71 「一番伝えたいことが伝わらない」

「キリガイ ICU高校生のキリスト教概論名(迷)言集」(有馬平吉編著、新教出版社、2012年)

 漢字で書けば「国際基督教大学高等学校」という、大学だか高校だかわかりにくい高校の、「キリスト教概論」なる授業を受けて、生徒たちが書いたレポートと、それを編集した有馬先生のお言葉。
 信じること、死、罪、神の救い、愛などのキリスト教のテーマの他に、差別、労働、学歴、他人の目など、高校生一般向けとも思えるものも扱っている。
 授業は、察するに、先生が若干の説明や材料提供などもするようだが、おもには、先生と生徒、あるいは、生徒同士の対話から成り立っているようだ。そして、学期末にはレポート。
 
生徒たちのするどい指摘。たとえば、

〇何か言っても「そうだよね〜」だけの会話はさみしい。
〇ケンカをしたくないから、自分の意見を言わない人が多いが、それは仲良しごっこ
〇学歴は人格ではなく、能力を示すものだが、その区別ができない人がいて困る。
〇「私は身体障害者です」と言う生徒の夢ならぬ目標は「健常者のスポーツ大会で、表彰台に昇ること」。
〇「罪は私たちの影だ。影だから私たちと共にいる・・・・影だから昼は太陽の下で大きくみえてしまう。影だから夜は月が出ていない限り闇の中で見えなくなってしまう」。

先生の弁も。

〇一番伝えたいことは伝わっていないのではないか。 (← 生徒の無理解ではなく、自分の徒労感を指すなら共感します)
〇語っていることを実感しているか、本当に生徒に伝えたいと願っているか、自己吟味することが大切。 (← たしかに伝えたいことがないと何も伝わらないだろうけれども、伝えたいことがはっきりしすぎていても何も伝わらないようにも思います)
〇教室は「生き物」だから「ノイズ」がつきもの。 ( ← たしかにぼくはノイズに対して不寛容になることがあると反省しました)
〇若者には独断や独善、決めつけ、安直さ、面倒くささ、心の傷などがあり、心にふたをしている。 (← そう思うと、もっと柔軟に生徒に応答できるかも)

 ちなみに、ぼくはご同僚二人から先生の授業についての感想を聞いたこともありますが、再版時はそういうのもあわせて掲載するとおもしろそうです。