2022-01-01から1年間の記事一覧

668「みすゞの死は神を信じなかったゆえか」・・・「金子みすゞの苦悩とスピリチュアリティ」(窪寺俊之、関西学院大学出版会、2022)

金子みすゞの詩は美しく癒される。彼女の詩は目に見えない世界をも詠んでいる。その意味で宗教的である。けれども、窪寺さんは彼女の宗教性についてこう述べる。 「宗教の機能を認知機能・思考機能・信ずる機能と三分類した。その場合、彼女は認知機能は優れ…

667 「極上の神学が、やさしく、深く物語られる」 ・・・「それで君の声はどこにあるんだ?――黒人神学から学んだこと」(榎本空、岩波書店、2022)

この本は神学と深いかかわりを持っているが、文学である。神学は詩でなくてはならない、とかつて思ったことがあるが、そして、じじつ、ぼくが好んできた神学はどこか詩的なのだが、この本は、文学である。文章が水彩画のように美しい。 ところで、副題に「黒…

666   「17世紀ポカホンタスから21世紀バイデンまで」 ・・・ 「アメリカ・キリスト教入門」(大宮有博、キリスト新聞社、2022年)

とても読みやすく、おもしろい。つまり、何度読んでも意味をつかめずいらいらさせられる難解なセンテンスは出てこない。ほとんどの表現はすらすらっと読める。内容がわかるから、アメリカのキリスト教の歴史はおもしろいと思える。 アメリカのカトリックやプ…

665「二千年は神学の植物園」・・・「キリスト教神学命題集: ユスティノスからJ.コーンまで」(執筆者多数、日本キリスト教団出版局、2022年)

登場人物が豪華。ぼくが名前を聞いたことのある人だけでも、ユスティノス、オリゲネス、アタナシオス、擬デイオニュシオス、アウグスティヌス、アンセルムス、ベルナルドゥス、トマス・アクィナス、エックハルト、オッカム、ウィクリフ、エラスムス、ルター…

664  「イエスはメーメー鳴くか」 ・・・ 「死と命のメタファ: キリスト教贖罪論とその批判への聖書学的応答」(浅野淳博、新教出版社、2022年)

イエス・キリストがわたしたちの代わりに十字架で死んでくれたので、神はわたしたちの罪を赦してくれた、と考えるキリスト者がいる。イエス・キリストが示し、従うように促してくれた道を歩むことが大切である、と考えるキリスト者もいる。両方を考える者も…

663   「この人を見よ、この人のように死にたい」 ・・・「死刑囚 島秋人 ―― 獄窓の歌人の生と死」(海原卓、日本経済評論社、2006年)

島さんには人に褒められた記憶がほとんどなかったと言います。しかし、中学生の時、吉田先生から「絵は下手だけど、構図がおもしろい」と褒められたのです。 獄中でそれを思い出し、先生に手紙を書きます。すると、先生が返事をくれたのです。それには、先生…

662 「浄土真宗とキリスト教は親戚かもしれません」 ・・・「なぜ?からはじまる歎異抄」(武田定光、真宗新書、2016年)

武田定光さんは浄土真宗の住職であり、ぼくはプロテスタントの牧師ですが、武田さんはぼくがもっとも共感できる宗教者のひとりです。 安易に「まったく同じ」などと言うつもりはありませんが、この本に出てくる宗教思想には、プロテスタントの信仰とかなり強…

661   「お年寄りの目から見た介護」 ・・・「最後の椅子」(齋藤恵美子、思潮社、2005年)

お年寄りと介護する人の毎日から生れた詩の数々。 「車椅子の、目線のひくさにももう慣れた」 車椅子を押す人、横に立っている人の目線は高く、車椅子に乘っている人を見下ろしてしまっているのですね。 「糊ですね、どう眺めても、食事というより糊ですね …

660   「フリーな牧師のフリーな聖書解釈」・・・「非暴力非まじめ: 包んで問わぬあたたかさ (vol.1)」(櫻井淳司、2022年、ウネリウネラBOOKS)

著者は自身を「どの教会にも属さないフリー牧師」と言っています。聖書の読み方もフリーなこの著者は、非暴の普及促進活動のなかで、この本に現れるユニークな精神を育んできたのでしょう。 「私が考える限り、「非暴力」とは、以下のようなあらゆる「諸力」…

659   「牧師が住職から学ぶこと」 ・・・ 「〈真実〉のデッサン」(武田定光、2021年、因速寺出版)

浄土真宗を学び、僧侶になる直前だった、という方が、いぜんぼくの働いていた教会に通ってくださり、礼拝の説教やキリスト教の読書会などに理解を示してくださり、ひょっとしたら、この方は、キリスト教徒になってくれるのではないかと妄想したことがありま…

