2014-01-01から1年間の記事一覧

204 「学問とオカルト、神秘と俗物の同居」

「不思議なくらい次々と自分に奇跡を起こす心の魔法40: どんな“悩み”もパッと消えさる心理術」(諸富祥彦、2013年、三笠書房) いかにもいかがわしいタイトルですし、「不思議」でも「次々」でも「奇跡」でも「どんな」でも「パッと」でも「心理術」でもあり…

203 「神と人生への服従、偶像と時代への抵抗」

「服従と抵抗への道 ボンヘッファーの生涯」(森平太、1964年、新教出版社) ボンヘッファーがナチズムと闘ったのは1930年代。「日本のキリスト者が真に教会的・政治的なあり方を厳しく問われている今日」(p.349)と著者が自覚しつつ本書を出したのが50年前。…

202 「唄は、かき消されない」

「東北を聴く −民謡の原点を訪ねて」(佐々木幹郎、2014年、岩波新書) よそ者の詩人が、大震災後の東北を訪ね、民謡を聴く。ひとの声を聴く。二代目高橋竹山とともに。 大船渡の六十代女性。「唄うたってる声が聴こえてきましたよ。潰れた家の下から・・・…

201 「牧師さんはこんな考えで説教をしているらしいです」

「神の元気を取り次ぐ教会 説教・教会暦・聖書日課・礼拝」(石田順朗、2014年、リトン) 「元気」に魅かれて、読みました。取り次ぐべきは、たしかに、「教え」ではなく、希望のメッセージですよね。 説教の主役は説教者ではなく神さま。「説教者が語る時、…

200 「じつは、歌とは違う詩」

「詩的思考のめざめ 心と言葉にほんとうは起きていること」(阿部公彦、2014年、東京大学出版会) 詩心を得れば、もう少し愛される言葉を綴れるのでは、という下心。 まず、詩は、子どもの時にぼくらが持っていた世界への緊張感や興奮を喚起。 つぎに、詩は…

199 「森の散歩、おだやかな目」

「「昭和」を送る」(中井久夫、2013年、みすず書房) 中井久夫さんの本を読む。それは、たとえば、緑道の散歩のようだ。 都会の日常を離れ、森のさほど奥まらない道を歩く。全体は見通せない。けれども、高い木々、光を漏らす枝、根本の小さな花、蝶、風の…

198 「沖縄生まれ、生真面目に不真面目な貧乏詩人の詩と、倚りかからない詩人による評伝」

「貘さんがゆく」(茨木のり子、1999年、童話屋) 貘さんこと、詩人、山之口貘。 日本土着の詩は、貘さんから始まった、とは金子光晴。 「人間が生きてゆく、平凡で、だらけた人生の折り折りを愛してつかみとってくる魅力的な詩作方法」(p.81)とは、評伝の著…

197 「神さまが種を蒔かれる意外なところとは」

「天の国の種 マタイによる福音書を歩いて」(バーバラ・ブラウン・テイラー、2014年、キリスト新聞社) アガペーとインマヌエル。アガペーとは誰にでも無条件に贈られる神さまの愛。インマヌエルとは、神さまが一緒にいてくださること。これは、ぼくのブロ…

196 「あなたの嘆きが喜びに変わるとき。旧約詩人に学ぶ」

「旧約聖書に見るユーモアとアイロニー」(月本昭男、2014年、教文館) 詩編を読んでいると、最初は敵や神さえも呪うまでに自分の苦境を嘆いていた詩人が、とつじょ、神に感謝し、ほめたたえ始める、という場面にしばしば出くわします。いったい何が詩人に起…

195 「被災地の『刺激』に『ハマ』り、写真を盗り、声を盗る」

「境界の町で」(岡映里、2014年、リトルモア) 三十代の女性編集者。3・11からの3年間。2011年4月10日。彼女は福島県郡山市に到着した。 そこで、出会ったのは、原発労働者派遣業の元ヤクザ。その「お父さん」の町会議員。若い原発労働者たち。4歳年下のOL…

