2014-01-01から1年間の記事一覧

175 「言葉で教えることから、イメージをわかちあうことへ」

「セラピスト」(最相葉月、新潮社、2014年) 読みながら、心がなごむページがたくさんありました。というのは、日本を代表するセラピスト、木村晴子さん、河合隼雄さんらが、クライアントや著者と向き合っているときの生の声が聞こえてくるからです。とくに…

174 「百年足らずの人生 それを包み込む大きな枠」

映画「ツリー・オブ・ライフ」(テレンス・マリック監督、ブラッド・ピット、2011年)ブラッド・ピットは父の嫌らしさと不器用さを、 ジェシカ・チャステインは母の美しさと奔放さと苦悩を、子役たちは少年の喜怒哀楽を、巧みというよりも、自然に、しかし深…

173 「文学は、筋や表現、読書中の喜怒哀楽を楽しむだけでなく、読後にその意味を考えつくと得した気分」

「教養として読む現代文学」(石原千秋、朝日選書、2013年) 小説や論説文、エッセイなど、文と呼ばれるものには、たったひとつの正しい解釈があるのでしょうか。ぼくは、聖書の解釈、というか、聖書のテキストをネタにしたお話をすることを生業としています…

172 「積読山の崩落防止にも役立つ一冊。面白い本を紹介してくれるこの本が、もう、面白い本」

「面白い本」(成毛眞、岩波新書、2013年) 百冊の面白い本が紹介されていますが、それを読まなくても、この本自身がもうすでに面白い本です。 まず、この本で紹介されている百冊の本が伝える事実や出来事がとても面白い。 つぎに、その事実を書き表したそれ…

171 「聖書の言葉にじっと耳を傾け、それにこたえて祈る生活」

「教会づくり入門」(榎本保郎著、教文館、2013年新装第1版) オリジナルは四十年前。タイトルは「教会づくり」だが、中身は「信仰生活入門」。教会にもっと多くの人を集めるヒントを、などという、ぼくのさもしい考えを見透かされたようです。たしかに、ハ…

170 「整った論や説からではなく、雑音交じりの談と話から聞こえてくる百年後の福島」

「シャッター商店街と線量計」(大友良英著、青土社、2012年) 権力者サイドからであっても、脱原発の側からであっても、オキマリの「〇〇論」からはわからない、雑談、葛藤、ノイズから見えてくる福島の人々の現実と未来。 テーマは、ふたつで、ひとつ。全…

169 「遠さを少しでも縮めたいと願う者たちのコスト」

DVD映画「フタバから遠く離れて」(船橋淳監督、新日本映画社、2014年) 地震、大津波、原子力発電所事故に襲われ、いまだ苦しみ、苦しめられ続けている人々や地域のことを忘れないで、ずっと覚え続け、自分の人生の大きな課題とし続けるためには、かなりの…

168 「いいせりふを持ちてえなあ」

「井上ひさし 「せりふ」集」(井上ひさし著、こまつ座編、新潮社、2013年) ひさしファンにはありがたい一冊。でも、それ以外の人には、一頁に一台詞で130頁で1200円。ちょっと高いというか、新作はもうでないけど、「井上ひさし」の名前はまだ商売になると…

167 「美しい否。賢治の生きた農村が、細かな線と押さえた水彩色で、頁をめくるごとに立ち現われる」

「雨ニモマケズ Rain Won’t」(文・宮沢賢治、英訳・アーサー・ビナード、絵・山村浩二、今人舎、2013年) ビナードさんが賢治を英訳したなら、山村さんは、賢治を、絵訳してくださった。 いわば「和風」の作品で、世界に認められたアニメーション作家、山村…

166 「五十の人生、五十の読書」

「17歳のための読書案内」(筑摩書房編集部・編、ちくま文庫、2007年) ぼくより、ちょっと有名で、ずっと深く考える四十九人の執筆陣が、ひとり何冊かずつ、本を紹介。おもしろいのは、それらの本の中身だけでなく、寄稿者の紹介の仕方。そこにちらっと見…

165 「事実に基づく真実。真実を描く事実でない物語」

「イエスとは誰か 史的イエスに関する疑問に答える」(ジョン・ドミニク・クロッサン著、飯郷友康訳、新教出版社、2013年) 聖書には、事実としてにわかに受け入れがたい奇跡などのお話もありますが、それで相手にしないのは非常にもったいないことです。ま…

164 「大水害と被爆の再時代のわたしたちへ、死者からの口伝」

「少年口伝隊 一九四五」(井上ひさし、講談社、2013年) 短く、すぐ読め、再読せずにはおられず、胸を打たれます。ぜひお読みください。 さて、自然災害と原爆による大量殺戮を混同してはなりません。 しかし、2010年に逝去した井上ひさしさんがその二年前…

163 「静かに聴かせてくれる静かな映画」

映画「楽隊のうさぎ」(中沢けい原作、鈴木卓爾監督、2013年) 「うさぎ」なのは、アリスのように不思議な国、あたらしい世界、中学校生活、吹奏楽部への案内人ってことだな、と納得していたら、もうひとつ、わけがありそうです。 引っ込み思案の中一の男の…

誤読ノート162 「子どもはさっきまで天使だった。老人はまもなく天使になる。」

「カールじいさんの空飛ぶ家」(ディズニーアニメ映画、2009年) 子どもの気持ちに弱い。悲しかったり、寂しかったり、歯を食いしばったり、うれしがったりする子どもの心が伝わってくると、涙が出そうになる。ラストシーンは歯を食いしばらなければならなか…

161 「あの人、が、おかあさん、になる時」

映画「麦子さんと」(堀北真希主演、𠮷田恵輔監督、2013年) おかあさん、と母のことを呼び始めたのは、いつのことだったでしょうか。 もう思い出せない遠い日のことですが、ひとはおとなになって、もう一度、おかあさん、と言ってみたくなる時が来るのかも…