658   「組織神学ではなく教義学」 ・・・「教義学要綱」(カール・バルト著、天野有、宮田光雄訳、2020年、新教出版社)

教義学と組織神学はどのように違うのだろうか。 「神には、創造者、御子キリスト、聖霊の三つの位格がある」 「神には、創造者、御子キリスト、聖霊の三つの位格がある、という論がある」 ぼくの中では、とりあえず、前者が教義学であり、後者が組織神学であ…

657   「自分の愛するものを見つければ、生きる喜びが湧く」 ・・・ 「世界は善に満ちている トマス・アクィナス哲学講義」(山本芳久、新潮社、2021年)

好きな人がいたり、好きな本を読んでいたり、好きな連続ドラマを観ていたりすると、私たちは、生きているのが楽しくなり、生きていよう、という思いになります。この本が伝えてくれることは、これに似ているのではないでしょうか。 世界には愛すべきものがた…

656   「教会にはコロナ対策も減少化対策も要らない」 ・・・「「洗礼」をめぐって: 今日聖書はなにを語っているか」(早坂文彦、ヨベル、2021年)

リベラルな先輩がこれいいよ!と勧めてくださったので、すなおに読んでみました。意外にも、ある意味、オーソドックス。でも、やはり、リベラルでした! バプテスマのヨハネは「その方は、聖霊と火であなたたちに洗礼をお授けになる」(マタイ3:11)と言って…

655  「ようわからん神」・・・「ヤバい神: 不都合な記事による旧約聖書入門」(トーマス・レーマー、新教出版社、2022年)

「ヤバい」とはどういう意味なのか。本書の原題はフランス語で DIEU OBSCUR である。ぼくはフランス語は知らないが、DIEU は「神」で、OBSCURは「暗い、薄暗い、 分かりにくい、難解な、曖昧(あいまい)な,漠然とした,おぼろげな」というような意味のようだ…

654  「神を感知することと出会うことは違う」・・・ 「見えない神を信ずる 月本昭男講演集」(月本昭男、日本キリスト教団出版局、2022年)

「土地は神に属するという思想の背景にはどのような発想が隠れているのでしょうか。それは古代イスラエルの人たちが自分たちの先祖を羊飼いと考えたことと無関係ではなかろう、と私は思います」(p.56)。 土地は神のものであるという旧約聖書の思想には大きな…

653「海をもらう とは」・・・ 「海をあげる」(上間陽子、2020年、筑摩書房)

沖縄が好きだ、という観光客は少なくないだろう。沖縄の海が好きだ、と。沖縄の人はやさしいと。では、米軍基地に抵抗する沖縄の人は好きなのだろうか。つぎのような沖縄の日常生活は好きなのだろうか。 「飛行機が接近すると家全体がガタガタ震えるから、娘…

652   「世界という必然、神に委ねて生きる自由」・・・「スピノザ『エチカ』 2018年12月 (100分 de 名著)」(國分功一郎、2018年、NHK出版)

本書によれば「スピノザは神を自然と同一視しました」(p.23)。けれども、この場合の自然とは「世界全体」のことです。 「神は自然であるだけでなく、「実体 substantia」とも呼ばれます・・・実体とは実際に存在しているもののことです。スピノザが神は実体…

651「お坊さんと牧師さんの共通点、相違点」・・・「相互救済物語」(武田定光、2021年、因速寺出版)

東京都江東区にある真宗大谷派の因速寺の武田住職の講演を起こしたものです。 以前に読んだ本では、キリスト教との共通点を感じ、また、一宗教にこだわらないお考えにひじょうに共鳴しました。 今回は、これらに加えて、キリスト教との相違点も学びました。 …

650 「天を掘る」・・・「新版 小林秀雄 越知保夫全作品」(越知保夫 (著)、若松英輔 (編集)、2016年、慶応義塾大学出版会)

650 「天を掘る」 「新版 小林秀雄 越知保夫全作品」(越知保夫 (著)、若松英輔 (編集)、2016年、慶応義塾大学出版会) 本書を編集した若松英輔さんがこう書いています。「越知が論じる小林秀雄は批評家であるととともに一個の聖性の探求者である」(p.527)。…

「差別に基づく翻訳の若干の是正」・・・ 「ここが変わった! 「聖書協会共同訳」新約編」(日本キリスト教団出版局、2021年)

マタイ27:25は新共同訳では「その血の責任は、我々と子孫にある」となっています。この訳だと、「イエスを拒否して十字架で殺した責任はユダヤ人に子々孫々受け継がれているとする考え」(p.21)を生み、現代まで続く「ユダヤ人迫害の根拠」(同)となってしまい…

