277  「朝鮮詩人からの伝言集」

「朝鮮詩集」(金素雲訳編、1954年、岩波文庫

 歌手の沢知恵さんの祖父・金素雲さんが、日本の植民地支配下の朝鮮の四十の詩人から百の詩を朝鮮語から日本語に翻訳し、編纂したもの。茨木のり子さんも愛読したと言います。

「あの 栗の木の下に/實の落ちる音が聞こえるでせう/コトリと音がして 地に落ちたのです/宇宙の新子(にひご)が産れた報せです/燈燭(ともしび)さし上げてお出でなさい」

 朝鮮詩人によるイエス誕生の詩と言えば、失礼でしょうか。

 「面(おも)は眞直(ますぐ)に蒼空をあおぎたるゆゑ/足の恆(つね)に鄢き土へむけられたるは辱めならじ」

 「樹」と題された詩の冒頭です。朝鮮詩人の不屈とその源泉が伝わって来ます。

 「いつも白い木綿の身づくろひは/その人の心根のやうに浄くすがすがしい/その人は働きながら書物を讀み/人に逢へば腰をかゞめて挨拶する。/その人は湖水のやうにもの静かで」

 「その人」。朝鮮民族の誇りと美しさを感じます。

 「巨いなる夜の闇に明々と灯を點し、獨り坐ればものみな奪はれゆくごとき寂しさ/せめては一本(ひともと)の野の花あらば いかばかりこゝろ和まむ」

 野の花までも日本は奪いつくしてしまったのです。

「夜闇からず/星遠からず/薔薇は夜も寝(いね)ざるなり」
「希望は 透(すきとほ)る薄衣の/蜻蛉の翅。/薄衣の身ながらに 蒼穹(そら)へ舞ひ立つ/蜻蛉の翅」

 それにも拘わらず、極上の希望を今日のぼくたちのために残してくださいました。

「御身の腕(かひな)に われあるとき/喜びも 哀しみもなし、はたまた御身もわれもなし、/われに薩婆若を?へたるは かゝるときなり」
「萬物は 光によりて一つ/衆生は 心によりて一つ/心なき衆生ありや/光なき萬物ありや/土よりして 水よりして 光は出づる/火に焚けば 總身はなべてみな光」

 朝鮮詩人は深い霊性の担い手でもあります。

 「花粉のやうな柔かい猫の毛並に/仄かな春の香氣はこもり」

 そして、ぼくら同様、ネコを愛する人でもあったのです。

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