからU2まで」(栩木伸明、中公新書、2012年) ある朝の新聞広告に惹かれて、丸谷才一訳の「若い藝術家の肖像」を読んだのが、アイルランドへの若干の興味の始まりだったかも知れません。 20世紀の巨匠とされるJ. ジョイスの本は…

71 「一番伝えたいことが伝わらない」

「キリガイ ICU高校生のキリスト教概論名(迷)言集」(有馬平吉編著、新教出版社、2012年) 漢字で書けば「国際基督教大学高等学校」という、大学だか高校だかわかりにくい高校の、「キリスト教概論」なる授業を受けて、生徒たちが書いたレポートと、それを…

69 「神を求めても、ひとを離れるつもりはない」

「聖なるものの息吹 正教の修道・巡礼・聖性」(高橋保行、教文館、2004年) ギリシア正教会、ロシア正教会などの正教会については、ともすれば、来世や遁世的な神秘主義など、浮世離れしたイメージがもたれがちのようですが、この本は、そうではないという…

68 「楽器としての体、超入門」

「誰でも歌はうまくなる! 〜広瀬香美のボーカル・レッスン〜」(NHK出版、2012年) 香美さんの母校の先生もご推薦♪ 声楽や合唱の経験者には、じつはアタリマエ♪ のことばかりかもしれませんが、復習にもなるし、歌う時の自分の体の様子についてあたらしいイ…

67 「霧中だけど、ビギニング・メモ」

「空より高く」(重松清、中央公論新社、2012年) ニューと名付けられ、つい数十年前に始まったばかりの町々が、ずいぶんとさびしくなっているらしい。 いや、古い町の商店街からも、八百屋や魚屋がなくなり、飲食のチェーン店や携帯ショップが開店・閉店を…

66 「イエスの威嚇的態度、自己絶対化、そして」

「最後のイエス」(佐藤研、ぷねうま舎、2012年) なぜアリマタヤのヨセフはイエスの遺体を引き取ったのか、公生涯以前のイエスの人生にはなにがあったのか、イエスの墓はなぜ空だったのか。日本語で著述する優秀なイエス研究者の一人である佐藤研さん。けれ…

65 「自由で快活、逆説の背後に温かいユーモア」

「寅さんとイエス」(米田彰男、筑摩選書、2012年) この本は、キリスト教関連の本では今年のベストセラーになるかも知れません。というのは、キリスト教徒であるわたしのまわりでも、たくさんの人が読んでいるからです。 わたしの教会でも一度紹介したこと…

64 「われわれには独自なものはなく、すべては授けられたもの」

「フョードロフ伝」(スヴェトラーナ・セミョーノヴァ著、安岡治子・亀山郁夫訳、水声社、1998年) ドストエフスキーの解説本などを読んでいると、ロシアの民衆宗教や思想の風土が気になり始めました。この本がその欲求をぴったり満たしてくれたわけではあり…

63 「歴史上のすべての終末論は実ははずれた」

「旧約聖書を学ぶ人のために」(並木浩一/荒井章三[編]、世界思想社、2012年2月) 日本を代表する旧約学者たちがテーマやを分担して執筆した入門書。現代聖書学のかなり新しい成果も反映されているように思います。 わたしにとって目新しいことをいくつか紹…

62 「人間は神と対峙できるほどに偉大なのである」

「ロシア宗教思想史」(御子柴道夫、成文社、2012年3月) ドストエフキーやトルストイを読んで、ロシアのキリスト教に大地的感覚を与えるような、キリスト教以前の宗教思想があるような気がなんとなくしていて、この本はそういう話か、あるいは、個人的、都…

61 「いますぐこないからといって切り捨てることはできない」

「旅のパウロ その経験と運命」(佐藤研、岩波書店、2012年2月) パウロといえば、新約聖書に収められている手紙の中で表した神学や思想にスポットがあてられがちですが、佐藤さんは「彼の本領はその旅の行動性の方に」(p.2)あると言います。 本著では、パ…

60 「初めから「負けている」のである」

「フォトエッセイ 希望の大地 「祈り」と「知恵」をめぐる旅」(桃井和馬著、岩波書店、2012年6月6日) 桃井さんの写真は絵なのでしょうか。それとも、フェルメールの絵が写真なのでしょうか。光、闇、空間、そして、そこにたたずむ人を描き出したその一枚は…

59 「意見が一致しないのは、必ずしも悪いことではない」

「中学生からの 対話する哲学教室」(シャロン・ケイ、ポール・トムソン著、玉川大学出版部、2012年4月20日) 「哲学教室」と言っても、この本は、哲学者や哲学者研究者の書いた難解な文章を読んで、それを再現したり、引用したりできるようになることを目指…

B年 キリストの聖体  マルコ14:12-16, 22-26

(以下は、ペルーで働く聖コロンバン会神父、ノエル・ケリンズの「福音書のイエスに今日したがう」からの翻訳です。毎日曜日の福音書の箇所へのコメントですので、原則的には、週に一度更新します。) 「体」や「血」とは、イエスの人格のことです。この聖体…

B年 三位一体の主日  マタイ28:16-20

(以下は、ペルーで働く聖コロンバン会神父、ノエル・ケリンズの「福音書のイエスに今日したがう」からの翻訳です。毎日曜日の福音書の箇所へのコメントですので、原則的には、週に一度更新します。) 今日はイエスの昇天を祝います。この日、教会は、マタイ…

B年 ペンテコステ ヨハネ20:19-23

(以下は、ペルーで働く聖コロンバン会神父、ノエル・ケリンズの「福音書のイエスに今日したがう」からの翻訳です。毎日曜日の福音書の箇所へのコメントですので、原則的には、週に一度更新します。)B年 ペンテコステ ヨハネ20:19-23 今日はペンテコステを…

58 「レトリックでも思想でもない、死者との対話ストリーム」

「魂にふれる 大震災と、生きている死者」(若松英輔著、トランスビュー、2012年3月5日)「死者が接近するとき、私たちの魂は悲しみにふるえる。悲しみは、死者が訪れる合図である。それは悲哀の経験だが、私たちに寄り添う死者の実在を知る、慰めの経験でも…

57 「イエス自身の意図になかったとしても」

「隣人愛のはじまり――聖書学的考察」(辻学著、新教出版社、2010年6月30日) 歴史学的、文献学的な研究によって、福音書のどの部分が実際のイエスの言動に近いのか、どの部分が福音書記者による編集や脚色なのかが腑分けされるが、それに基づいて、歴史上の…

56 「じっと聞き、ともに怒り、おのれを問う記者たち」

「ふたつの震災 [1・17]の神戸から[3・11]の東北へ」(西岡研介・松本創著、講談社、2012年4月19日) 記者たちは被災地を「歩き」、「縁」が育ち始めた人々の声にじっと耳を傾け、それらの言葉を「愚直に」「紡いで」いる。 ふたりは若くエネルギーあふれて…

55 「これは殺人じゃないか」

「プロメテウスの罠 明かされなかった福島原発事故の真実」(朝日新聞特別報道部、学研、2012年3月26日) 「地域が消滅してしまう」。福島第一原発から30km圏内の区長さんが、無人となった地区を車で走りながら、悔しさをあらわに叫ぶ。 ガスマスクをした白…