誤読ノート

826 「近親憎悪、自分の不遇の犯人捜し、優越感依存」 ・・・「「いじめ」や「差別」をなくすためにできること」(香山リカ、2017年、ちくまプリマー新書)

わたしたち人間はなぜ人を差別するのか、その諸説を知る一環で、この本も手にしてみました。 「人は「自分に似ていて少しだけ違う人」が気になり、場合によってはその人を攻撃して追い出そうとしたり、逆に「そんな人はいないんだ」と否定しようとしたりして…

825 「言われたとおりにしない方が、新しいことができる」 ・・・「体はゆく できるを科学する〈テクノロジー×身体〉」(伊藤亜紗、2022年、文藝春秋)

副題の「できるを科学する」とは、どういうことでしょうか。 「できる」という言葉は、「できる=優れている」というような能力主義に結びつきがちですが、そうではなく、本書では「『できるようになる』という出来事そのものがもつ不気味な面白さや想像を超…

824 「難民は遠くないです」・・・ 「ノイエ・ハイマート」(池澤夏樹、2024年、新潮社)

タイトルは「新しい故郷」という意味です。難民の旅が描かれています。アブラハム一族も難民ではなかったか、と言われています。旧約聖書によると、四千年ほど前、アブラハムはチグリス・ユーフラテス河口を出て、川沿いに進み、古代シリア北部、現代のトル…

823 「人は皆ひとしく尊い、誰かを貶めてはならない」・・・ 「差別はいつ悪質になるのか」(デボラ・ヘルマン、2018年、法政大学出版局)

この本のタイトルを見て、悪質でない差別があるのか、差別というものはそもそも悪質なものなのではないか、と思う人もいるのではないでしょうか。あるいは、区別は悪質ではないが、差別は悪質だ、と考える人もいるでしょう。 けれども、差別という言葉は、「…

822 「七十年のまなざし」・・・「希望の力: 自由を使いこなすために」(深井智朗、2008年、教文館)

2年前に召された教会員の蔵書をご家族が、教会の皆さまに、と持ってきてくださった中にこれを見つけました。 著者は、これは説教集ではないとしています。「ここに収録された文章は、礼拝で語られる説教のように、聖書の解釈や解釈の伝統を厳密に吟味したり…

821 「メロディー、歌は説教」・・・「月曜日の復活: 「説教」終えて日が暮れて」(塩谷直也、2024年、日本キリスト教団出版局)

ぼくもほぼ毎週日曜日「説教」をし、その午後は疲れ気味ですが、月曜日には「起き上がって」、つぎの日曜日を目指して歩き始めます。 そんなわけで、大学の学生や各地の教会で「説教」をしておられる著者から学ぼうと手にしました。「まるで今日、初めて聖書…

820 「いのちは詩です」 ・・・ 「暗やみの中で一人枕をぬらす夜は――ブッシュ孝子全詩集」(ブッシュ孝子、2020年、新泉社)

巻末で若松英輔さんがつぎのように書いています。 「人は死んでも「死なない」。むしろ、「いのち」として新生することを、詩は私たちにそっと教えてくれる」(p.161)。その「いのち」は、ブッシュ孝子さんの詩の中にすでに表れています。 「あの日以来 私の…

819 「汝生命を奪うなかれ」・・・「旧約聖書における自然・歴史・王権」(山我哲雄、2022年、教文館)

本書には五つの論文が含まれていますが、そのうち、「旧約聖書における自然と人間」「旧約聖書とユダヤ教における食物規定(カシュルート)」「旧約聖書における「平和(シャローム)」の概念」の三つから、大切に思われた点について以下に記します。 (もう…

818 「神学校に支配されずに牧師になる新しい道」 ・・・ 「オンラインの神学 教える+学ぶ」(オギルビー著、大倉一郎訳、2024年、ラキネット出版)

本書は、オンライン環境での神学教育と学修について論じられています。 その利点として、たとえば、以下のようなことが挙げられています。 「オンライン教育は必然的にある環境を作り出せる。学生の人種やジェンダーや民族や障碍や社会的背景を、その学生が…

817 「差別克服は多文化共生の土台」・・・「路地の教室―― 部落差別を考える」(上原善広、2014年、ちくまプリマー新書)

たとえば、ある小学校のクラスに、中国籍、韓国籍、日本籍の児童がいたとします。そうすると、最近は「多様性の尊重」ということを言います。それぞれの個性、文化、歴史、言語を大切にしようと。「多文化共生社会を」と。しかし、これだけしか言わないなら…

