誤読ノート758 「売るために必要以上に作るのはもうやめて、今あるものをわかちあいましょう」  ・・・ 「マルクス解体 プロメテウスの夢とその先」(斎藤幸平、講談社、2023年)

世界の環境をこれ以上悪化させず、自然資源を枯渇させず、世界の生物(人間を含む)を絶滅させないためにはどうしたらいいのでしょうか。 マルクスにはそのような思想がなかったので参考にならない、という声が支配的でしたが、「資本論」だけでなく、彼の残し…

757 「記憶、希望、そして、その弁証法」・・・「人を育むみことば 教育のモデルとしての旧約聖書」(W. ブルッゲマン、2023年、日本キリスト教団出版局)

この本の主張は、聖書の言葉が人を育てる、ということよりも、旧約聖書の「律法」、「預言者」、「知恵(文学)」という三つの文学形式の各機能と相互作用が教育のモデルになる、ということでしょう。ちなみに「預言者」は人のことでもありますが、預言文学を…

756 「ユダヤ人を信仰なき自力救済者に仕立て上げない」 ・・・ 「ユダヤ人も異邦人もなく パウロ研究の新潮流」(山口希生、新教出版社、2023年)

人間は神の前で罪人である。人間は自分の力では罪から救いへと行くことはできない。ただ、イエス・キリストにおいて現れた神の恵みによってのみ人間は救われる。パウロの言う救い、ひいては、聖書の伝える救いとは、そのような「無償の贈り物」である。アウ…

755 「ぼくたちが探していた言葉とは何だろう」 ・・・ 「ひとりだと感じたときあなたは探していた言葉に出会う」(若松英輔、亜紀書房、2023年)

「探していた言葉」とはどのような言葉だろうか。 「人生の始まりを告げる言葉は、生の根源へと導くものでもあるから、ここでは、根源語と呼ぶことにする」(p.8)。 「探していた言葉」は「根源語」であろう。 ここでいう人生とは、「生活は水平的な方向のな…

754 「神さまを語る言葉の感性」 ・・・「CREDO: わたしは信じます、わたしたちは信じます」(教皇フランシスコ (著), マルコ・ポッツァ (著, 翻訳), 阿部仲麻呂 (翻訳, 解説)、2022年、ドン・ボスコ社)

「初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった」(ヨハネによる福音書1:1)。 この「言(ことば)」と訳されたもともとのギリシャ語はロゴスという単語で、「言葉、理性、世界の根本原理」というような意味だそうですが、本書の訳者の阿部さんはこ…

753 「ぼくしのふくし、ふくしのぼくし」 ・・・ 「どん底から見える希望の光―ともに生きる福祉の実践」(佐々木炎、2019年、キリスト新聞社)

カバーに「牧師×福祉」とあります。著者の佐々木さんは牧師の仕事と福祉の仕事をしておられます。「ぼくし」、「ふくし」。一文字しか変わりません。 本書には、副題の通り、「福祉の実践」が書かれているのですが、ぼくには、これはそのまま、「牧師の実践…

752 「真理とは、分離以前、未分のこと」・・・「宗教とその真理」(柳宗悦著、若松英輔監修・解説、2022年、亜紀書房)

「余は例えばキリスト教の存在がただちに仏教の非認であるとは思わぬ。一宗の存在がただ他宗の排斥によって保たれるのは醜い事実であろう。多くの宗教はそれぞれの色調において美しさがある。しかも彼らは矛盾する美しさではない。野に咲く多くの異なる花は…

751 「わかちあい大事にしあう価値観を、中に間に、〈埋め込む〉」・・・ 「コモンの「自治」論」(斎藤幸平他著、2023年、集英社)

誤読ノート751 「わかちあい大事にしあう価値観を、中に間に、〈埋め込む〉」 「コモンの「自治」論」(斎藤幸平他著、2023年、集英社) コモンとは、空気や水、教育、医療など、社会の共有財産のことである。自治とは、政治家、支配者、資本家など一部の者…

750 「未来のために、未来がなくなってしまった事態を今想定する」・・・ 「未来のための終末論」(大澤真幸、斎藤幸平、2023年、左右社)

学術論文や専門書は読んだことはないが、一般読者向けのものを読む限り、大澤は難しいが、斎藤はわかりやすい。 本書の前半は、ふたりの対談、後半は、大澤の考察。前半は読みやすいが、後半はやや難しかった。 印象に残った言葉。 「まず是正すべきは資本の…

