59 「意見が一致しないのは、必ずしも悪いことではない」

「中学生からの 対話する哲学教室」(シャロン・ケイ、ポール・トムソン著、玉川大学出版部、2012年4月20日

 「哲学教室」と言っても、この本は、哲学者や哲学者研究者の書いた難解な文章を読んで、それを再現したり、引用したりできるようになることを目指しているのではありません。

 そうではなく、この教室が伝えようとしていることは、自分で考えたり、他者と議論したりすることのおもしろさやゆたかさです。

 そして、哲学をすることで、わたしたちは「ものごとは、気に入らなければ変えてもいいのだ」「意見が一致しないのは、必ずしも悪いことではない」「自分自身をかき混ぜるのにもっともいい方法は、自分の意見とは異なる他人の意見を聞くこと」(p.4-5)といったことを学ぶのです。

哲学の議論は「自分では気づかない自らの議論の欠点を指摘しあうために行っているのであり、自らの型にはまった狭い思考から抜け出すために」あり、「そこには“勝ち負け”も“唯一の絶対的な正解”も、存在しない」(p.145)のです。

 とは言うものの、この書は、なんでもありということを言っているのではなく、真理にたどりつくことは困難であっても進歩は可能である、という立場も紹介されており、まさに、哲学とは議論を通して、自他の思考を進歩、あるいは、変遷させていくことなのでしょう。あるいは、

 本書では、「美」「真」「正義」「神」といったテーマが、それぞれ学生(?)の日常的な会話を入り口として、興味深く議論されています。