648  「人間にある有限性と無限性の葛藤を乗り越えさせる力」・・・ 「ティリッヒ組織神学の構造」(茂洋、1971年、新教出版社)

キリスト教用語に頼らず、もっと一般的な言葉づかいで、キリスト教の神を言い表すことに関心があり、その流れで、半年ほど前から、ティリッヒに立ち寄っている。といっても、ティリッヒについての本を数冊読んだだけで、ティリッヒ自身の著作は、三冊しか読…

647   「センス・オブ・ワンダーの訳し方」・・・ 「いのちの秘義——レイチェル・カーソン『センス・オブ・ワンダー』の教え」(若松英輔、亜紀書房、2022年)

題名にあるとおり、この本では、レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』を若松英輔さんと一緒に読むことができます。 センス・オブ・ワンダーとは何でしょうか。不思議を感じること、驚きの感覚、でしょうか。 若松さんはレイチェル・カーソンさ…

646 「翻訳における差別表現訂正の一例」・・・「ここが変わった!「聖書協会共同訳」旧約編」(日本キリスト教団出版局、2022年)

王だけではなく、「聖書では、人類すべてが「目に見えない神の、目に見える代理人として、愛と正義をもって世界を治めるために造られた」と主張しており」(p.12)。 これは、聖書のどの個所に基づいた見解だと思いますか。創世記1章27節です。「神は人を自分…

誤読645「差別認識・克服のために言葉をていねいに紡ぐこと」・・・「クィア神学の挑戦 クィア、フェミニズム、キリスト教」(工藤万里江、新教出版社、2022年)

世界では、人が人を支配する、抑圧する、差別する、殺す、踏みにじっています。そして、この不正義に、キリスト教、キリスト教会も加担しています。 この指摘に対して、「キリスト教を『正しく』理解すればそれを乗り越えられる」とか「キリスト教は本来その…

644 「キングの愛は神の無償の愛か」・・・ 「キング牧師: 人種の平等と人間愛を求めて」 (辻内鏡人、中條献、岩波ジュニア新書、1993)

ヒップホップ世代はキング牧師の公民権運動世代とのギャップを感じている、と聞く。けれども、変わらないことがある。黒人が白人警官に棒で殴られ地面に抑えつけられ、射撃され、殺されるということだ。 しかし、それだけではない。抑圧や希望の表現の違いは…

644 「キングの愛は神の無償の愛か」・・・ 「キング牧師: 人種の平等と人間愛を求めて」 (辻内鏡人、中條献、岩波ジュニア新書、1993)

ヒップホップ世代はキング牧師の公民権運動世代とのギャップを感じている、と聞く。けれども、変わらないことがある。黒人が白人警官に棒で殴られ地面に抑えつけられ、射撃され、殺されるということだ。 しかし、それだけではない。抑圧や希望の表現の違いは…

643「見える教会に頼らない信仰」・・・ 「LGBTとキリスト教 20人のストーリー」(日本キリスト教団出版局、2022年3月)

その人の性ゆえに他の人々から差別を受けてきた約20人に、わたしたちとキリスト教が何をしてきたか、その約20人はキリスト教とどのように向き合ってきたか。 出版や文字化、文書化は、本来は多様な存在を「LGBT」という範囲の狭い言葉でまとめたがり、それを…

642「災害を考えることは、目に見えない、世界の根本を考えること」・・・「100分de災害を考える 2021年3月 (NHK100分de名著)」(若松英輔、NHK出版、2021年2月)

本書で「災害を考える」ということは、災害防止や対策を考えることではない。では、何を考えるのか。 本書では、寺田寅彦の「天災と日本人」、柳田国男の「先祖の話」、セネカの「生の短さについて」、池田晶子の「14歳からの哲学」が取り上げられている。そ…

641 「古い神学用語を言い換えてみると」・・・ 「書き遺す 神学へのメモ ―贖罪・文化・歴史・老いる―【増補版】」(渡辺英俊 (著)、大倉一郎(編集)、2021年、ラキネット出版)

副題にあるように、贖罪、文化、歴史、老いを考察する一冊である。 この場合の「文化」は、良質の芸術や文学というよりも、「社会」「社会の支配的な考え方」に近いように思われる。社会の固定的抑圧的な通念に抗う新しい精神の登場が述べられている。 「歴…

640   「自己顕示ではなく、書くこと」・・・「常世の花 石牟礼道子」(若松英輔、亜紀書房、2018年)

暴力的な文章がある。それは、武力攻撃や差別、侮辱、搾取、抑圧と同類だと思う。 石牟礼道子と若松英輔の文章は、暴力的な文章ではない。むしろ、暴力的な文章の暴力性を明らかにしてしまう、平和といのち、悲しみと愛に満ちた文章だ。 ふたりは、書く。わ…