749 「深河鉄道の夜明け」 ・・・ 「遠藤周作『深い河』を読む: マザー・テレサ、宮沢賢治と響きあう世界」(山根道公、日本キリスト教団出版局、2023年)

若松英輔さんの「日本人にとってキリスト教とは何か: 遠藤周作『深い河』から考える」を読み、ついで「深い河」そのものを読み、もう少し何かを読みたいと思っていたところ、本書を見つけた。 「深い河」がじつに深く解き明かされている。遠藤の生涯や諸作品…

748 「新約聖書を読む現代」 ・・・ 「新約聖書の時代: アイデンティティを模索するキリスト共同体」(浅野淳博、教文館、2023年)

じつにおもしろい。とても読みやすい。ぼくは、本は数冊並行読みするのだが、この十日間はこの一冊に集中した。 紀元30年ごろ、イエスが「神の国」運動をなした。それに何らかの意味でつながる、ユダヤやギリシャ諸王朝、ローマ帝国の歴史。イエスの運動の歩…

747 「イエスの原像は大河ドラマのごとく」・・・ 「イエスの福音 それは本当は何だったのか」(J. M. ロビンソン、新教出版社、2020年)

ある人物の像は伝わる過程で、雪だるまのようになっていく場合がある。雪だるまの中心には何があったのか。イエスの人物像の場合、雪だるまと違い、雪以外のもの、つまり、イエスそのものが存在する。 本書では、イエスは、もともとどういうことを訴え、どう…

746 「キリスト教の断捨離、あるいは、愛の剃刀」 ・・・「疑いながら信じてる50― 新型キリスト教入門 その1」(富田正樹、ヨベル社、2023年)

聖書やキリスト教に向けられる、向けられた、あるいは、向けられそうな疑問に、著者は、理性、論理、思索によって、回答しています。 それを50回繰り返す中で、浮かび上がってくる、あるいは、基調となるメッセージは、「神はわたしを、あなたを、すべての人…

745 「搾取と貧乏がない社会を目指して生きよう」・・・ 「君たちはどう生きるか」(吉野源三郎、1982年、岩波文庫)

原著は1937年、それに丸山真男の解説をつけて文庫化されたもの。 デジタル化される前の活版印刷だと思われます。ポイントも最近の文庫文より小さいです。でも、老眼でも、読めなくはありませんでした。 「君が大きくなると、一通りは必ず勉強しなければなら…

744 「心の込もった、神学の書き下し文」 ・・・「キリストとともに――世界が広がる神学入門」(阿部仲麻呂、2023年、オリエンス宗教研究所)

「ロゴス=キリスト=神さまからの深い呼びかけ」(p.18)。 これほど易しくかつ優しく「ロゴス」という神学用語を書き下した言葉を、知りません。 「はじめにあったのは、神さまのおもいでした。おもいが神さまの胸のうちにありました。そのおもいこそが、神…

743 「神さまの芸術を伝える写真と詩」 ・・・「天の指揮者」(詩:服部剛、写真:関谷義樹、2020年、ドン・ボスコ社)

詩人はカトリック信者、写真は修道会司祭。 天の指揮者の作品を映した写真に、詩人が言葉を書く。 映像には、目に見えない創造者の息吹がする。 イエスも同じ風景を見、同じ空気を吸ったことだろう。 「「天」という字の中に/「人」が歩いている じっと み…

742 「霊性を失った世俗化社会における神の国の意味」・・・「キリスト教思想史の諸時代 (7) 現代思想との対決」(金子晴勇、ヨベル、2023年)

目に見えないもの、霊的なもの(この言葉のイメージは多様である)を忘れ、目に見えるもの、あるいは、合理的なもの、測定可能なもの、金、財産、権力、利便などにのみ関心を持つようになることを世俗化と呼ぶなら、本書のテーマは、世俗化、あるいは、無神…

741 「見えないものの言語化と非言語化」・・・「なぜ子どもは神を信じるのか? 人間の宗教性の心理学的研究」(J. L. バレット、教文館、2023年)

小中高生や青年に信仰を伝えるヒントはないかと期待しつつ、読み進めた。 「人間ではなく、目に見えず、私たちの知らないところで世界に作用している行為者(つまり隠れた行為者)の存在に、私たちは敏感である。この能力によって、神について考えることが非…

740 「キリスト教の最良思想は万人平等、万人救済」・・・「キリスト教思想への招待」(田川建三、勁草書房、2004年)

