その人の性ゆえに他の人々から差別を受けてきた約20人に、わたしたちとキリスト教が何をしてきたか、その約20人はキリスト教とどのように向き合ってきたか。
出版や文字化、文書化は、本来は多様な存在を「LGBT」という範囲の狭い言葉でまとめたがり、それを押し通すことがある。ほんとうは「約」20人とその人びとに関わる人びとであろうに、「20人のストーリー」とまとめられる。出版は、出版する者の意志によって、そのような取捨選択をする。
内容においても、約20人について、載せられなかった部分も少なくないだろう。また、「ストーリー」（というか、生そのものだと思うが）掲載を希望しても趣旨が違うと断られた人もいると聞く。
それでも、大事な言葉に出会うことができた。それは、やはり、出版ではなく、当事者の力だ。
無料低額宿泊所などでは「トランスジェンダーの（出生時に認定された性別と性自認が一致していない）人たちはそうした環境に耐えられず、あるいはレズビアン、ゲイ、バイセクシュアルの場合でも、同室の人に自分のセクシュアリティが知られてしまう恐れなどから精神的に不安定になり、立ち直るきっかけを失ってしまう人もいます」(p.36、石坂わたる)。
こういう切実なこともあるのですね。考えもしていませんでした。ひじょうに大事なことですね。
自分の教会などの「牧師がLGBTであることをまったく問題視していない、それ自体はすばらしいことだ。しかし一方で、それは問題意識に至っていない側面だと言えるのかもしれない」（p.133、編集部）。
該当記事を読みながらそう感じていたので、編集部のこの指摘にはおおいに共感しました。
「しかし教会に行けなくなったことで、自覚していなかった抑圧から解放されたのです。10年通い続けた教会から切り離してくださったのは紛れもなく神さまだと感じています」(p.142、内田和利)。
「私はカトリックの洗礼を受けましたが、現在のカトリック教会には属していません。100年後、多様性を認めたカトリック教会に属しています」(p.168、島田順子)。
この本のタイトルから、「LGBT」の信仰証集を予想しましたが、このふたりの証言に触れ、予想より遥かに深い信仰の証を感じました。
「僕は、このような福音派クリスチャンには罪か否かという話はあえてしないようにしています。多くの人は『これまでの聖書解釈を否定されたら信仰が根底から崩壊する』と思っているために、『その個所の意味は実は……』といった話を聞くと拒絶反応を起こしてしまうからです。それよりも、次のようなアプローチで話をします。「皆さん自身が同性愛や性別移行を罪だと信じている分には構いません。ただ、それをLGBT当事者に押し付けるとき、何が起こるかご存じでしょうか。『自分は御心に従えない、神に見放されているのだ』と絶望し、精神を病んだり自死してしまったり、そうでなくても変わるべきという圧力に耐えきれず、教会を離れざるを得なくなるんです」(p.191、寺田留架)。
この言葉は、性ゆえに差別されている人びとへの共感に満ちていると思いました。同時に、福音派と呼ばれるクリスチャンの心情をもとても大事にしていると感じました。わたしなどは本で読んだ知識で「その個所の意味は実は……」と言ってしまいそうです。言ったかもしれません。きっと言いました。
「自分の中にある差別性や暴力性と向き合わないといけない・・・「ゲイ（男性同性愛者）」は最も「有利」な存在であると感じています。性的マイノリティである以前に「男性」という既得権があるからです・・・性的マイノリティであっても差別者・加害者になりうる」(p.236、平良愛香)。
その通りだと思います。わたしは、自分は、シス（トランスではない）、異性愛者、男性であると思っていますが、これには、既得権、差別性、暴力性があることを認めざるを得ません。
「マイノリティの要素というものは誰もが持っていて、その意味ではすべての人が当事者だと言えるのではないでしょうか」(p.4、編集部)。
わたしは、出版という領域では、出版者でも執筆者でもなく、出版に値する言葉も書けませんし、編集部や著者への問いかけも無視されているマイノリティですが、かといって、性ゆえに差別されている人と同じ意味での当事者とは言えません。
しかし、平良さんの「性的マイノリティであっても差別者・加害者になりうる」という言葉には共感します。わたしは、性的にはマイノリティではありませんが、出版においては上述のようにマイノリティであり、そうであっても、差別者です。加害者です。
