2015-01-01から1年間の記事一覧

最後の角に差し掛かり いにしえのこころざしが 浮かび上がってきた 果たされる前に 旅は終わるだろう けれども こころざしは 引き継がれる 弟子はおらず 文字は残さず 感銘は与えずとも ぼくが知らず ぼくを知らない 誰かによって 地下流のように

敗戦は敗北ではない 勝てないことはあっても 負けて全員逃げ出したことなど いちどもない いくども敗戦を重ねてきた 勝った戦いなどほとんどない けれども もう誰も立ちあがらなくなったことも もう誰もつづかなくなったことも そんなことは いちどもない 世…

278  「ぼくたちの根はぼくたち自身の奥底に」

「存在の根を探して イエスとともに」(中川博道、2015年、オリエンス宗教研究所) ここに「存在」するぼくたちの「根」はどこにあるのでしょうか。カルメル修道会の司祭が聖書の言葉からそれを説き明かしてくださいました。 「これを見て、よしとされた」。…

277  「朝鮮詩人からの伝言集」

「朝鮮詩集」(金素雲訳編、1954年、岩波文庫) 歌手の沢知恵さんの祖父・金素雲さんが、日本の植民地支配下の朝鮮の四十の詩人から百の詩を朝鮮語から日本語に翻訳し、編纂したもの。茨木のり子さんも愛読したと言います。「あの 栗の木の下に/實の落ちる…

276  「世界とぼくの根源、その愛」

「涙のしずくに洗われて咲きいづるもの」(若松英輔、2014年、河出書房新社) 神などいるわけがない、死者がここにいて語りかけてくるはずがない、と思う人でも、自分には何か、起源か根源か、そのようなものがあることをまったく否定してしまうことはできな…

282  「秘密とは(あるいは「秘密を」)内側でゆっくりとふくらませ感じること」

「クローディアの秘密」(E. L. カニグズバーグ、1975年、岩波少年文庫)良質な児童書は大人にとっても読みごたえがあります。子どもたちを成長させる栄養は、おとなの心も育んでくれます。「チームになったというのは、いい争いがやんだという意味ではあり…

275  「世界全体ではなくおやゆびをものさしに」

「日本人は状況から何をまなぶか」(鶴見俊輔、2012年、SURE) 鶴見さん2010~11年の雑誌や新聞記事集。Think globally, act locallyと言いますが、鶴見さんはthink locallyの思想家かも知れません。「おやゆびのものさしをもって、まわりのものをはかるとい…

274  「評価は遺児やその家族に委ねたい」

「ママがおばけになっちゃった!」(のぶみ、2015年、講談社) 知人に「いいよ」と紹介されて、この絵本を読んでみた。著者のご両親が同業の先輩で、とてもお世話になった。自叙伝的作品をいただいたこともある。おもしろい文、おもしろい人だと思った。 そ…

皆さん、こんにちは。

じつは、わたしには中学生の子どもがいます。部活をがんばっています。大田区の大会を勝ち抜いて東京都大会に出たいと願っています。東京都大会に行かせてやりたいと思います。勉強もがんばっています。行きたい高校に行かせてやりたいと思います。行きたい…

誤読ノート273  「土と風と水と神」

「大地の文学 [増補]賢治・幾多郎・大拙」(小野寺功著、2004年、春風社) 我が家の庭のオリーブ、いちじく、そして、リンゴの木は、大地からいのちをもらい、大地から生え出で、大地によって養われ続け、大地に根を支えられ、大地によって、すくっと立っ…

272  「スパン大きく、未来を描く大作家」

「ことばの魔術師 井上ひさし」(菅野昭正編、2013年、岩波書店) 井上ひさしさんの小説や演劇について、阿刀田高さん、小田島雄志さん、小森陽一さんらが語っています。シリーズ講演を起こしたものなので、とても読みやすいです。けれども、井上文学につい…

271  「ここからは、あの方がお供なされます」

「侍」(遠藤周作、1986年、新潮文庫) 奇跡とは、驚くべき力で病気が治癒されることではない。治る見込みなどなく誰からも見捨てられた病人の傍らに、それでもイエスが自身も心身を痛めながら一晩ともに居続けたことだ。遠藤周作からこう学んだ。 この小説…

270  「あなたが何かになるとは、あなたがすでにそうであるものにとどまること」

「真理は『ガラクタ』の中に 自立する君へ」(大貫隆、2015年、教文館) この本には青年たちに聖書を語るためのヒントが満ちている。それは、聖書を信じさせ、キリスト教徒にさせようというようなことではない。青年が自分の存在と不安、そして希望の根源を…

269  「民族の言葉と詩の存亡が懸かった壮絶な闘い」

「金素雲『朝鮮詩集』の世界 祖国喪失者の詩心」(林容澤、2000年、中公新書) 金素雲は、歌手・沢知恵の母方の祖父にあたります。また、金纓牧師の父でもあります。ぼくは、沢さんの歌をいくつか聴き、「チマ・チョゴリのクリスチャン」の著者である金纓さ…

268  「置き去りにした死者と悲しみを迎えに行こう」

「君の悲しみが美しいから僕は手紙を書いた」(若松英輔、2014年、河出書房新社) きれいですよね。美しいですよね。 悲しむ人に、若松さんがこう言ったのを聞いたことがある。 悲しみが美しいとはどういうことだろう。 「悲しみは、人間がこの世で感じるも…

267  「大きな風に抱かれて」

「遺稿集「南無アッバ」の祈り 井上洋治著作選集5」(井上洋治、2015年、日本キリスト教団出版局)遠藤周作さんらのような作家たちと志をわかちあったり、大きな霊感をあたえたりした井上洋治神父。深いが、難解ではない、感じやすい一冊。イエスの息吹がや…

