新任の先生と転校生。
ふたりの登場によって、さおりたち演劇部員を乗せた汽車は、乳白色の路を走り出した。
「これはまるで『演劇修行』、それでいて青春小説」という、俳優・堺雅人の推薦文に、いつわりはない。
演劇は、「リアルとフィクションの境目」だと言う顧問の言葉。
演技とは、相手がキャッチしてくれると信じて、ぎりぎりのところにパスを出すこと、と部長のさおり。
豹が獲物を狙うがごとく、母が遊ぶ我が子を見守るがごとく、舞台袖に立つ部員。
これは、おなじく著者の近著、「わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か」の実写版と言ってよいかも知れない。
演劇とは、バラバラな人間が、バラバラでありながら、いくらかでも理解しあっていくこと、と顧問は良く口にし、わたしたちは、どこまでも行けるけど、それゆえに、どこにもたどり着けないから、不安であり、それこそが現実だ、とさおりは気づき、さおりは顧問のことを許さないけど、恨まない、憎まないと言う。
最後の三十頁。電車の中なのに、こみあげてきた。
マスクをしていたから、泣かない自分を演じることができた。