「100分で名著 ヘーゲル『精神現象学』 」で斎藤幸平さんが紹介していたので読んでみました。 書名に「考え抜く」とありますが、これは、「アナロジー思考」や「アンラーン」と並ぶ「哲学の基本スキル」(p.15)と、著者の川瀬さんは言います。 アナロジー思考…
「実際にこういうことが起こった」「証拠がある」「この宗教は世界の真実を論理的に解き明かしている」といった言葉で、自分の属する宗教は真正である、と主張しようとする人がいるが、これは矛盾している。 信仰とは論理的帰結ではなく、文字通り(「文字通…
科学はいつの時代にもどの場所でもあてはまる法則や答えを示していると思われている。たとえば、1+1は、いつでも、どこでも、2である。水素と酸素を適切な方法や環境で化合すれば水が生成する。 けれども、医学はかならずしもそうではない。ガンなどに顕著…
教義学には二つの側面があるのではないか。 ひとつは、神とは何か、創造、キリスト、聖霊、救済、教会、終末とは何か、探求し、表現する学である。聖書やキリスト教会の信仰が、あるいは、先人のそのような探求、表現が、その資源になる。 もうひとつは、そ…
さまざまな考えの人間たちが、いかにして合意を形成しうるか、あるいは、すべきか。「精神現象学」とは、じつは、そういうことを考えた本だった、と著者は言います。 つまり、多様な思考の人間たちが、歴史の中では結果的には相対的であろうとも、その時にお…
1980年代の韓国の詩から、茨木のり子さんが選び、翻訳した詩集。 若松英輔さんの解説は「目に見えないもの」の観点から。斎藤真理子さんは茨木さんのこの詩集での翻訳の特色を説いている。 「ちかちかかがやく/オリオンが/見えたのだった/眼をつむっても …
原著は1990年。 訳者によれば、ゼレは「著者の論旨は明快である。解放の神学の視点から、これらのキリスト教の中心的テーマ、基本概念を解き明かす」(p.298)。 ぼくが「解放の神学」と出会ったのが1980年代前半。 「解放の神学」は、第三世界(富める第一世…
U-NEXT、Amazon Prime、Disney+に加入しているので、何千もの映画が毎月の定額料金で、あるいは、プラス何百円かで、ぼくは観られるのですが、何年か経った最近、観たいもの、おもしろいものを見つけるのに苦労するようになってきました。 そこで、この本を…
「貧者を愛する者」とは、愛の深い信仰者のことではなく、司教たちのことです。つまり、「政治家は有権者の意見を代弁する」というのが実態とは関係のない理念であるように、司教には貧者を愛する者という理念が付されたのです。 しかも、貧者とは経済的な貧…
読み終わらない本とはどんな本なのでしょうか。わたしたちは世界をすっかり理解してしまうことなどできません。人間とは、人生とは何か、知り尽くすこともできません。神や真理は、つかんだと思ったら、神でも真理でもありません。つまり、世界も人間も人生…
「ぞうさん、ぞうさん、おはなが ながいのね」の、まど・みちおさんの詩を、浄土真宗の武田定光住職が読んだ本。 なぜ、これが「佛説」なのか。 「「佛説」とは、「説いた人間に属す出来事」ではなく、それを「佛説」として「受け取った人間に属す出来事」な…
宮澤賢治を主人公にした劇。イーハトーボは賢治の生きた岩手のエスペラント語表記。「列車」は「銀河鉄道の夜」に由来するのでしょう。 門井慶喜という小説家の直木賞受賞作「銀河鉄道の父」を先日読んで、さらに賢治関係を、という思いになりました。 門井…
本書のキーワードのひとつは「コトバ」でしょう。 「文字をなぞっているだけでは十分ではない。文字の奥に言葉を超えたもう一つの「コトバ」を感じなければならない」(p.7)。 「これから「コトバ」と書くときは、文字や声と言った言語には収まらない意味の顕…
村澤さんの「中井久夫との対話」とか「都市を終わらせる」とか「福音と世界」に連載中の「霊性のエコロジー」とかがおもしろかったことがあり、また、広島の山地に移住した友人が開く「里山オイコス」というZOOM集会に参加していることもあって、本書を読む…
著者によれば、イエスが提示した「福音の中心」とは、「逆説的な「さいわいなるかな」=「インマヌエルの原事実」の宣言と、神の「無条件で徹底的な愛とゆるし」」(p.138)です。 つまり、「インマヌエル」(神が私達と共にいること)と「無条件の愛」(善人…
