誤読ノート
わたしたち人間はなぜ人を差別するのか、その諸説を知る一環で、この本も手にしてみました。 「人は「自分に似ていて少しだけ違う人」が気になり、場合によってはその人を攻撃して追い出そうとしたり、逆に「そんな人はいないんだ」と否定しようとしたりして…
副題の「できるを科学する」とは、どういうことでしょうか。 「できる」という言葉は、「できる=優れている」というような能力主義に結びつきがちですが、そうではなく、本書では「『できるようになる』という出来事そのものがもつ不気味な面白さや想像を超…
タイトルは「新しい故郷」という意味です。難民の旅が描かれています。アブラハム一族も難民ではなかったか、と言われています。旧約聖書によると、四千年ほど前、アブラハムはチグリス・ユーフラテス河口を出て、川沿いに進み、古代シリア北部、現代のトル…
この本のタイトルを見て、悪質でない差別があるのか、差別というものはそもそも悪質なものなのではないか、と思う人もいるのではないでしょうか。あるいは、区別は悪質ではないが、差別は悪質だ、と考える人もいるでしょう。 けれども、差別という言葉は、「…
2年前に召された教会員の蔵書をご家族が、教会の皆さまに、と持ってきてくださった中にこれを見つけました。 著者は、これは説教集ではないとしています。「ここに収録された文章は、礼拝で語られる説教のように、聖書の解釈や解釈の伝統を厳密に吟味したり…
ぼくもほぼ毎週日曜日「説教」をし、その午後は疲れ気味ですが、月曜日には「起き上がって」、つぎの日曜日を目指して歩き始めます。 そんなわけで、大学の学生や各地の教会で「説教」をしておられる著者から学ぼうと手にしました。「まるで今日、初めて聖書…
巻末で若松英輔さんがつぎのように書いています。 「人は死んでも「死なない」。むしろ、「いのち」として新生することを、詩は私たちにそっと教えてくれる」(p.161)。その「いのち」は、ブッシュ孝子さんの詩の中にすでに表れています。 「あの日以来 私の…
本書には五つの論文が含まれていますが、そのうち、「旧約聖書における自然と人間」「旧約聖書とユダヤ教における食物規定(カシュルート)」「旧約聖書における「平和(シャローム)」の概念」の三つから、大切に思われた点について以下に記します。 (もう…
本書は、オンライン環境での神学教育と学修について論じられています。 その利点として、たとえば、以下のようなことが挙げられています。 「オンライン教育は必然的にある環境を作り出せる。学生の人種やジェンダーや民族や障碍や社会的背景を、その学生が…
たとえば、ある小学校のクラスに、中国籍、韓国籍、日本籍の児童がいたとします。そうすると、最近は「多様性の尊重」ということを言います。それぞれの個性、文化、歴史、言語を大切にしようと。「多文化共生社会を」と。しかし、これだけしか言わないなら…
中井さんについて書いた本は、これ以前に、もう一冊読んだことがある。村澤真保呂さん、村澤和多里さんの「中井久夫との対話: 生命、こころ、世界」(河出書房新社、2018)だ。 (と思ったら、この両・村澤さんによる「異界の歩き方――ガタリ・中井久夫・当事…
聖書、イスラエルの歴史、イエスの生涯、十字架と復活を通して、神は自身を人間に示した。これを特殊啓示と呼びます。 これに対して、普通啓示は、自然啓示、一般啓示とも呼ばれ、神は、自然、(聖書外の)人間や歴史を通しても、自身を示す、という考え方で…
著者はスロヴェニア出身の「現代思想の奇才」と言われる人。名前はよく聞きますが、著書を読んだことはありません。難解と聞いたこともあります。 本書は、新書で、ウクライナ状況を語っているので、すこしは読みやすいかと思って、手にしてみました。おそろ…
ああ、うつくしい本です。 栞の紐のやわらかさ、まぶしさ、輝き、品位に驚きました。 カバー、帯、そして、挿絵が、また、うつくしい。若松さんの言葉が、こんども、うつくしい。ただ、今回は日本経済新聞に連載されていたということがあってか、この本は、…
著者は、内村鑑三、高橋三郎らを批判(批難ではない)し、また、青野太潮、大貫隆を援用しつつ、「すべての人は無条件で(信仰なしでも)救われる、救われるとは、神自身が十字架の上で苦しみつつ、苦しむ者とともにおられることである」ということを述べて…
