182 「今度こそ、大きな声で言うよ。きみが死んだら、ぼくは悲しい」

 「友罪」(薬丸岳著、集英社、2013年)

少年時代に子どもを殺してしまった鈴木くん。

同級生を自死させてしまった増田くん。

単身の寮長、山内さん。

鈴木くんの「母」、白石さん。

暴力男に貪られ、追い回され、徹底的に辱しめられる藤沢さん。

皆、家族とはともに生きられない。

「あの人はひとり」だと、においでわかる、と鈴木くん。

「ひとり」をわかる鈴木くんは、「友」を求める。味方になってくれなくても、厳しい言葉を投げつけられても、ぼくが死んだら悲しいと言ってくれる友達でいてほしいと。

きみが死んだら、ぼくは悲しい。ぼくが死んだら、その人が悲しんでくれる。
友情、いや、人と人とのつながりの根源。


鈴木くんの気持ち。

ぼくが自殺したら悲しい、ぼくが必要だと言ってくれる友達に出会えてとてもうれしい。

逃げても逃げても過去に追いかけられる。

普通に生きることが許されない。

死にたい。生きる価値がない。

ぼくを縛らないで欲しい。

ぼくには行くところがない。ここにおいてください。

ぼくみたいに大きな罪ではないだろうけど、きみも何かの罪で苦しんでいるのではないの。

どうやって生きていけばいいのかわからない。罪に苦しんでいる誰かと一緒に悩み、考えたい。どう生きていけばいいのかを。


鈴木くんのまわりの人たちの気持ち。

彼は間違いを犯したけれども、化け物なんかではない。

子どもを殺したことのある人間と顔を合わせるのが恐い。

彼の過去を告白されるのが恐ろしい。

憎悪はない。ただそばにいてほしくない。

犯した罪を反省しているのか。

被害者や遺族に対して罪を償いたいと思っているのか。

もう人を殺すことはないのか。

おまえと一緒にされたくない。

彼にも生きる場所が必要だ。その邪魔をしたいとは思わない。彼がこれからどう生きて行くのか見てみたい。

彼がしたことを知って、友達だと思えますか。好きでいられますか。恋人でいられますか。

彼には、根無し草の生き方しか残されていないのだろうか。何十年もそうするしかないのか。そう思うと、胸が締め付けられる。

彼の優しい面、弱さ、強さ、まっとうさを、おれは知っていた。だけど、それを他の人に伝えると、彼を擁護していると思われてしまう。

過ちを繰り返さず、自分の罪を深く見つめ、被害者や家族への償いの気持ちを深め、強く生きてほしい。たった一人でも、彼に寄り添う人がいてほしい。

きみが何の反省もせずに、のうのうと生きているなどとは、思っていない。

きみの優しさも知っている。

きみと一緒にいて危険だと感じたことはない。

遺族の言葉に共感するが、きみには、逃げないで、生きていってほしい

自ら死を選択しないでほしい。

ふたたび、きみの顔を見たい。


登場者の気持ち、心持ちに胸が詰まる思いで一挙に読み、最後の十数頁で、涙がこぼれた。

ただし、疑問も残る。元犯罪者を人間扱いしない表現、女性を性の奴隷とする描写。それを克服しようとする文脈であっても、文脈から独立して、傷ついた人をふたたび傷つける暴力を持っている。

http://www.amazon.co.jp/%E5%8F%8B%E7%BD%AA-%E8%96%AC%E4%B8%B8-%E5%B2%B3/dp/4087714934/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1394485437&sr=8-1&keywords=%E5%8F%8B%E7%BD%AA