「貘さんがゆく」(茨木のり子、1999年、童話屋)
貘さんこと、詩人、山之口貘。
日本土着の詩は、貘さんから始まった、とは金子光晴。
「人間が生きてゆく、平凡で、だらけた人生の折り折りを愛してつかみとってくる魅力的な詩作方法」(p.81)とは、評伝の著者、茨木のり子。
のり子はそれにとどまらない。貘さんを、賢治と並べる。時代に縛られない、輝く個性。藤村、晶子、光太郎、啄木、朔太郎、光晴らのような「時代の子」ではなく、「平安時代に生きても、戦国時代に生きても、賢治は賢治であり、貘は貘」(p.152)。
今日はごちそうしよう、と言われ、ついていくと、ほとんど持っていなくて、かえって、ごちそうするはめになるけれども、それでも、貘さんといると豊かな時を過ごせ、すっかりおごられた気分になる。人々は貘さんを、「精神の貴族」と呼んだ。
沖縄の被ってきたことの略史。貘さんのおつれあいとおじょうさん。金子光晴、佐藤春夫らとのゆかいな交わり。
のり子さんが選んだ詩、二十数編。
貘さんの親せきだという、やはり表現者のお友達から紹介していただいた愛すべき一冊。