816 「中井久夫さんとキリスト教」・・・「中井久夫 人と仕事」(最相葉月、みすず書房、2023)

中井さんについて書いた本は、これ以前に、もう一冊読んだことがある。村澤真保呂さん、村澤和多里さんの「中井久夫との対話: 生命、こころ、世界」(河出書房新社、2018)だ。 (と思ったら、この両・村澤さんによる「異界の歩き方――ガタリ・中井久夫・当事…

815 「「わたしはある」という神を呼ぶことは、苦しむ「自分がここにいる」と叫ぶことでもあり、しかも、神の傘に入れてもらえることになる」・・・「普遍啓示論: そこに立ち現れる神 (傘の神学)」(濱和弘、ヨベル、2024)

聖書、イスラエルの歴史、イエスの生涯、十字架と復活を通して、神は自身を人間に示した。これを特殊啓示と呼びます。 これに対して、普通啓示は、自然啓示、一般啓示とも呼ばれ、神は、自然、(聖書外の)人間や歴史を通しても、自身を示す、という考え方で…

813 「戦争は今すぐ終われ。グローバル資本主義は緩やかに解体」 ・・・「戦時から目覚めよ: 未来なき今、何をなすべきか」(スラヴォイ・ジジェク、NHK出版新書、2024)

著者はスロヴェニア出身の「現代思想の奇才」と言われる人。名前はよく聞きますが、著書を読んだことはありません。難解と聞いたこともあります。 本書は、新書で、ウクライナ状況を語っているので、すこしは読みやすいかと思って、手にしてみました。おそろ…

812 「言葉とコトバの織りなし」・・・「自分の人生に出会うために必要ないくつかのこと」(若松英輔、西淑・画、2024年、亜紀書房)

ああ、うつくしい本です。 栞の紐のやわらかさ、まぶしさ、輝き、品位に驚きました。 カバー、帯、そして、挿絵が、また、うつくしい。若松さんの言葉が、こんども、うつくしい。ただ、今回は日本経済新聞に連載されていたということがあってか、この本は、…

811 「神はどんな人とも共に苦しむ」・・・ 「無教会の変革: 贖罪信仰から信仰義認へ、信仰義認から義認信仰へ」(荒井克浩、教文館、2024年)

著者は、内村鑑三、高橋三郎らを批判(批難ではない)し、また、青野太潮、大貫隆を援用しつつ、「すべての人は無条件で(信仰なしでも)救われる、救われるとは、神自身が十字架の上で苦しみつつ、苦しむ者とともにおられることである」ということを述べて…

810 「ぼくたちの何が不自然なのか」・・・「自然の哲学――おカネに支配された心を解放する」(高野雅夫、ヘウレーカ、2021年)

「じねん」と読みます。 著者は環境学の大学教授。再生可能エネルギー、里山再生を研究しておられるそうです。 ぼくは、例によって、地球の生態系危機にあって、市民として学びたいということで、この本も手に取ってみました。「自然(じねん)」とは「自(…

809 「イネのメタボ対策?」 ・・・「農学が世界を救う!――食料・生命・環境をめぐる科学の挑戦」(岩波ジュニア新書、2017年)

地球の生態系の危機やその克服について学びたいという気持ちが自分の中で高まってきていることと、じつは、農学部中退であること、そういう理由で本書を手に取ってみました。四十年以上前に農学部に入学したものの、農学どころか大学での学びに興味がわかず…

808 「人間以外の存在とのつながりと他者性」 ・・・ 「聖書とエコロジー 創られたものすべての共同体を再発見する」(リチャード・ボウカム著、山口希生訳、2022、いのちのことば社)

地球の生態系の危機の時代に、やはり、農業とか自然とか環境とか、そういうことについての聖書理解などに関心をもって、何冊か読んできた中での一冊です。 以下、ぼくにとって魅力的だった箇所をご紹介します。「本書で提案したいのは、被造物の共同体におい…

807 「生態系につながるためのキリスト教思想」・・・「創造における神 生態論的創造論」(J. モルトマン、新教出版社、1991年)

地球の生態系が深刻な危機にある。これに臨むための思想を、キリスト教や聖書、神学が提供してくれないだろうか。そう思い、この本を読むことにした。 しかし、この本に書かれているのは、地球の生態系問題に直接かかわることばかりではない。この本の概説は…

806 「欲望を満たす手段としての差別」・・・「「差別」のしくみ」(木村草太、朝日選書、2023年)

人の中で区別がどのようにして差別に変わるのだろうか。 友人にそう問いかけられ、この本を読むことにしました。タイトルからも、「何が「差別」で何が「区別」?」という帯の文句からも、ふたつみっつの回答が得られるように思えたのです。 「「この人は○○…