194 「讃美歌の本当の意味」

「嵐の中の教会 ヒトラーと戦った教会の物語」(ブルーダー著、森平太訳、1989年、新教出版社) 讃美歌は何のために歌うのでしょうか。信仰的な雰囲気、昂揚感、あるいは、敬虔さに浸るためでしょうか。聖書の物語やメッセージをコンパクトにおさらいするた…

193 「いつの日にか 帰らん」

「希望をもらえる 日本の言葉 日本の歌が伝える53のメッセージ」(株式会社ヤマハミュージックメディア編、2012年) ぼくも、人生の折り返し地点はかなり過ぎ、天国の神さまのもとに帰る日も、以前ほどは遠くありません。 「こころざしを 果たして、いつの日…

192 「何のために生きているのかと悩む人に寄り添うために」

「1000人の患者を看取った医師が実践している 傾聴力」(大津秀一、2013年、大和書房) 著者は三十代、そして、このタイトルだけれども、中身はすばらしい。自分の存在が揺らぎ苦しんでいる人々を支えること、そのための傾聴、そして、その結果としてその人…

191 「ともにいるうえに、救いの約束を果たしてくださる神」

「聖書は語りかける」(W. ブルッゲマン著、左近豊訳、2011年、日本キリスト教団出版局) 聖書とは、神が民を支え、導き、救ってきた道のりの膨大な記憶であり、その記憶に基づいた希望、これからも神はわたしたちに同じことをなしてくださり、現在の抑圧や…

190 「井上ひさし一押しの文章読本」

「文章読本」(丸谷才一、1980年、中公文庫) この人の文章なら読みたい。そんな名文を書くにはどうしたらよいのでしょうか。いや、名文などでなくても、読んでよかった、と三回か四回に一度くらい、思っていただけるくらいにはなりたいと。 井上ひさしさん…

誤読ノート189 「まじめに、ふまじめを貫く詩人」  「定本 山之

誤読ノート189 「まじめに、ふまじめを貫く詩人」 「定本 山之口貘詩集」(原書房; 新装版 2010年) ある日の朝日新聞、一面、最下段。 「他者とどう折り合うか」と題された天声人語。曰く、「沖縄生まれの詩人、山之口貘(ばく)の「存在」という詩は問いか…

188 「小説の前味、さらに中味、もひとつ後味」

「書き出しは誘惑する 小説の楽しみ」(中村邦生著、岩波ジュニア文庫、2014年) この書名に誘惑されました。 ぼくは、毎週、25分の話のために、数千字の原稿を書いていますが、やはり、書き出しに悩みます。それは、そのまま、語り出し、にもなります。これ…

187 「みじめなぼくらと、それでも捨てない神さまを語るミッドナイト・ディージェイ」

「迷っているけど着くはずだ」(塩谷直也著、新教出版社、2000年)神さま、どうして何もしてくださらないのですか。 神さま、どうしてぼくを見捨てたのですか。 神さま、どうしてぼくをこんなみじめに。ぼくのこの怒りを誰かに向けさせないために、 ぼくのこ…

186 「夢とは、考えることと打ち込むことが区別されない歩み」

「それでも僕は夢を見る」(水野敬也作、鉄拳画、文響社、2014年) お風呂屋さんの脱衣所、病院の待合、食堂、ネット喫茶で読むのが良いです。 あの交響曲と同じように、新聞の広告を見て、感動を求めて、買ってしまいました。 でも、何か良いところを見つけ…

185 「一日に一つの聖書の言葉、ルターの解説は詩のように美しい」

「慰めと励ましの言葉 マルティン・ルターにより一日一章」(徳善義和監修、湯川郁子訳、1998年)366の聖書の言葉。毎日、ひとつずつ。そして、ルターの解説。解説と言っても、簡潔で、やさしく、読みやすい。一日一頁。けれども、うつくしく、力強い。詩の…

