2022-01-01から1年間の記事一覧

639   「教会は境界に立つ」・・・ 「ティリッヒ著作集 第10巻」(パウル・ティリッヒ著、武藤一雄、片柳栄一訳、白水社、1978年)

この巻には「Ⅰ 自伝的回想」という章があり、そこには「境界に立って」と「自伝的考察」という文章が収められています。このふたつは、ティリッヒを読むうえでの基本であると聞いています。 都会と田園、現実と夢想、理論と実践、他律と自律、神学と哲学、教…

638「じつに聖書はヒップホップでした」 ・・・「アーバンソウルズ」(オサジェフォ・ウフル・セイクウ著、山下壮起訳、2022年、新教出版社)

社会構造によって、警察、軍隊を含む政治の暴力によって、ライフ(いのち、生命、人生、生活)を踏みにじられている人びとがつねに存在します。そして、そこからのリベレーションの行動や文化活動、思想活動がつねになされています。後者はつねにアップデイ…

637 「神学とは親の束縛を乗り越えること」・・・「パウル・ティリッヒ 1 生涯」(ヴィルヘルム&マリオン、ヨルダン社、1979年)

若松英輔さんはカトリックだが、キリスト教だけが正しい宗教などは言わず、むしろ、他の宗教、文学、芸術、思想の中に、世界の根本にあるものの現われを見いだしていく。 ぼくは、神学に触れて40年、ティリッヒを読んだことはなかったが、昨秋、何かを読んで…

636    「預言者もイエスも農に近かった」 ・・・「聖書と農 自然界の中の人の生き方を見直す」(三浦永光、新教出版社、2021年)

農村伝道神学校出身の友人が複数いたり、二年前にこの神学校に比較的近い教会に転任したり、去年からそこで週に一度学ぶようになったり、長野や広島で農業を始めたキリスト教の友人がいたりで、この本を読んでみることにしました。 「アモスが語った正義と恵…

635    「わたしが信じるのではない。信はすでにここにある」・・・ 「〈真実〉のデッサンⅡ」(武田定光、2022年、因速寺出版)

住職のエッセイ集。読みやすいですが、深い思索に基づいています。 わたしは、比較的リベラル、自由なキリスト教の牧師ですが、読んでいて、それは違う、と思うようなところはありませんでした。その通りです、とか、なるほど、そのように考えるのですね、こ…

634    「母殺父殺を待ち受けるもの」・・・ 「別冊NHK100分de名著 集中講義 ドストエフスキー: 五大長編を解読する (教養・文化シリーズ 別冊NHK100分de名著)」(亀山郁夫、2021年、NHK出版)

誤読ノート634 「母殺父殺を待ち受けるもの」 「別冊NHK100分de名著 集中講義 ドストエフスキー: 五大長編を解読する (教養・文化シリーズ 別冊NHK100分de名著)」(亀山郁夫、2021年、NHK出版) 「罪と罰」「カラマーゾフの兄弟」など、ドストエフスキーの五大…

633 「詩人の魂の源泉と飛翔」・・・「みすゞと雅輔」(松本侑子、2020年、新潮文庫)

みすゞは山口県は仙崎の、そして、雅輔(がすけ)は下関の本屋の子どもでした。下関は仙崎の本店にあたります。雅輔はみすゞの弟でした。けれども、下関の本屋夫婦には子がなく、仙崎のみすゞの父は死に家計は苦しく、雅輔は物心つく前に養子に行ったのです…

632    「コロナ前に戻るのではなく、コロナ前とは違う社会へ」 ・・・「ユダよ、帰れ コロナの時代に聖書を読む」(奥田知志、新教出版社、2021年)

「『キリスト教徒にならないと救われない』という教えはいかにも『スケールが小さい』。この教会は、そういう差別的な宣教理解は卒業しました」(p.51)。 「『信じる者は救われる』と言います。はたしてそうでしょうか。『信じられない、認められない、分から…

631    「キリスト教は二千年の旅びと」 ・・・ 「キリスト教の核心をよむ (教養・文化シリーズ NHK出版 学びのきほん)」(山本芳久、NHK出版、2021年)

「学びのきほん」とありますが、初心者向けの入門知識が羅列されているのではありません。本書は、おそらくは、すでにキリスト教に親しんでいる人にも、「核心」を、しかも、あたらしい角度から語りかけてくれることでしょう。 たとえば 「アブラハムは一な…

630    「みすゞとYouTubeとキャロライン洋子」 ・・・ 「NHK100分de名著 金子みすゞ詩集 2022年1月」(松本侑子、NHK出版、2022年)

みすゞは雑誌に童謡詩を投稿し、よく掲載されていました。「今なら、You Tubeで自作の詩や歌を披露して若者の人気を集まるアーティストにたとえることもできましょう」(p.13)と著者は言います。 しかし、それ以上は進まなかったようです。詩集出版にはいたら…

629   「自分はダメだと思わない勇気」・・・「生きる勇気」(パウル・ティリッヒ、平凡社ライブラリー、1995年)

629 「自分はダメだと思わない勇気」 「生きる勇気」(パウル・ティリッヒ、平凡社ライブラリー、1995年) 「生きる勇気」は「存在への勇気」とも訳されます。「存在」とは「ある」「いる」という意味ですが、人間の場合は「生きる」といってもいいでしょう。…

