111 「グル宗教すれすれの思想?」

「最高の人生をつくる授業」(辻信一、2013年、講談社

 内容は、日本からの大学生が辻さんと一緒にイギリスに短期滞在し、サティシュ・クマールというインド出身の思想家と出会い、対話をし、大きな刺激を受けるというもの。

 十年くらいまえに辻さんの「スロー・イズ・ビューティフル」を読んだことがあったのと、新聞広告で見たタイトルの後半部分に釣られて、買って読んだが、ぼくにとって何か新しいものを、探し当てることはできなかった。(正式のタイトルは「英国シューマッハー校 サティシュ先生の最高の人生をつくる授業」)

 それでも、いくつか、線を引いた言葉はある。新発見、ということではないけど。ナチュラル志向の文には良く出てきそうなものがほとんど。

※人生はアートであり、わたしたちはその人生の、他の人とは交換不可能な主人公、つまり、アーティスト。

※自分の吸う息、吐く息は、まわりの人と共有されているもの。つまり、わたしたちはいのちの呼吸をわかちあっている。

※瞑想の時に手を合わせることは、自然と人間などの区別がなくなった一体の状態を示している。

※わたしたちは自然界からの一方的な贈り物によって生かされている。

※自分を過小評価せずに、すばらしい仕事をして、他者を幸せにできると実感してほしい。

※「水は目の前に岩があっても、その岩にぶつかろうとするのではなく、その周りを優しく巡るように流れていく」(p.144)

※君が今ここにいること、それが君ができる最高の贈りもの。

※人に悪い面があれば、自分の良い面で覆ってしまえばよい。

※「怒りや憎しみを慈悲や寛容という自分の良い面を育てるための堆肥として使うといい」(p.180)。

※有名になり、コンクリート化し、人やゴミが増えた、古くからの名所には、「巡礼者歓迎、観光客お断り」という看板を出してはどうか。

※死に立ち向かわずに、死とその意味を理解すれば、悲しみは癒される。

※「この世界がこう変わったらいいな、と思うその変化にあなた自身がなりなさい」(p.236)。

 へえーと思う言葉もいくつかあるけど、全体的には、よく聞く言い回し、深みのない常套句が多い、という印象を免れない。

 驚いたのは、これからサティシュを離れて、日本に帰る不安を訴える学生に、「だったら、私を連れていけばいい」と言ったこと。

 たしかに、何かを伝えるには、知識を丁寧に教える以上に、その教師のようになりたい、という思いを抱かせることだ、と聞いたことがあるけれども、サティシュ、あるいは、辻さんの真意はどこにあるのだろう。

 まさか、帰依しなさい、ってこと? 

 ぎりぎりっぽいのがひっかかっている。