2013-01-01から1年間の記事一覧

134 「父にとってはモデル、息子にとっては女優となった裸婦」

映画「ルノワール 陽だまりの裸婦」 (2013年) ルノワールの屋敷は、自然公園のように広大で、光と緑にあふれ、まさに彼の絵の世界そのものでした。 この映画で知ったことをいくつか。 ルノワールの家には、モデルさんが何人か住み込んでいて、料理や洗濯、…

133 「暴力を暴露するための暴力的性描写はどうなのか」

映画「共喰い」 (田中慎弥原作、青山真治監督、2013年) 同名の芥川賞小説が原作。 映画からは、父殺し、暴力夫殺し、王殺し、女性/母親の発揮する、暴力断絶のためのすさまじい力と生命力、フェミニズム、というテーマがわかりやすく伝わってきました。 …

132 「仏に向かって脱皮し成長しつつ、自我を滅し他者のために」

「親鸞に学ぶ人生の生き方」 (信楽峻麿、法蔵館、2008年) 他力に傾倒する、その意味では信頼できる、仏教徒の知人からいただいた一冊。 著者は龍谷大の元学長。真宗学者。 けれども、書かれていることは、他力救済ではなく、自分自身の成長と他者に連帯す…

131 「生家の父は認知症、故郷は地震と津波」

「還れぬ家」 (佐伯一麦、新潮社、2013年) 私小説を執筆中に、舞台の故郷の地面が波打ち、ビルのような濁流に呑み込まれたら、作家はどうするでしょうか。 この小説は、認知症の父、介護にあたる母、妻、幼少期からの心的外傷を抱える「私」、そして、そう…

130 「絶対化ではなく相対化こそが神学伝統の知性」

「神学の起源―社会における機能」 (深井智朗、新教出版社、2013年) 「起源」とありますが、この本から伝わってくるものは、神学は二千年近く前にどのようにして発生したか、ということだけでなく、副題にあるように、その後の各時代の社会において、どのよ…

129 「フクシマからふくしま、福島へ 勝てないけど負けない戦い」

「被災地から問うこの国のかたち」 (玄侑宗久・和合亮一・赤坂憲雄、イースト新書、2013年) 前書きはお坊さんの玄侑さん、後書きは民俗学者、東北学の赤坂さん、間には、これに詩人・高校教員の和合さんを加えた三人の対談とそれぞれの講演記録。 玄侑さん…

128 「死さえ許されない「放射能」の「煮こごり」から逃れられないとしても」

「ヤマネコ・ドーム」 (津島佑子、講談社、2013年) 3・11以後の、いやそれ以前からの、この空間の重さを「煮こごり」と表現し、その煮こごりの中で生きざるを得ない人々、しかも、日本から捨てられた人々の問いと苦悩の、これまた、煮こごりと、そこからの…

 127 「あまちゃんの北鉄のモデル 震災と鉄道の意味」

コミック「さんてつ 日本鉄道旅行地図帳 三陸鉄道 大震災の記録」 (吉本浩二、新潮社、2012年) NHKの朝ドラの「北三陸市」は「久慈市」を、そして、「北三陸鉄道」は「三陸鉄道」をモデルとしています。 ドラマの、四半世紀前の開通シーン、震災時にトンネ…

126 「死んでしまえば、死はなくなるのか」

「死を見つめて(中学生までに読んでおきたい哲学?)」 (松田哲夫編、あすなろ書房、2012年) 死についての小文集。向田邦子、伊丹十三、池田晶子、神谷美恵子、河合隼雄、埴谷雄高、石原吉郎、そのほかの、読みごたえある執筆陣。大人が読む本。十代、二十…

125 「人によってそれぞれ違う悲しみに、形をもたらす手伝い」

「悲しみに寄り添う 死別と悲哀の心理学」 (K. ラマー著、浅見洋・吉田新訳、新教出版社、2013年) 大切な人に死なれ、悲しんでいる方々には、どのように寄り添えばよいのでしょうか。 本書の巻末にはつぎのように述べられています。 亡くなったことを言葉…

124 「キリスト教二千年の歴史はゆたかな霊的資源」

「キリスト教霊性の歴史」 (P. シェルドレイク著、木寺廉太訳、教文館、2010年) 「霊性」spirituality とは、いったい、なんのことでしょうか。ひとことで言えば、「わたしたちの中にある、神から与えられ、今も神とつながっている何か」ということにでも…

123 「肉食青年ロードムービー」

映画「オン・ザ・ロード」 (ウォルター・サレス監督、2013年) 草なんか食ってなかった60年前の若者たちの過剰な肉体。 原作は、「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」の1-1として、青山南訳で出されていたのに誘われて、少し前に読んでいました。でも、スト…

122 「中高年が若い世代の声を聞くデモンストレーションとして」

「40歳以上はもういらない」 (田原総一朗、2013年、PHP新書) 40歳未満の評論家、各種NPO(病児保育、貧困層融資、ブラック企業社員労働相談)代表、シェアハウス企画者、日本紛争予防センター事務局長らと、田原総一朗との対談集。 40歳未満がどんな発想を…

121 「2011年福島の断片を真摯に伝えるコミック」

「ディジー 3・11 女子高生たちの選択」(全二巻)(ももち麗子、2013年、講談社) 2011年度を福島の高校三年生として迎えた四人の物語。 フィクションであり、原作もあるが、ももちさんは、福島の高校生との交流など、綿密な取材と、誠実な思いに基づいて、…

120 「ナザレの男イエスを、ケセンの医師が脚色」

「ナツェラットの男」(山浦玄嗣、2013年、ぷねうま舎) 二千年前のイエスという人物を描くことは、大河ドラマの脚本を書くことに似ています。その試みはイエスの死後百年の間にすでに始まっていますが、そこでは、書き手や読み手にとってのイエスの「意味」…

