699 「衰退する21世紀キリスト教再生のヒントになるか」・・・「古代末期の世界――ローマ帝国はなぜキリスト教化したか?」(ピーター・ブラウン、刀水書房、2006年)

 古代末期のローマ帝国よりも、キリスト教パレスチナを出でどのように地中海沿岸やヨーロッパに広がって行ったのか、どうして帝国の宗教となったのかに関心があり、手に取ってみました。

 

 「キリスト教が普及した本当の理由は、キリスト教が悪魔の敗北を確かなものとしたからである」(p.49)。

 

 これは、著者によれば、「ダニエルのように「この世」の悪から救われる」(p.51)であり、死後「救いを約束される」(同)ことでもあるのです。

 

 「キリスト教は、見捨てられた個人にアピールするところが大きかった・・・貧しい人びとを金銭的に援助したし・・・疫病や暴動が発生したとき、死者を葬ったり食料の世話をした・・・二五〇年頃、ローマの教会は一五〇〇人もの困窮者や寡婦を養っていた」(p.61)。

 

 このように、キリスト教は古代より、あの世とこの世の両方に関心を持っていたのですね。

 

 「キリスト教がアピールした本当の原因は・・・教会は信者から集めた寄付金をそのまま使ってしまわず、いったん信者の「奉納金」として神に捧げ、そのあとで神の「下賜金」として「神の子」たる信者に分配したのである。これは、聖体をいったん神に捧げてから信者に配るのとおなじやり方で、他の宗教にはないやり方であった」(p.61)。

 つまり、キリスト教には、信者の献金を再分配するという思考があり、聖体の聖礼典はそれを象徴しているということになるのでしょうか。

 「キリスト教徒はギリシャ哲学の後継者として活躍していた」(p.70)。「「この世」に絶望し、生きることに意味を見出せなくなった古代末期の知識人を救ったのがプラトン主義であり、それを引き継いだのがキリスト教であった」(p.71)。

 

 「オリゲネスは異教徒に対して、キリスト教徒になることこそ本当の意味で教養を身につける方法なのであり、立派な人間になる方法だと説いた。三世紀末の石棺の絵や地下礼拝堂のフレスコ画には、イエスが哲学教師とおなじ姿で描かれている。オリゲネスとおなじように、イエスも身なりが整った学生を相手に講義をしていた。こうして、司教は都市の知識人として認められるようになり、それまで哲学教師が座っていた「ディダスカレイオン(学校)」の「カテドラ(椅子)」に座って、哲学教師とおなじように人間として守るべき道徳を講義するようになったのである」(p.76)。

 

 このようなキリスト教の姿勢は、人びとの「教養」への憧れにマッチします。著者は、やや皮肉っぽい筆づかいで、それを記しています。

 

 「ラテン語しか知らない中年の兵士にすぎなかったコンスタンチヌス帝は、ローマ帝国を救うためにキリスト教徒になったと称していたが、本当は司教の仲間入りをしたかったのである。キリスト教を迫害してきた皇帝とちがって、自分が「真に教養ある」皇帝であることを示したかったのである」(p.80)。「教会でなら、さほど高度な訓練を必要としないで「ふつうの教養」を身につけることができた」(p.81)。

 

 けれども、キリスト教がくすぐったのは権力者の教養志向だけではなく、「民衆」「ふつうのキリスト教徒」の考えていたことも置き去りにされていませんでした。

 

 「修道士がキリスト教を民衆に広めるのに貢献した・・・彼らは、ふつうのキリスト教徒が考えていることをよく知っていた・・・民衆の関心は「最後の審判」で救済が得られるかどうかということであって、三世紀までのキリスト教徒のように、静かな星の輝きや木陰の安らぎのような楽園を求めているのではなかった。イエスを皇帝の審問官のようにイメージしていた・・・修道士は、その厳しい禁欲生活のおかげで「最後の審判」の恐ろしい罰が軽減されると考えられていた。彼らは信者に対して、「最後の審判」に備えるよう警鐘をならす役割も果たしていた」(p.99)。

 では、修道士は厳しい顔ばかりをしていたかというと、優しい顔も持っていたようです。

 

 「三世紀末には少数派にすぎなかったキリスト教徒が民衆の間に広まっていったのも、修道士のおかげであった・・・都市や農村の失業者を引き受けたのも修道院であった・・・彼らは病院、無料給食所、葬儀所などで働いており、民衆に教会の存在をアピールする格好の媒体になっていた」(p.103)。

 

 修道士たちものフィールドも現世と来世にまたがっていたのですね。

 

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