256  「朝まだきは朝未来と書くものだったんだ」

「ライは長い旅だから」(谺雄二、趙根在、皓星社、2001年)

少年はライの尾根へと追い立てられた
尾根は海から遠く、雲は晴れない
尾根はどしゃぶりの雨に打たれる
尾根は海に恋する
南朝鮮生まれの金丘俊の眼差しが
尾根の空に突き刺さる
ボクは尾根の笹むらで野グソをたれる
尾根で育ち、尾根で老いるが
尾根はボクのふるさとじゃない
ぼくはふるさとを探しあてたい
ぼくは尾根の生まれじゃない
ギョクオンの日
「朝が来るんだよ」とおとなが教えてくれた
けれども、尾根には朝はなかなか来なかった
でも、そう語ったその人の笑顔は忘れられない
熊笹の尾根を新潟へとくだり、佐渡
抜け出てきた尾根をおもう
けれども、佐渡も尾根もふるさとではない
真冬の尾根はユメを凍らす
やはり尾根はふるさとじゃない
ユメは尾根からの彷徨を繰り返す
あてどなくふるさとを探し求める
尾根には納骨堂がある
尾根に遺骨を受けとりに来る人がいる
尾根に今夜も雪は降りしきる
なぜボクたちは尾根に身をひそめねばならぬのか
夜はまだ明けてはいない
あなたは尾根にぼくを訪ねてくれた
あなたへの思いがいちずにつのる
尾根は今夜も吹雪く
尾根に朝未来の仄明り
朝まだきは朝未来と書くものだったんだ
ボクは尾根にかすかに
雪崩れの気配を感じ取る

詩人は尾根を詠み
写真家は尾根を映した

国立療養所栗生楽泉園は
草津温泉から四キロの
山の尾根にある

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