「名画で読む新約聖書」(山形孝夫=著、山形美加=絵画解説、2011年、PHP)
この世界で起こるさまざまなこと(風、水、家族の生と死、言葉・・・・)についての深い宗教的感性と思索を備えた(・・・これは神さまに願えば何でも大丈夫という「信心深さ」とはかなり違う)宗教学者であり聖書学者である山形孝夫さんによる、おとなの聖書物語、イエスと弟子たち、あとに続く者たちの物語。
そのいくつもの場面を描いた名画。もちろん、色刷り。美加さんによる解説。
イエスの癒しには、社会の差別論理に立ち向かい、病気ゆえに人々から偏見を受けている人びとの重荷を取り除き、解放し、社会復帰させる意味があった、と孝夫さんは言う。
「主の祈り」には、社会を支配する偽善者たちへの痛烈な批判が含まれていたとも。
重税に苦しみ、土地を奪われ、小作人とされ、さらには、家も失うガリラヤの農民。共同体の外へと追いやられる重い皮膚病の患者。イエスの説く神の国はその人々のただなかで語られる。
聖書をめくってイエスの生と死のイメージをつかむのはそんなに簡単なことではないが、本著は、四つの福音書をもとに、人を愛するがゆえに虐げる者に抵抗するイエスの歩いた道を描き出している。
そして、そのイエス物語からにじみ出る、深淵からの美を伝える、粒選りの名画が待っている。