おそらく、今、日本語では一番新しく、一番安価な(ラジオ講座用のペーパーバックゆえに税別920円!)聖書学のテキストでしょう。
歴史上のイエスはどんな人物であったか、そのイエスという素材を四つの福音書はどのように味付けしたか。世界レベルの最近の研究を反映した一冊だと思います。
まず、「福音」という言葉は、イエスに由来せずに、たとえばマルコ福音書であれば福音書を書いたマルコが意図的に使った言葉であることを著者は指摘します。
マルコ福音書においては、〈イエスの言動、生涯〉そのものが「福音」とされ、同時に、その言動においてイエスが伝える〈神からの/についてのメッセージ〉も「福音」とされます。
福音書記者たちは、ヘレニズム世界の概念を持ち込みます。マタイやルカが用いた処女降誕物語やヨハネが採用したロゴス論(「言葉は神になった」)もそうです。
これらは、ユダヤから見れば「異教的」な概念ですが、「ヨハネ福音書は『イエスは世界が始まる前から神であり、その後に人間になった』と語ることで巧みに回避」(p.77)したと著者は説明します。
NHKのラジオの「宗教の時間」のテキストです。宗教的なメッセージ、心の糧を求める人は面食らうかもしれませんが、聖書やキリスト教について学問的教養を求める人には最適の一冊でしょう。
まもなく「下」も発売されます。上下あわせると2000円か。それでも、キリスト教出版社が合本にしてハードカバーで出すと、3500円くらいにはなってしまいそうなので、お買い得ではないでしょうか。