誤読ノート490 「春を告げる野の花」・・・「朝鮮から飛んできたたんぽぽ」(桜井美智子、2019年、書肆アルス)

 

 

 二十世紀のはじめ、日本は朝鮮に侵略し、植民地にした。炭鉱などの労働力として、多くの人びとを日本まで強制連行した。形の上では強制連行ではなかったが、植民地化され、貧しくされたゆえに、日本に来ざるを得ない人びともいた。

 それなのに、「勝手に来た、その子孫はさっさと帰れ」という政治家や大衆が、二十一世紀に跋扈している。

 

 著者は樺太生まれ。「幼い頃に実の両親と生き別れ、炭鉱労働者だった朝鮮人とその日本人妻ハツのもとで育つ」(著者略歴)。

 

 やさしかった彼。大きく強かった彼。家に入れてくれた彼。

 

 彼女にとって、金永希は、不法侵入者でもなければ、追い出すべき敵でもない。

 

 風に乗り飛んできて、ここにやわらかな花を咲かせるたんぽぽだった。

 

 彼女に春を告げる野の花だったのだ。