119 「イエスのイメージをよりゆたかに」

「イエス入門」(リチャード・ボウカム、2013年、新教出版社) 使徒信条にはイエスの誕生と死しか述べられておらず、イエスの行動や発言、思考といった部分が欠けていると言われています。もしわたしたちが使徒信条だけによって、あるいは、「イエス・キリス…

118  「社会活動と沈黙の中で汲み取られる霊性」

「牧者の務めとスピリチュアリティ」(ケネス・リーチ、2004年、聖公会出版社)スピリチュアリティとは、神の心がわたしたちの中に宿りわたしたちを生かすもの、あるいは、わたしたちが自分を超えて神という源を求めるときわたしたちの中に湧き出しわたした…

117  「生まれ変わり、死者を思い続ける」

「生と死についてわたしが思うこと」(姜尚中、2013年、朝日文庫) 息子さんの死と、東日本大震災の死者について、著者がどのように語っているのか、知りたくて、手に取りました。 雑誌「アエラ」に載っていたコラムを集めたものなので、あまり深い掘り下げ…

番外編

映画「風立ちぬ」宮崎駿「この映画は戦争を糾弾しようというものではない」と宮崎さんは記しているが、映画を観て、過去の戦争を反省し、二度と戦争をすべきでないというメッセージを受け取っても曲解ではなかろう。うろ覚えだが、「人殺しや金儲けのために…

116  「著者が言う、生きることを好きになるとは、楽に生きることではなかろう」

「きみの町で」(重松清、2013年、朝日出版社) ミロコマチコさんの絵とのコラボ。 子どもの読者を考えて書かれているが、いや、それゆえに、おとなをも「考える人」にしてしまう。 電車の中、教室、登下校道は、哲学に満ちている。 重松清の筆にかかれば、…

115  「悲しまないことではなく、悲しむことによって」

「悲しみを生きる力に 被害者遺族からあなたへ」(入江杏、2013年、岩波ジュニア新書) 失業してしまった人、何度試みても良い結果が出ず希望を失ってしまいそうな人、誰かとの人間関係が壊れてしまった人、親しい人や大切な人に先立たれた人、大地震、大津…

114  「原発とは、日本が腹に呑み込んだアメリカか」

「「幸せ」の戦後史」(菊地史彦、2013年、トランスビュー) 日本社会は勤勉にアメリカ的なものを学んだ末に、アメリカよりもアメリカ的になってしまった。アメリカを単純に模倣したのではなく、日本的な味付けをし、「もうひとつのアメリカになった」(p.32…

113  「井上ひさしとその仲間たち」

「総特集 井上ひさし やわらかく、ときに劇的に」(KAWADE夢ムック、2013年)1)大江、丸谷らとの鼎談を読みながら、井上ひさしさんもノーベル賞並みの仕事を残していると思いました。2)小沢昭一との対談「歌舞伎あれこれ」で、井上さんが今の歌舞伎を評…

112 「ある科学者の宗教性」

「イエス・キリストの生涯の要約」(パスカル、2013年、新教出版社) パスカルは17世紀フランスの数学者、物理学者にして、哲学者、神学者。 その彼が、イエス・キリストの生涯を一冊の書にまとめていた。 というのは、イエスの生涯、というより、生まれた時…

111 「グル宗教すれすれの思想?」

「最高の人生をつくる授業」(辻信一、2013年、講談社) 内容は、日本からの大学生が辻さんと一緒にイギリスに短期滞在し、サティシュ・クマールというインド出身の思想家と出会い、対話をし、大きな刺激を受けるというもの。 十年くらいまえに辻さんの「ス…

110 「四十年間、井上ひさしを読み、観てきた記録」

「井上ひさしの劇世界」(扇田昭彦、2012年、国書刊行会) 最初は朝日新聞学芸部記者として、四十年前から、井上ひさしの劇を観つづけ、台本や小説を読み続けてきた演劇評論家、扇田さんが、新聞、雑誌、文庫本巻末などに、書き重ねてきた劇評、書評、井上ひ…

109 「この世は神がご自身を表す場、人はそれに感謝をささげる存在」

「世のいのちのために 正教会のサクラメントと信仰」(アレクサンドル・シュメーマン、2003年、新教出版社) 著者によれば、次のような考え方はキリスト教的ではありません。・・・この世は物質からできているから、霊的な世界、神の国に劣る・・・ ・・・こ…

108 「絶望に魂を埋め立てられてしまわないために」

「死者と生者のラスト・サパー 死者を記憶するということ」(山形孝夫、2012年、河出書房新社) 学問と、その背景にある、人生の歩みと精神の旅が、これほど詩的に絡み合い、読む者の心をこれほど酔わせる書を、ぼくはほかにあまり知らない。酔いゆえか、す…

107 「その人をひとりにさせまいとする者たち、それを家族と呼ぶ」

「遺体 震災、津波の果てに」(石井光太、2011年、新潮社) これは、震災、津波で遺体となった人々を、ひとりにはさせまいとする、家族、住民、釜石市民の物語。 家族のもとに帰そう。この言葉が主旋律として何度も繰り返される。ならば、家族に見いだされな…

106 「イエス物語が伝える、抵抗と美」

「名画で読む新約聖書」(山形孝夫=著、山形美加=絵画解説、2011年、PHP) この世界で起こるさまざまなこと(風、水、家族の生と死、言葉・・・・)についての深い宗教的感性と思索を備えた(・・・これは神さまに願えば何でも大丈夫という「信心深さ」と…