805 「お金がなくてもつながりがあれば生きていける」・・・「ルポ つながりの経済を創る――スペイン発「もうひとつの世界」への道」(工藤律子、2020年、岩波書店)

「経済」と言うと、お金の流れのことだと思う人は少なくないでしょう。そして、自分が生きるためには、お金を獲得し、所有しなければならない、と。 けれども、この本では、お金だけでなく、お金を補う、さらには、お金に代わるかもしれない、「つながり」こ…

804 「イエスの自由と苦しみに救われる」 ・・・「イエス」(ハンス・キュンク著、福嶋揚訳、ヘウレーカ、2024)

誤読ノート804 「イエスの自由と苦しみに救われる」 「イエス」(ハンス・キュンク著、福嶋揚訳、ヘウレーカ、2024) イエスは、どういう考えで、どういう生き方をしたのでしょうか。そして、イエスは、聖書や本書のような書物を通してイエスと出会う者に、…

803 「神さまの愛は一方的なのだろうか」 ・・・ 「「愛」の思想史」(山本芳久、NHK出版、2022年)

本書では、プラトン、アリストテレス、旧約聖書、新約聖書、アウグスティヌス、トマス・アクィナスと並べられていて、なんだか難しそうな気がしますが、じつは、そうではなく、それぞれの「愛」についての考えが、とてもわかりやすく簡潔に述べられています…

誤読ノート802 「伝統的なプロテスタントの教会の信仰から旧新約聖書を概観すると」 ・・・ 「神と共に生きる: 聖書の基本がわかる十七話」(長田栄一、YOBEL、2024年)

旧約聖書、新約聖書は、一冊に製本すれば、上下に段組みで二千頁にわたり、そこには、六十六の書物が収められています。 これらの書物は同じ時代に書かれたものではなく、したがって、著者も多数いるのですが、これら全書物を一貫するテーマを見つけよう、言…

801 「資本主義は経済だけの問題ではない」 ・・・ 「資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか」(ナンシー・フレイザー、2023年、ちくま新書)

資本主義は、労働者から「搾取」する(労働で生み出した富に匹敵する賃金を払わない、そうやって労働者の富を奪う)だけではありません。被征服民や人種差別される人びとから莫大な富を「収奪」します。労働者には不当な額であろうと「対価」が払われますが…

800 「異常な正常、正常な異常、自然な不自然、不自然な自然」 ・・・ 「クィア神学入門 その複数の声を聴く」(グリノフ、2024年、新教出版社)

「クィア神学」とは何なのでしょうか。これは定義できません。なぜなら、クィアとは定義を拒む行為だからです。ですから、「クィア」も「神学」も、こういうものだ、とは言い切ることができません。 しかし、「クィア神学」は、LGBTQ+、あるいは、セクシュ…

799 「ことばから出て来た美しい言葉」 ・・・「光であることば」(若松英輔、2023年、小学館)

若松英輔さんの本を読み始めたのは2011年であったように思います。そう思ったら、「魂にふれる 大震災と、生きている死者」、最初に読んだ若松さんの著作は2012年の出版でした。しかし、この1年は、ずれではなく、幅ではないでしょうか。 「死者」。若松さん…

798 「一個であるより一部であること」・・・「母なる自然のおっぱい」(池澤夏樹、新潮文庫、1996年)

著者の長編小説「また会う日まで」を最近読みました。その話をしたら、この「母なる自然のおっぱい」もおもしろいよ、と勧められ、ぼくもここ何年か地球環境危機、自然、土、農、食といったものを読みたいと思っていたので、さっそく入手しました。 ひとつひ…

797 「イエスという人の原像への扉」・・・「携帯版 Q文書」(山田耕太、2024年、YOBEL)

Q文書とは、新約聖書のマタイによる福音書とルカによる福音書が資料とし引用したと想定される仮説上の文書ですが、学問研究によれば、写本は発見されていないものの、存在したことはほぼ間違いないそうです。 そういうことは、40年前、学生時代から聞いてい…

795 「神と人とがわかちあうもの」・・・「悲しみに壊れた心はどこへ行くの? 死との和解の神学」(ヘイスティング、2024年、YOBEL)

「我々は、悲嘆を克服しない」(p.27)。つまり、本書は悲嘆の克服法を述べているのではなく、さらには、悲嘆を遠ざけてもならない、と著者は言う。 もう一点。人間は、知り合い、交わり、ひとつなる。これは、三位一体の神の徴である。「三位一体においては、…