田川建三さんは聖書やキリスト教学者やキリスト教会の問題点をはっきりと指摘するが、良い点は良い点として認めている。 本書をネットの古本屋で買って、20年ぶりに読み返した。届いた本は99%、ぼくが以前に古本屋に売ったものだ。黄色いラインの引き方にぼ…

739 「中井久夫さんにイエスの面影を見る強引な感想文」・・・ 「総特集 中井久夫(現代思想臨時増刊)」(2022年、青土社)

精神科医であり精神医学者であり名文家、翻訳家、博覧強記の中井久夫さんが去年亡くなった。この人の著書は医者でない者たち(読者の大半は医者ではなかろう)を慰めた。 本書には多数の者が寄稿しているが、以下、引用文には執筆者名は記さない。 中井さん…

738「若者に届けば、すべての聴き手に届くかも」・・・「若者に届く説教: 礼拝・CS・ユースキャンプ」(大嶋重德、2019年、教文館)

ぼくの参考になった点を書き出してみます。 〇聴き手が「ああ、自分に語りかけられている」と思うようなメッセージ。 〇説教の目的は、聴き手がイエス・キリストご自身と出会うこと。 〇説教が「神さまの言葉」として「聞こえてくること。 〇情熱的、心をこ…

737 「何が違うべきで、何が同じであるべきか」 ・・・ 「「みんな違ってみんないい」のか? ――相対主義と普遍主義の問題」(山口裕之、ちくまプライマリー新書、2022年)

タイトルを見ますと、多様性を否定している、と誤解されるかもしれませんが、そうではありません。 「「正しさは人それぞれ」や「みんなちがってみんないい」という主張は、本当に多様な他者を尊重することにつながるのでしょうか」(p.3)と著者は言っていま…

736 「歴史上は存在しないものが出現するような類の時間」 ・・・ 「ダブル・ヴィジョン―宗教における言語と意味」(ノースロップ・フライ、新教出版社、2012年)

前書きによれば、「伝説的な学部生向けの授業で、フライが釘を刺して言ったのは、聖書が歴史的に正確な場合、それは偶然そうであるに過ぎず、聖書の記者は事実を伝えることにこれっぽっちの関心も持っていなかったということだった。彼らには語るべき物語が…

735 「奴隷の自由」・・・ 「〈真実〉の奴隷」(武田定光、因速寺出版、2022年)

武田さんの本は何冊か読んだが、読んでいて、とても気持ちが良い。武田さんは、因速寺の住職だが、仏教や浄土真宗が正しい、信じれば救われる、などとは言わないからだ。 よく勉強しておられる。ただ者ではない。 「昔、ブルトマン(神学者)が、「非神話化…

734 「安易に答えを出すな、苦しんで考え抜け」 ・・・ 「ヘーゲル哲学に学ぶ考え抜く力」(川瀬和也、光文社新書、2022年)

「100分で名著 ヘーゲル『精神現象学』 」で斎藤幸平さんが紹介していたので読んでみました。 書名に「考え抜く」とありますが、これは、「アナロジー思考」や「アンラーン」と並ぶ「哲学の基本スキル」(p.15)と、著者の川瀬さんは言います。 アナロジー思考…

733 「金の牛を破壊したモーセ並みのパンチ力」 ・・・ 「メタフィジカルパンチ 形而上より愛を込めて」(池田晶子、文藝春秋、1996年)

「実際にこういうことが起こった」「証拠がある」「この宗教は世界の真実を論理的に解き明かしている」といった言葉で、自分の属する宗教は真正である、と主張しようとする人がいるが、これは矛盾している。 信仰とは論理的帰結ではなく、文字通り(「文字通…

732 「救いの方程式、公式ではなく、個人の救い」 ・・・ 「治療文化論: 精神医学的再構築の試み」(中井久夫、岩波現代文庫、2001年)

科学はいつの時代にもどの場所でもあてはまる法則や答えを示していると思われている。たとえば、1+1は、いつでも、どこでも、2である。水素と酸素を適切な方法や環境で化合すれば水が生成する。 けれども、医学はかならずしもそうではない。ガンなどに顕著…

731 「相手を否定せず教え諭さないための教義学」 ・・・ 「教義学とは何か」(雨宮栄一、村上伸編、日本基督教団出版局、1987年)

教義学には二つの側面があるのではないか。 ひとつは、神とは何か、創造、キリスト、聖霊、救済、教会、終末とは何か、探求し、表現する学である。聖書やキリスト教会の信仰が、あるいは、先人のそのような探求、表現が、その資源になる。 もうひとつは、そ…