二十世紀のはじめ、日本は朝鮮に侵略し、植民地にした。炭鉱などの労働力として、多くの人びとを日本まで強制連行した。形の上では強制連行ではなかったが、植民地化され、貧しくされたゆえに、日本に来ざるを得ない人びともいた。
それなのに、「勝手に来た、その子孫はさっさと帰れ」という政治家や大衆が、二十一世紀に跋扈している。
著者は樺太生まれ。「幼い頃に実の両親と生き別れ、炭鉱労働者だった朝鮮人とその日本人妻ハツのもとで育つ」(著者略歴)。
やさしかった彼。大きく強かった彼。家に入れてくれた彼。
彼女にとって、金永希は、不法侵入者でもなければ、追い出すべき敵でもない。
風に乗り飛んできて、ここにやわらかな花を咲かせるたんぽぽだった。
彼女に春を告げる野の花だったのだ。