少年時代に子どもを殺してしまった鈴木くん。
同級生を自死させてしまった増田くん。
単身の寮長、山内さん。
鈴木くんの「母」、白石さん。
暴力男に貪られ、追い回され、徹底的に辱しめられる藤沢さん。
皆、家族とはともに生きられない。
「あの人はひとり」だと、においでわかる、と鈴木くん。
「ひとり」をわかる鈴木くんは、「友」を求める。味方になってくれなくても、厳しい言葉を投げつけられても、ぼくが死んだら悲しいと言ってくれる友達でいてほしいと。
きみが死んだら、ぼくは悲しい。ぼくが死んだら、その人が悲しんでくれる。
友情、いや、人と人とのつながりの根源。
鈴木くんの気持ち。
ぼくが自殺したら悲しい、ぼくが必要だと言ってくれる友達に出会えてとてもうれしい。
逃げても逃げても過去に追いかけられる。
普通に生きることが許されない。
死にたい。生きる価値がない。
ぼくを縛らないで欲しい。
ぼくには行くところがない。ここにおいてください。
ぼくみたいに大きな罪ではないだろうけど、きみも何かの罪で苦しんでいるのではないの。
どうやって生きていけばいいのかわからない。罪に苦しんでいる誰かと一緒に悩み、考えたい。どう生きていけばいいのかを。
鈴木くんのまわりの人たちの気持ち。
彼は間違いを犯したけれども、化け物なんかではない。
子どもを殺したことのある人間と顔を合わせるのが恐い。
彼の過去を告白されるのが恐ろしい。
憎悪はない。ただそばにいてほしくない。
犯した罪を反省しているのか。
被害者や遺族に対して罪を償いたいと思っているのか。
もう人を殺すことはないのか。
おまえと一緒にされたくない。
彼にも生きる場所が必要だ。その邪魔をしたいとは思わない。彼がこれからどう生きて行くのか見てみたい。
彼がしたことを知って、友達だと思えますか。好きでいられますか。恋人でいられますか。
彼には、根無し草の生き方しか残されていないのだろうか。何十年もそうするしかないのか。そう思うと、胸が締め付けられる。
彼の優しい面、弱さ、強さ、まっとうさを、おれは知っていた。だけど、それを他の人に伝えると、彼を擁護していると思われてしまう。
過ちを繰り返さず、自分の罪を深く見つめ、被害者や家族への償いの気持ちを深め、強く生きてほしい。たった一人でも、彼に寄り添う人がいてほしい。
きみが何の反省もせずに、のうのうと生きているなどとは、思っていない。
きみの優しさも知っている。
きみと一緒にいて危険だと感じたことはない。
遺族の言葉に共感するが、きみには、逃げないで、生きていってほしい
自ら死を選択しないでほしい。
ふたたび、きみの顔を見たい。
登場者の気持ち、心持ちに胸が詰まる思いで一挙に読み、最後の十数頁で、涙がこぼれた。
ただし、疑問も残る。元犯罪者を人間扱いしない表現、女性を性の奴隷とする描写。それを克服しようとする文脈であっても、文脈から独立して、傷ついた人をふたたび傷つける暴力を持っている。