原著は1937年、それに丸山真男の解説をつけて文庫化されたもの。
デジタル化される前の活版印刷だと思われます。ポイントも最近の文庫文より小さいです。でも、老眼でも、読めなくはありませんでした。
「君が大きくなると、一通りは必ず勉強しなければならない学問に、経済学と社会学がある。こういう学問は、人間がこんな関係をつくって生きているということから出発して、いろいろ研究してゆく学問だ」(p.93)。
まさに、本書は、小中高生向けの経済学、社会学入門になっています。
「人間は、人間同士、地球を包んでしまうような網目をつくりあげたとはいえ、そのつながりは、まだまだ本当に人間らしい関係になっているとはいえない。だから、これほど人類が進歩しながら、人間同志の争いが、いまだに絶えないんだ・・・人類が今まで進歩して来て、まだ解決のできてないでいる問題の一つ・・・本当に人間らしい関係とは、どういう関係だろう」(p.97)。
ここに、社会学の課題が明らかにされています。
「よく覚えておきたまえ、――今の世の中で、大多数を占めている人々は貧乏な人々だからだ。そして、大多数の人々が人間らしい暮しが出来ないでいるということが、僕たちの時代で、何よりも大きな問題となっているからだ」(p.131)。
「労力一つをたよりに生きている人たちにとっては、働けなくなるということは、餓死に迫られることではないか。それだのに、残念な話だが今の世の中では、からだをこわしたら一番こまる人たちが、一番からだをこわしやすい境遇に生きているんだ」(p.133)。
ここに、経済学の根本課題が明記されています。
丸山真男さんの解説が良いです。
「これはまさしく「資本論入門」ではないか――」(p.312)。
「資本論の入門書は、どんなによくできていても・・・資本論の構成を不動の前提として、それをできるだけ平易な表現に書き直すことに落ち着きます。つまり資本論からの演繹です。ところが、『君たちは……』の場合は、ちょうどその逆で、あくまでコペル君のごく身近にころがっている、ありふれた事物の観察とその経験から出発し、「ありふれた」ように見えることが、いかにありふれた見聞の次元に属さない、複雑な社会関係とその法則の具象化であるか、ということを一段一段と十四歳の少年に得心させてゆくわけです。一個の商品のなかに、全生産関係がいわば「封じ込められている」、という命題からはじまる資本論の著名な書き出しも、実質的には同じことを言おうとしております」(p.313)。
搾取ではなく公正な分配が行われ、貧乏がなくなる社会を目指して、生きていきたいですね。そのためには、どう生きればよいでしょうか。政治学も必要となってきます。民衆による政治学が。