259  「女性を観る眼と語る筆がやさしい」

東慶寺花だより」(井上ひさし文藝春秋、2010年)

 大泉洋主演の映画「駆込み女と駆出し男」の原作。監督は原田眞人満島ひかり内山理名キムラ緑子木場勝己戸田恵梨香樹木希林堤真一らも好演。

 井上ひさしさんの大ファンとしては、見逃せない映画だった。映画を観たら、原作を読み返したくなった。

 十五編からなる連作集。映画は、そこから何人かの登場人物や物語に目をつけ、いくつかのキャラクターや物語をあわせたり、加工したりして、独自の味付けに成功している。

 映画を活と動とすれば、原作は静。と言っても、歩いたり、走ったりする。けれども、井上ひさしさんの初期作品の波乱万丈、ドタバタ、逆転逆転、饒舌、過剰と比べれば、無駄や贅肉がそぎ落とされている。15の短編ひとつひとつが、数巻の大冒険にも展開されうる可能性を持ちながら、逆に、数巻を数十頁に、味わいとメッセージは保ちながら脂は搾り落としたものとなっている。

 藤沢周平なみに江戸の風情を伝える戯作者の域に達しながら、ユーモアや初期のエログロ、シモネタを遠く思い起こさせるユニークさがある。

 なんと言っても、人間、この作品では女性を観る眼と語る筆がやさしい。

 井上ひさしさんは暴力夫だったという話もある。そうかもしれない。ちがうかもしれない。

 本作品は、強い女性を描いている。それでも、男好みの強さに留まっているおそれもある。ただ、井上さんの感情コントロールの実情はさておき、思想と言葉においては、女性の強さを愛し、それを踏みにじる男を批判、克服しようとしていたことは信じたい。

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