179 「不幸ではない。幸せと幸せの谷間にいるだけ」

 「お父さんの手紙」(イレーネ・ディーシェ著、赤坂桃子訳、新教出版社

 新教出版社を代表する一作になるかも。

 ハンガリーの田舎町にドイツから遊びに来た、そばかす、赤毛のダリア。
たちまち恋に落ちたラズロ。
 最初のデートで宿ったのがペーター。
 けれども、ダリアが事故で・・・

 ラズロはペーターにささやく。
 大きくなったら、自分の頭でしっかり考えること。
 なにもおそれてはならないこと。
 死ぬことはこわくないこと。
 だけど、死ぬ前に、楽しく生きること。

 外交官のラズロはベルリンへ。
 ペーターはお医者さんのおじいさんとハンガリーに残り、家事手伝いの若い女性や庭師たちと、毎日を楽しく。
 
 ある時、ラズロが迎えに来て、ペーターもベルリンへ。
 まだ六歳にもならないのに、あるいは、ならないから、ドイツ語は苦労せずに、数週間で話せるように。うらやましい!
 
ラズロはペーターに、またささやく。
 目をきちんとあけていること。
 でも、頭が良いことを他の人に気づかれないこと。
 きらわれないように。

 ラジオから聞こえる「総統」の叱る声。
 短気で怒りっぽいようだ。
 だけど、ひとびとはそんな総統をとても愛し、演説を聞きに集まり、総統が叱りはじめると大喜び。
 
 ラズロはペーターに言う。
 「ユダヤ人」なんていない。
いるのは「ユダヤ系の人たち」。
 
 1938年11月9日夜、ナチスユダヤ人のお店や集会所を襲う。
 「水晶の夜」とは、ショーウィンドゥが砕け散った暗黒のこと。

  ペーターはふたたびおじいさんの元へ。
  お父さんからは毎週末、手紙が届く。
何年も、何年も、ずっと。
  おじいさん、おとうさんの、愛情に満ちた秘密。
  そして、最高の贈り物。

  おとうさんは息子にささやいた通りに生き続けている。

  不幸ではない。幸せと幸せの間の少年時代。

  歯切れがよく、よみやすく、けれども、つたわり、しみこむ訳文。

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