「いわき総合高校 演劇部 『あひる月13』の脚本」(原案:いわき総合高校演劇部、構成・脚本:いしいみちこ、東京公演のラウンジで購入、欲しい方はいわき総合高校に問いあわてみてください)
俳優も、登場人物も、高校3年生中心。2011年3月は中学卒業を控えていた。今は高校卒業を。
36年前、ぼくは何を考えていたんだろう。勉強する気が起こらず、かなりしなかったが、それでも、ときには、明日から始めよう、と前向きになったりもしたが、たいがいは、やらなければならない、という焦りが渦巻いていた。かっこいい大学に入りたい、そういう欲情はあったが、実力も努力もともなわず、はやばやと、浪人を、覚悟というよりも、あたりまえの道筋とみなし、ますます、勉強から遠のいていった。とうぜん、心にはつねに・・・なんと言ったら良いのだろう・・・このなんと言ったら良いのかわからない状態を、とりあえず、ムカツクというのだろうか。
この劇の高3生たちも、ムカついている。何に。勉強や進路もすこしだけ出て来るけど、それよりも、ぼくとはだいぶ違うことに。
「白くて豆腐みたいに不安定でつめたい感じのする仮設校舎」は歩くとうるさいし、臭いし、ぎゅうぎゅう詰めの感じ。
昔よく遊んだ公園の遊具は震災でぜんぶなくなり、それがどんな遊具だったか思い出せない。
中学時代いじめられたので、もう二度度いじめられないために、気の強い自分を演じるため、クラスに入る前に、テンションをあげる。
ホールボディーカウンターでときどき学校を休める、あるいは、休まなくてはならない。
おばあちゃんが毎朝「早く支度しなさい」って急かすので、イライラする。
除染作業のせいで、温かかった茶色の庭の土は、冷たい堅い灰色になってしまった。除染しないといけないんだろうけど、納得がいかない。
ここは前はおいしい和菓子屋だったけど、名前が思い出せない。
セイタカアワダチ草がどんどん伸びて、津波も地震も覆い隠してしまう。この草のまっすぐさに、いらいらする。
プールにはまだ入りたくない。
同級生に脇の汗がヤバイとか、汚いとか言われて、え〜っとリアクション。
2011年の入学直後の自己紹介で「好きなバンドはセカイノオワリです」。
ギャルっぽい子はクラスで上のグループに入れる。
いじられキャラは、がんばってノリをあわせるしかない。プライドを傷つけられないために、クラスでやっていくために。
富岡の家は、「庭も広くて走れるみたいな」広かった。
「水道と電気とガス引けば住めるんだっけ、ね、お母さん住めるよね」
「うん、住める、住める」
富岡のことを同級生から聞いても、ヘラヘラ笑うことしかできなかった。
「今、富岡入れないけどさ、なんとかして、潜り抜けて」
「家って言ったら、私の本当の家はあそこ」
でも、その家の記憶が真っ暗になっていってしまう。
本当の家も、わたしがいたことも、消えてしまっちゃうのか。
今いるいわきのマンションの周りは排気ガスの匂い。富岡の家の周りは、しめった草の良いにおい。
かつて旅館の駐車場だったところにプレハブが建ち、原発作業員の宿舎となるが、カーテンは閉まったまま。原発の作業が長時間なんだろうな。
登校中、いつも玄関が開いている家があって、そこのおばあちゃんが「おはよう」って言ってくれたけど、今は、玄関にはシャッターがついて、しまりっぱなし。おばあちゃんも出てこない。
街の活気はない。ただ、スナックが増え、そこだけ活気だけあふれている。
卒業したら東京に行く。この町の人、避難してきた人、原発作業員としてやってきた人。その人たちのことを忘れたらいけないと思うけど、忘れていく。忘れていることも忘れていく。
ムカツク。じゃあ、この飴、あげる。幸せの飴。ありがとう。これでおれも幸せになれる。
今日もまた教室で、今日が始まる。
演劇部のみんなが、自分たちのこと、三年間のこと、教室のこと、家出のこと、登下校でのことなど、何度も語り合い、考え、語り合う、そこから生まれた脚本だと思います。