202 「唄は、かき消されない」

 「東北を聴く −民謡の原点を訪ねて」(佐々木幹郎、2014年、岩波新書

 よそ者の詩人が、大震災後の東北を訪ね、民謡を聴く。ひとの声を聴く。二代目高橋竹山とともに。

 大船渡の六十代女性。「唄うたってる声が聴こえてきましたよ。潰れた家の下から・・・・・八戸小唄だったと思いますよ」。

 民謡は一人の制作者のものではない、と言う。土地の文化から生まれ、同時に、流れ込む他所の文化にも育てられる。民謡は人々にうたい継がれ、土地ごとに自由に変化する。

 民謡演奏への最高の誉め言葉は「すばらしかった」でも「涙が出た」でもなく、「ああ、寿命が三年延びた!」だと言う。

 「ハアーアーアーアー 遙か彼方は相馬の空かヨ ナンダコーラヨーット(ハァ チョーイチョイ)」。新相馬節。

 相馬からだけでなく、原発事故によって故郷や我が家から避難せざるを得ない、何万人もの福島のひとびとの唄ではないか。

 けれども詩人は、囃子詞に「間の抜けた明るさ」と「この世は続くもんだよ」という「希望の灯」をも聴く。「辛いときには『唄』をうたう。『唄』はそのためにある」。

 原発事故でいろいろなことが変わってしまった。これからのことはあてもなく、わからない。けれども、唄は変わらない、と言う。

 ひとびとは「大漁」でなくても「大漁だエー」と唄い、「大漁」を呼び込もうとする。

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