「じねん」と読みます。 著者は環境学の大学教授。再生可能エネルギー、里山再生を研究しておられるそうです。 ぼくは、例によって、地球の生態系危機にあって、市民として学びたいということで、この本も手に取ってみました。「自然(じねん)」とは「自(…
地球の生態系の危機やその克服について学びたいという気持ちが自分の中で高まってきていることと、じつは、農学部中退であること、そういう理由で本書を手に取ってみました。四十年以上前に農学部に入学したものの、農学どころか大学での学びに興味がわかず…
地球の生態系の危機の時代に、やはり、農業とか自然とか環境とか、そういうことについての聖書理解などに関心をもって、何冊か読んできた中での一冊です。 以下、ぼくにとって魅力的だった箇所をご紹介します。「本書で提案したいのは、被造物の共同体におい…
地球の生態系が深刻な危機にある。これに臨むための思想を、キリスト教や聖書、神学が提供してくれないだろうか。そう思い、この本を読むことにした。 しかし、この本に書かれているのは、地球の生態系問題に直接かかわることばかりではない。この本の概説は…
人の中で区別がどのようにして差別に変わるのだろうか。 友人にそう問いかけられ、この本を読むことにしました。タイトルからも、「何が「差別」で何が「区別」?」という帯の文句からも、ふたつみっつの回答が得られるように思えたのです。 「「この人は○○…
「経済」と言うと、お金の流れのことだと思う人は少なくないでしょう。そして、自分が生きるためには、お金を獲得し、所有しなければならない、と。 けれども、この本では、お金だけでなく、お金を補う、さらには、お金に代わるかもしれない、「つながり」こ…
誤読ノート804 「イエスの自由と苦しみに救われる」 「イエス」(ハンス・キュンク著、福嶋揚訳、ヘウレーカ、2024) イエスは、どういう考えで、どういう生き方をしたのでしょうか。そして、イエスは、聖書や本書のような書物を通してイエスと出会う者に、…
本書では、プラトン、アリストテレス、旧約聖書、新約聖書、アウグスティヌス、トマス・アクィナスと並べられていて、なんだか難しそうな気がしますが、じつは、そうではなく、それぞれの「愛」についての考えが、とてもわかりやすく簡潔に述べられています…
旧約聖書、新約聖書は、一冊に製本すれば、上下に段組みで二千頁にわたり、そこには、六十六の書物が収められています。 これらの書物は同じ時代に書かれたものではなく、したがって、著者も多数いるのですが、これら全書物を一貫するテーマを見つけよう、言…
資本主義は、労働者から「搾取」する(労働で生み出した富に匹敵する賃金を払わない、そうやって労働者の富を奪う)だけではありません。被征服民や人種差別される人びとから莫大な富を「収奪」します。労働者には不当な額であろうと「対価」が払われますが…
「クィア神学」とは何なのでしょうか。これは定義できません。なぜなら、クィアとは定義を拒む行為だからです。ですから、「クィア」も「神学」も、こういうものだ、とは言い切ることができません。 しかし、「クィア神学」は、LGBTQ+、あるいは、セクシュ…
若松英輔さんの本を読み始めたのは2011年であったように思います。そう思ったら、「魂にふれる 大震災と、生きている死者」、最初に読んだ若松さんの著作は2012年の出版でした。しかし、この1年は、ずれではなく、幅ではないでしょうか。 「死者」。若松さん…
著者の長編小説「また会う日まで」を最近読みました。その話をしたら、この「母なる自然のおっぱい」もおもしろいよ、と勧められ、ぼくもここ何年か地球環境危機、自然、土、農、食といったものを読みたいと思っていたので、さっそく入手しました。 ひとつひ…
Q文書とは、新約聖書のマタイによる福音書とルカによる福音書が資料とし引用したと想定される仮説上の文書ですが、学問研究によれば、写本は発見されていないものの、存在したことはほぼ間違いないそうです。 そういうことは、40年前、学生時代から聞いてい…
「我々は、悲嘆を克服しない」(p.27)。つまり、本書は悲嘆の克服法を述べているのではなく、さらには、悲嘆を遠ざけてもならない、と著者は言う。 もう一点。人間は、知り合い、交わり、ひとつなる。これは、三位一体の神の徴である。「三位一体においては、…