266  「現世で宗教の平和理念を実現させることについて」

「創価学会と平和主義」(佐藤優、2014年、朝日新書) 佐藤優好きの同僚が「読み終えたからどうぞ」と譲ってくれた。「集団的自衛権に関する昨年の閣議決定を公明党が骨抜きにした」という宣伝句に少し惹かれてはいたが、自分では買うには至らないでいたとこ…

265  「問うてください、ぼくは応えます」

「フランクル人生論入門」(広岡義之、2014年、新教出版社) フランクルは名前を知っているだけとか、ぼくのように「夜と霧」を読んだだけとかいう人で、でも、フランクルのロゴセラピーってなんだろうとか気になっている人には、便利な一冊だと思います。そ…

264  「牧師や神父の人格がキリスト教停滞の一因かも知れない」

「日本史におけるキリスト教宣教 宣教活動と人物を中心に」(黒川知文、2014年、教文館) これは日本キリスト教史の本ではありません。つまり、日本におけるキリスト教の通史が述べられているのではありません。 そうではなく、副題のように、ザビエル、高山…

263  「常套句ではなく、斬新な『あきらめない、がんばろう、一人にさせない』」

「エイズの村に生まれて 命をつなぐ16歳の母・ナターシャ」(後藤健二著、汐文社、2007年) 取材当時、住民の九割がエイズ感染者と言われていた。ロシアに近いエストニアの村。麻薬がはびこり、使い回しの注射器を通して、エイズも蔓延した。 その村の16歳の…

262  「牧師たちの牧師、関田寛雄先生」

「あなたはどこにいるのか(関田寛雄講話集)」(関田寛雄著、一麦出版社、2015年) 関田寛雄先生は、学校や教会でお世話になったことはありませんが、わたしの師であり、わたしにとてもやさしいお方です。それは、説教、執筆物、そして、パーソナルなお交わ…

261  「聖書物語のその場にいるかのように」

「エッサイの木 クリスマスまでの24のお話し」(ジェラルディン・マコックラン著、沢知恵訳、池谷陽子絵、日本キリスト教団出版局、2014年)教会堂で木の板を彫るおじいさん。そこに現われた男の子。真ん中に大きな木があって、その枝に毎回、少しずつ「実」…

260  「立てぇ!立つんだ!新島ジョーズ!」

「新島襄物語: 良心へ向かう志」(富田 正樹 (著), 山本 真司 (著)、新教出版社、2015年)140年前、新島襄が起こした同志社英学校は、いまや小学校から大学までそろっています。その中には四つの高校も含まれ、この本はその生徒たちを対象に書かれたとのこと…

259  「女性を観る眼と語る筆がやさしい」

「東慶寺花だより」(井上ひさし、文藝春秋、2010年) 大泉洋主演の映画「駆込み女と駆出し男」の原作。監督は原田眞人。満島ひかり、内山理名、キムラ緑子、木場勝己、戸田恵梨香、樹木希林、 堤真一らも好演。 井上ひさしさんの大ファンとしては、見逃せな…

258  「日中韓はもっと詩的に」

「ハングルへの旅」(茨木のり子、朝日文庫、1989年) 歌手・沢知恵の母親の父親は、詩人・金素雲だ。岩波少年少女文庫にある朝鮮民話選「ネギをうえた人」の編者でもある。 この金素雲の「朝鮮民謡選」を、茨木のり子は少女時代に愛読していたという。ハン…

257  「相手の言葉を殺さずしっかり受け、自分のいのちを重ねて投げ返す」

「酔うために飲むのではないからマッコリはゆっくり味わう (日韓同時代人の対話シリーズ01)」(谷川俊太郎、申庚林、2015年、クオン) 韓国の国民詩人、申庚林(シン・ギョンニム)が谷川俊太郎と一緒に詩を作った。「対詩」と呼んでいる。谷川が五行記し、…

256  「朝まだきは朝未来と書くものだったんだ」

「ライは長い旅だから」(谺雄二、趙根在、皓星社、2001年)少年はライの尾根へと追い立てられた 尾根は海から遠く、雲は晴れない 尾根はどしゃぶりの雨に打たれる 尾根は海に恋する 南朝鮮生まれの金丘俊の眼差しが 尾根の空に突き刺さる ボクは尾根の笹む…

255  「戦場(いくさば)で生まれた戦場カメラマン」

「フォト・ストーリー 沖縄の70年」(石川文洋、岩波新書、2015年) 石川はベトナムを撮り、甲子園を撮った。両者を石川につないだのは、沖縄だ。石川は沖縄生まれ。在日沖縄人と自称する。もちろん、沖縄も撮った。 石川は祖母から沖縄戦を聞いた。その話は…

254  「否定に打ち克つ根源的肯定」

「トマス・アクィナス 肯定の哲学」(山本芳久、慶應義塾大学出版会、2014年) トマスと言えばスコラ哲学、スコラ哲学と言えば、重箱の隅をつつくような机上の空論、冷たい学問と思いがちです。けれども、この本を読んで、たしかに緻密な議論はするけれども…

253  「天を仰ぎつづけた詩人」

「尹東柱詩集 空と風と星と詩」(尹東柱、岩波文庫、2012年) 詩人は目に見えるものの根源にある目に見えないものを詠う預言者だと言う。ユン・ドンジュは1917年生まれ。1942年、来日。立教大学を経て、同志社大学に入学。1943年7月、治安維持法違反の嫌疑で…