184 「生者への一番大事な伝言、死者に届ける最高の希望」

「ゼツメツ少年」(重松清、新潮社、2013年) その空間の全員が、薄ら笑いを浮かべながら、ぼくを包囲し、こづきまわし、足蹴にし、論理も倫理もない、ただ群れの腕力だけによる、見せかけの屁理屈で、ぼくをなぶりものにし、それが、どこでもどこまでも続け…

183 「イエスがキリストとして生きつづけた二千年」

「ナザレの人イエス」(D・ゼレ/L・ショットロフ著、丹治めぐみ訳、日本キリスト教団出版局、2014年) 本書は、ドイツのふたりの女性神学者たちが、女性を重視する視点、社会の中で虐げられている人々の視点、さらには、ユダヤ教への敵意を反省する視点から…

182 「今度こそ、大きな声で言うよ。きみが死んだら、ぼくは悲しい」

「友罪」(薬丸岳著、集英社、2013年) 少年時代に子どもを殺してしまった鈴木くん。 同級生を自死させてしまった増田くん。 単身の寮長、山内さん。 鈴木くんの「母」、白石さん。 暴力男に貪られ、追い回され、徹底的に辱しめられる美代子。 皆、家族とは…

182 「今度こそ、大きな声で言うよ。きみが死んだら、ぼくは悲しい」

「友罪」(薬丸岳著、集英社、2013年) 少年時代に子どもを殺してしまった鈴木くん。 同級生を自死させてしまった増田くん。 単身の寮長、山内さん。 鈴木くんの「母」、白石さん。 暴力男に貪られ、追い回され、徹底的に辱しめられる藤沢さん。 皆、家族と…

181 「倫理と舟の作家、池澤夏樹」

「アトミック・ボックス」(池澤夏樹著、毎日新聞社、2014年) 池澤夏樹さんは、倫理と舟の作家だなあ、と思いました。この小説を読んで。別の作品も思い出して。これは、前作の「双頭の船」と並んで、ポスト3・11文学だなあ、とも。前作が岩手・宮城編なら…

180 「グローバリズムは、アメリカ産よりイスラーム産がかわゆい」

「一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教」(内田樹・中田考著、集英社新書、2014年) 内田さんはユダヤ教に、中田さんはイスラム教に通じていて、そして、ふたりは、キリスト教系大学の元教授。対談だから読みやすいです。 三つの宗教の比較と言う…

179 「不幸ではない。幸せと幸せの谷間にいるだけ」

「お父さんの手紙」(イレーネ・ディーシェ著、赤坂桃子訳、新教出版社) 新教出版社を代表する一作になるかも。 ハンガリーの田舎町にドイツから遊びに来た、そばかす、赤毛のダリア。 たちまち恋に落ちたラズロ。 最初のデートで宿ったのがペーター。 けれ…

178 「原発事故のことだけじゃない、福島県いわき市の高校3年生の気持ち」

「いわき総合高校 演劇部 『あひる月13』の脚本」(原案:いわき総合高校演劇部、構成・脚本:いしいみちこ、東京公演のラウンジで購入、欲しい方はいわき総合高校に問いあわてみてください) 俳優も、登場人物も、高校3年生中心。2011年3月は中学卒業を控え…

誤読ノート177 「他の人を愛する倫理をわかりやすく紹介してきた哲学者が、イエスと聖書とキリスト教と世界をゆたかに掘り下げてくれた」

「人生と信仰についての覚え書き」(岩田靖夫著、女子パウロ会発行、2013年) 目白・椿山荘正面玄関前の東京カテドラル聖マリア大聖堂。敷地に入ってすぐ左にある小さな書店で、この本を見つけ、すぐに買うことにしました。それだけではものたりず、どなたか…

176 「癒されることはない、しかし、歩み、育っていく」

「優しいあかりにつつまれて」(著者:たかいちづ、たけざわさおり イラスト:ひらたゆうこ、ひらたひさこ、2014年) 悲しみから癒されたい、この人が苦しみから癒されてほしい。ぼくたちは、すぐに癒しを求めてしまう。人が、すぐに、癒されることを望んで…