大泉洋主演の映画「駆込み女と駆出し男」の原作。監督は原田眞人。満島ひかり、内山理名、キムラ緑子、木場勝己、戸田恵梨香、樹木希林、 堤真一らも好演。
井上ひさしさんの大ファンとしては、見逃せない映画だった。映画を観たら、原作を読み返したくなった。
十五編からなる連作集。映画は、そこから何人かの登場人物や物語に目をつけ、いくつかのキャラクターや物語をあわせたり、加工したりして、独自の味付けに成功している。
映画を活と動とすれば、原作は静。と言っても、歩いたり、走ったりする。けれども、井上ひさしさんの初期作品の波乱万丈、ドタバタ、逆転逆転、饒舌、過剰と比べれば、無駄や贅肉がそぎ落とされている。15の短編ひとつひとつが、数巻の大冒険にも展開されうる可能性を持ちながら、逆に、数巻を数十頁に、味わいとメッセージは保ちながら脂は搾り落としたものとなっている。
藤沢周平なみに江戸の風情を伝える戯作者の域に達しながら、ユーモアや初期のエログロ、シモネタを遠く思い起こさせるユニークさがある。
なんと言っても、人間、この作品では女性を観る眼と語る筆がやさしい。
井上ひさしさんは暴力夫だったという話もある。そうかもしれない。ちがうかもしれない。
本作品は、強い女性を描いている。それでも、男好みの強さに留まっているおそれもある。ただ、井上さんの感情コントロールの実情はさておき、思想と言葉においては、女性の強さを愛し、それを踏みにじる男を批判、克服しようとしていたことは信じたい。