628「ボクは不良神学生だった!」・・・「ボクたちは軍国少年だった! 平和を希求する、ふたりの自伝」(深田未来生、木村利人、キリスト新聞社、2022年)

深田未来生さんは同志社大学神学部の教員であり、ぼくは学生でした。授業は一コマしかとったことがなく、個人的にとくに親しいわけでもありませんでした。 覚えていることは限られています。 神学部の建物のたしか4階に教員研究室が並んでいて、先輩に誘われ…

627  「すべてのキリスト教の教理を忘れてください、と言う説教」・・・「地の基は震え動く」(パウル・ティリッヒ、新教出版社、2010年)

「人は皆、罪人です」などと言われたら、「いや、わたしは、悪いことなんかしていない」と思う人が大多数なのではないでしょうか。「神がどうの」などと言われたら、「いや、神なんているわけない」と思う人がほとんどなのではないでしょうか。 けれども、「…

626   「偏狭宣教師を越えて」・・・ 「教会教を越えて ハウレット宣教師が北海道で見つけたもの」(フロイド・ハウレット著、大倉一郎訳、2021年)

宣教師とは何でしょうか。ある宣教師は、アメリカのキリスト教を日本に教えようとしました。そういう考えは古いと宣教師仲間に批判されたにも関わらず、自分は何と言われようとそうすると。ちなみに、この宣教師は、教会は精神科の代わりではない、と言って…

625   「人間による人間の支配には従わない、神自身も支配者ではない」・・・「アナキズムとキリスト教」(ジャック・エリュール、新教出版社、2021年)

いかなる権力、支配にも従わない。聖書はそう言っている。初期のキリスト教もそうだった。この本が述べていることは、こういうことではないでしょうか。 では、本書が言うアナキズムとはどのようなものでしょうか。 「無秩序という通常の意味とは異なる an-a…

624   「人間は他者を悪人と裁く悪人。悪人は悪人を裁くべからず。」 ・・・「終末の起源 二つの系譜 創造論と終末論」(上村静、ぷねうま舎、2021年)

この本は終末論を批判しています。どのような点が批判されているのでしょうか。 わたしは、この本を読むまでは、終末論について肯定的な印象を漠然と抱いていました。それは、わたしたちが生きている社会や歴史には暴力、権力を持つ者たちによる支配、抑圧、…

623  「遠藤生涯の仕事は『キリスト教自らの棄教』、本書はその出発地」・・・ 「白い人・黄色い人」(遠藤周作、新潮文庫、1960年)

昨年、「深い河」「女の一生 一部」「女の一生 二部」と読み、感銘を受け、遠藤周作を読み返さなければならないと思い、本作を読んでみました。 しかし、去年読んだ三冊や、ずっと以前に読んだ「沈黙」や「侍」と、本作とでは、読後感がだいぶ違いました。一…

622  「神学とは魔法ではなく、深みを想うこと」・・・「危機の神学 「無関心というパンデミック」を超えて」(若松英輔、山本芳久、文春新書、2021年)

神学は今回のパンデミックを前にしてどのような考察をするのでしょうか。むろん、どういう対策、政策をとるべきかを考えるのではありませんが、かといって、「これは神から人間への罰である」というような思考レベル以前の発言をするのでもありません。 「私…

621   「死んでいくことは生きることそのもの」・・・「死を友として生きる」(ヘンリ・ナウエン、日本キリスト教団出版局、2021年)

もうじき六十歳になるというころから、残りの人生は、死への滑走時間、死を受け入れる準備期間、とわたしは考えるようになりました。ひとつは、年齢そのものがそう思わせるのですが、もうひとつは、それまでの自分の人生が否定されるような経験、ああこれは…

620   「笑いと宗教の共通点」・・・「癒しとしての笑い」(ピーター・バーガー、新曜社、1999年)

著者は、神学にも詳しい社会学者です。笑いは社会学の重要なテーマのひとつだと思われますが、バーガーの著述そのもののいたるところにも、ユーモアが散りばめられています。 「自分たちの理論をひどく重大なものと考える性癖では、哲学者は神学者につぐもの…

619   「宗教や信仰の違いを乗り越えるにはどうしたらよいか」・・・「霊性の宗教―パウル・ティリッヒ晩年の思想」(石浜弘道、北樹出版、2010年)

世界にはいくつもの宗教がありますが、残念ながら、それらの中には、自分たちだけが正しい、他は間違っている、という攻撃性を持っているものもあります。本書はそれを乗り越えようとする試みのひとつであると言えるでしょう。それは、同時に、宗教を問わず…

618   「毎日がクリスマス、毎日の仕事」 ・・・「クリスマス・キャロル」(チャールズ・ディケンズ著、井原慶一郎訳、春風社、2015年)

訳者解説では、「「子どもを救え!」というのがこの作品の核にあるメッセージ」(p.216)と述べられています。執筆当時のロンドンには三万人のストリート・チルドレンがいたそうです。そして、この本の大きな目的は「貧困階級の子どもたちの擁護をイギリス国民…

617   「宗教を別の言葉で言い変える、誰にでもある経験で言い変える」 ・・・「人と思想 135 ティリッヒ」(大島末男、清水書院、2014年)

このシリーズは「概説とその中心となる思想を、わかりやすく・・・平易な記述・・・学生・生徒の参考読物として・・・」出されていることになっていて、たしかに、わかりやすいものもあったのですが、この本はひじょうに難しかったです。 哲学用語、哲学の言…