705 「資本主義による社会と自然破壊を防ぐのは社会主義国家ではなく、貨幣や商品に頼らない自発的助け合い社会=アソシエーション」 ・・・ 「ゼロからの『資本論』」(斎藤幸平、NHK出版新書、2023)

 資本主義は自然を破壊するとマルクスは考えていた。社会主義と形容される国家はコミュニズムではない。貨幣への依存という点でベーシックインカムにも問題がある。

 

 本書からはこの三つ、その他のことを学びました。

 

 「私たちの暮らしや社会、それを取り囲む自然環境の姿は、私たちが自然に対してどのように働きかけるかで決まります。この働きかけ方を大きく誤ると社会や自然は荒廃してしまう・・・マルクスが「労働」の概念に注目したのは・・・人間と自然の本源的な関係を重視していたからなのです」(p.23)。

 

 資本主義の「特殊性」が、人間と自然の本源的な関係を損ない、社会と自然を荒廃させている、というのです。

 

 マルクスによれば「例えば、きれいな空気や水が潤沢にあること、つまり、自然の豊かさも、社会の「富」ということになります」、しかし、「こうした社会の「富」が、資本主義社会では次々と「商品」に姿を変えていく」(p.26)と。

 

 「人間は、絶えず自然とやりとりしながら生を営んでおり、その“働きかけ”が、すなわち人間の労働でした・・・「人間の労働力の寿命を問題にしない」資本は、自然の寿命も顧慮しない」(p.130)。

 

 では、どうしたらよいのでしょうか。「人間と自然の物質代謝のあいだの「修復不可能な亀裂」が文明を破壊してしまう前に、革命的変化を起こして、別の社会システムに移行しなければならない、と、マルクスは考えたわけです」(p.140)。「晩年のマルクスは、来るべきポスト資本主義社会の姿を、地球環境の持続可能性の問題とからめて構想しようとしていました。これを近年では、「環境社会主義」と呼びます。単に人々の経済的平等だけでなく、自然との物質代謝の合理的な管理を目指すのが環境社会主義です」(p.147) 。

 

 それには、アソシエーションと呼ばれる共同体が必要ですが、ソ連中華人民共和国がそれであったわけではありません。

 

 「20世紀に社会主義を掲げた国の実態は、労働者のための社会主義とは呼べない単なる独裁体制にすぎなかった。それは、資本家の代わりに党と官僚が経済を牛耳る「国家資本主義」だったのです」(p.165)。「国有化を推し進めたとしても、労働者は、資本を増やすために過酷な条件で搾取され、市場では大量の商品が貨幣によってやりとりされ続けるでしょう。さらに、官僚の支配によって、民主主義は否定され、国家権力が暴走してしまう」(p.166)。

 

 ソ連や中国は、マルクスが求めた社会ではなかったというのです。では、資本主義社会で唱えられているベーシックインカムはどうでしょうか。これは、たとえば、国民全員に一年間に100万円の基本収入を支給する、というようなものです。

 

 しかし、これは、たとえば、水や土地や労力のわかちあいではなく、貨幣の分配です。そこには、「物象化」がつきまといます。「商品や貨幣が人間を支配するような力を振るっている・・・人間とモノの関係性の転倒をマルクスが「物象化」と呼び、批判した」(p.168)。ベーシックインカムを「導入しても、商品や貨幣の力に振り回され続けるのではないでしょうか。物象化の力は全然弱まらないのですから」(p.175)。

 

 アソシエーションは「自発的な結社」であり「物象化の力を抑えるための社会運動」(p.171)、つまり、資本家の利益のための商品や貨幣に依存しない共生のシステムです。

 

 たとえば、ドイツで実施されている学費の無料化、学生の交通費、食費、芸術コストなどの割引や無料化、市民の医療費原則無料、介護サービス、失業手当、職業訓練、子育ての無償化など、「脱商品化」(p.170)と呼ばれるものが挙げられます。

 

 そうすると、アソシエーションは福祉国家のことかと思われますが、たしかに、「アソシエーションという視点からすれば、労働組合運動を禁止して、国有化のもとで官僚が意思決定を独占するソ連や中国といった「社会主義国家」よりも、資本主義のもとでの福祉国家の方が、マルクスの考えに近いのです」(p.173)。

 ただし、このような国家によるサービスは、アソシエーション(自発的な結社)の発展の後に来るものだと言います(p.172)。

 

 「マルクス自身は「社会主義」や「コミュニズム」といった表現は、ほとんど使っていません。来るべき社会のあり方を語るときに、彼が繰り返し使っていたのは、「アソシエーション」という言葉なのです・・・マルクスが目指していたのは、ソ連のような官僚支配の社会ではなく、人々の自発的な相互扶助や連帯を基礎とした民主的社会なのです」(p.171)。

 

 「貨幣の力から自由になるためには、貨幣なしで暮らせる社会の領域を、アソシエーションの力によって増やすしかないのです」(p.175)。

 

 つまり、資本主義による、これ以上の人間、社会、自然破壊を防ぐには、資本主義国であろうと「社会主義国」であろうと、貨幣や商品に頼らない自発的な相互扶助を拡大し、それを行政システムにも反映させる、その規模を圧倒的に拡大させることなのかと思いました。現在は社会福祉切り捨て方向にありますが、むしろ、現状の何倍も拡大させなければならないでしょう。

 

 それにしても、夢と希望のある一冊でした。ぼくはキリスト教に関する本をよく読みますが、キリスト教徒でない人に夢と希望を与えるようなキリスト教の本、本書のように噛み砕いた(専門用語を極力使わない)本が出て欲しいと思いました。

 

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