469 「哲学者の、到達した場所ではなく、歩んだ道」
「考える教室 大人のための哲学入門」(若松英輔、 NHK出版、2019年)
哲学者の名前や用語をすらすら並べるのは、カッコよく見え、自分もそうなりたいと思って、入門書を手にする人も少なくないでしょう。
けれども、本書は哲学知識や概念の概要ではなく、哲学者がどういう想いでどのように考えたかを、若松さんが読者とともに辿る一冊なのです。つまり、哲学者が考えた結果を覚えるのではなく、哲学者や著者と一緒に考えるのです。
本書に挙げられているソクラテス、デカルト、ハンナ・アレント、吉本隆明に共通することは、知っても知っても知り尽くせないことを、知れば知るほど知らなくなることを、それでも、知ろうとし続ける思考「労働」ではないでしょうか。
しかも、目に見えるものの仕組みの解明ではなく、これらの哲学者たちは、目に見えないものを、世界や人間の根源に関わるような、到達できないものを目指して、考え続けるのです。しかし、考え続けるという営みの中にこそ、到達があるのかも知れません。
「デカルトが一番大事にしていることは、数学では立証できない『魂』の存在をどうしたら顕せるのかという問いであった」(p.45)。
字が大きく、行間もあり、表現も平易で、非常に読みやすいです。