人や組織は互いにモノを交換する。しかし、そこには、平等な交換もあれば、不平等な交換もある。 著者は四つの交換様式を挙げる。「A 互酬(贈与と返礼) B 服従と保護(略奪と再分配) C 商品交換(貨幣と商品) D Aの高次元での回復」(p.1-2)。 ぼくがこれ…
この本の題の最後に「霊性」という言葉が出てきます。これはどういう意味でしょうか。 「私にとっての霊性は、イエス・キリストを救い主・主として信ずる者がその信仰に生きる生き方に現れるものであり、それは、聖霊によって生きること、聖霊に歩調を合わせ…
タイトルの真実にはなぜ〈 〉がついているのか。素描とも訳されるデッサンという語が使われているのはなぜか。なぜ「ややこしい」と形容するのか。 「人間は〈真実〉そのものを生きることはできない。〈真実〉に背いているという感触だけが〈真実〉を感じ取…
いくつものおもしろい詩が紹介され、それへのおもしろいコメントが記されている。 たとえば、 湯豆腐やいのちのはてのうすあかり(久保田万太郎) 「俳句は離れたもの同士を結んで感興を得る。人事と天象とか、生活の具体的一面と心の底の思いとか、ともかく…
この本は「死とは何か」という問題の「正解」を述べているのではありません。むしろ、わたしたちにはそれはできないということを伝えているのです。 「なぜ、生きている人が死んでいることについて語ることができるのだろうか。なぜそれが本当のことだとわか…
「患者の弁護士」。精神科医中井久夫をこの本の中でもっともよく表現する言葉がこれでしょう。これは、フロイトの言葉で、中井が何度も引用し、本書の著者斎藤環も、中井が「患者の弁護士」であったと評しています。 これは、本書の表紙では「病を治そうとす…
宗教の起源、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、イラン宗教、バラモン教、仏教、ヒンドゥー教、中国の諸宗教、日本の諸宗教について、450頁に収められている。 それぞれの章の副題によれば、ユダヤ教の章は「一神教の源流」という観点から、キリスト教は「…
誤読ノート712 「父と子のコンプレックス」 「銀河鉄道の父」(門井慶喜、2020年、講談社文庫) 宮沢賢治の父親を主人公にした小説です。賢治の誕生から死までの、父子の距離の伸び縮みが描かれています。それには、いろいろな側面があり、読者の対人関係に…
物騒な書名だ。けれども、著者は「財物破壊はイエス。しかし、人間への暴力にはノー」(p.225)と明言している。 不必要にCO2を排出する金持ちの高級車を動けなくする、パイプラインに穴を開ける、そうした財物破壊によって、社会や政治がCO2による殺人的地球…
「『キリスト教』入門」とありますが、『キリスト教神学』の入門書、神学初学者向けテキスト、神学の土台にもなりうる一冊です。 「教会の信仰の大枠、言い換えれば、教会の一致の土台を示しながら、さらに、その中で多様性を受け止めようという姿勢をゴンサ…
キリスト教に関わる部分だけを抜き出してみましょう。 「後期ローマ社会における司教の傑出した地位は、貧者の守護者としてのその役割からくるものでした。この「貧者への愛」こそ、キリスト教文献史料が司教に期待する美徳でした」(p.27)。 けれども、これ…
柳田に興味があったわけではない。柄谷が自著で柳田に触れ、本書を編纂したと言うからだ。柄谷が柳田を引用する理由は、本書の「解題」における柄谷に言葉に現れている。 ぼくは、柳田にとくに関心はなかったが、30年くらい前に柳田の「山人」という言葉に触…
浄土真宗のある住職が書く文章が深くて、何冊か読んできたが、その中で、何度か、まどみちおさんの名前が出てきた。「ぞうさん、ぞうさん、おはなが ながいのね」の、まどさんだ。 その理由は、谷川俊太郎さんの本書のあとがきにうかがえる。 「詩を書くとは…
志村ふくみさんは染織家です。その志村さんが詩人リルケの「時祷詩集」「マルテの手記」「ドゥイノの悲歌」を読む。ふたりの距離と重なり。それがこの一冊です。 志村さんはリルケに逆説を見ます。 リルケはうたいます。 「貧しさは内部からの大いなる輝き」…
705 「資本主義による社会と自然破壊を防ぐのは社会主義国家ではなく、貨幣や商品に頼らない自発的助け合い社会=アソシエーション」 ・・・ 「ゼロからの『資本論』」(斎藤幸平、NHK出版新書、2023)
資本主義は自然を破壊するとマルクスは考えていた。社会主義と形容される国家はコミュニズムではない。貨幣への依存という点でベーシックインカムにも問題がある。 本書からはこの三つ、その他のことを学びました。 「私たちの暮らしや社会、それを取り囲む…