2021-01-01から1年間の記事一覧

558 「救われると信じ込むための強迫行為と、その反対」・・・「ヴェーバー入門 ―理解社会学の射程」(中野敏男、ちくま新書、2020年)

「精神なき専門人、心情なき享楽人、この無なるものが、人間性のかつて到達したことのない段階にまですでに登りつめた、と自惚れている」 著者によると、これはマックス・ヴェーバー(ウェーバーとも表記される)の「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の…

557 「キリスト教が資本家の搾取と貪欲な金儲けを支えたのではないか」・・・ 「マックス・ウェーバーを読む」(仲正昌樹、講談社現代新書、2014年)  

プロテスタント信仰が初期資本主義の展開の駆動力になった、とウェーバーは言う。しかし、利潤を追求することと神を信仰することは矛盾するのではないか。 以下は、本書を読んで、厳密にではなく、浅く、あるいは、間違って理解した上での、ぼくの勝手な展開…

556 「連行せずに、待機する。食べずに、見る」・・・「神を待ちのぞむ」(シモーヌ・ヴェイユ、今村純子訳、河出書房新社、2020年)

訳者によれば、本書の原題を直訳すると、「神の待機」となる。これには、「神が(わたしたちを)待つ」という意味と、「(わたしたちが)神を待つ」意味がある。 ぼくなりにこれを言い変えよう。「(わたしたちが)神を待つ」とは、「神が(わたしたち)を待…

555 「誰をも拒まない瞬間社会を創り出す生きた力」・・・ 「社会学者、聖書を読む」(高橋由典、教文館、2009年)

本書に出てくる聖書の登場人物にとって、社会は出来事の背景・原因というよりも、むしろ行先・結果なのです。 この本の十のエッセイは、タイトルからの予想を裏切って、じつは、社会学の方法を用いた聖書解釈ではありません。それぞれのエッセイでは、中心と…

554 「企業はなぜ高学歴を採用するのか」・・・「解読 ウェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』」(橋本努、講談社選書メチエ、2019年)

同じ机を十個作るとしよう。ひとりは、気が向いた時だけその仕事をする。脚を作っていたかと思うと、すぐにやめて、水を飲み、煙草を吸い、寝転がる。ようやく起き上がったと思うと、脚の製作の続きをするのではなく、天板にとりかかる。と思うと、これまた…

553 「見失った根源へ、感じ損なった永遠へ」・・・「読書のちから」(若松英輔、亜紀書房、2020年)

「マッチ売りの少女」は悲しいお話だった。だが若松さんは言う。「この作品は、生者と死者の世界を貫く悲愛の物語にほかならない・・・悲しみの種子が愛(かな)しみの花へと変貌していく物語」(p.127)。悲哀ではない。悲愛だ。ああ、マッチをするとはこうい…

552 「即答して孤独から逃げず、問い続け世界を耕す」・・・「若き詩人への手紙 若き女性への手紙」(リルケ、高安国世訳、新潮文庫)

訳者によれば、リルケは「実りない孤独を、豊穣な孤独にまで持ち上げ」「死を単なる死滅、消滅の意味から、われわれの生に意義あらしめる強大な力にまで高めた」(p.110)詩人です。 リルケは若き詩人に言います。「あなたの孤独を愛してください。そして、孤…

551 「ボクが牧師に足りないもの」・・・「牧師とは何か」(日本キリスト教団出版局、2013年)

牧師になって三十年。だが、ボクはろくな牧師ではありません。六十歳にしてそう痛感することがまたあり、反省し、他の人に学ぼうと思い立ち、この本を手にしました。(というか、安い古本はないか探していたところ、著者のおひとりにご恵贈いただきました。…

550 「人と自然を貧困と異常気象から守るために」・・・「NHK 100分 de 名著 カール・マルクス『資本論』」(斎藤幸平、NHK出版、2020年)

とても読みやすい。とてもわかりやすい。 年収1000万を超える人もいれば100万に満たない人もいる。他方、夏が異常に暑くなったり、経験したことのないような大雨が降ったり、パンデミックが起ったりして苦しんでいる人びとがたくさんいる。 マルクス!とか資…

549 「社会はなかなか動かせないが、少しは動く」・・・「社会学への招待」(ピーター・バーガー、2017年、ちくま学芸文庫)

男性であり、父親であり、教師であり、牧師である人がいたとする。この人は、男性とはどのようなものなのか社会から学び、社会が期待するような男性になる、あるいは、なろうとする。 この人は、父親には子どもの養育の責任があると社会から学び、それに沿う…

548 「宗教は人間の主観だが、その核には主観でないものがある」・・・「聖なる天蓋 神聖世界の社会学」(ピーター・バーガー、2018年、ちくま学芸文庫)

「宗教は人間の自己外在化の極致」「宗教とは宇宙全体を人間的に意味ある存在として想念する大胆な試みなのである」(p.56)。 宗教だけでなく社会は人間が自分の外に創り出したもの、とバーガーの社会学では見なされます。人間は、自分の生み出す宗教によって…

547 「めがね、望遠鏡としての社会学」・・・社会学(新版)」(長谷川公一他、2019年、有斐閣)  

コロナウィルス感染が広まった世界や日本は、現在どのような社会なのだろうか。これを機に、(あるいは、これに影響されずに、あるいは、他の要因と相まって)、これからどのような社会になっていくのだろうか。あるいは、現在に至るまで、社会はどのように…

546 「自分が救われていれば、共通善は求めなくてよいのか」・・・「カトリシズムにおける人間」(三雲夏生、1994年、春秋社)

誤読ノート546 「自分が救われていれば、共通善は求めなくてよいのか」 「カトリシズムにおける人間」(三雲夏生、1994年、春秋社) 著者は、遠藤周作、ジョルジュ・ネラン神父らを友人に持つカトリック信徒であり、慶応文学部の教員を務めた。 ぼくは、この…

545 「苦しみに埋もれなかった聖書の無名の女性たち」・・・「ヒロインたちの聖書ものがたり キリスト教は女性をどう語ってきたか」(福嶋裕子、2020年、ヘウレーカ)  

聖書の女性と言えば、エバとマリアくらいしか、すぐには出てこないかもしれません。けれども、それ以外にも、じつはたくさんの女性が登場します。マリアという名の女性もイエスの母一人ではありません。 この本は、そうした聖書の女性たちの物語を、聖書の物…