163 「静かに聴かせてくれる静かな映画」

 映画「楽隊のうさぎ」(中沢けい原作、鈴木卓爾監督、2013年)

 「うさぎ」なのは、アリスのように不思議な国、あたらしい世界、中学校生活、吹奏楽部への案内人ってことだな、と納得していたら、もうひとつ、わけがありそうです。

 引っ込み思案の中一の男の子。吹奏楽部の先輩、同輩、後輩。カザルスの「鳥の歌」をチェロで弾く顧問の先生。学校に来られなくなってしまった小学校の同級生。お母さん、お父さん。魚屋のおじさん。

 宮崎将さん演じるカザルス先生がとても良い。コンクールの舞台に上がれなかった主人公ら一年生二人に「客席で聴いていても、一緒に演奏しているんだよ」。このメッセージは、主人公に伝わり、彼もまた、翌年それを同級生に伝えようとする。この映画を観ていたぼくにもしっかり届いた。

 先生のもうひとこと。ティンパニーをたたく主人公の男の子へ練習中。「ひとりで勝手に決めつけない。人の話を聞く。そして話し始める。アンサンブルの中で」。

 中学生たちはほとんど演技経験がないとのことだが、決して棒読みではない。あるいは、少しは演じようとするゆえのおきまりの学芸会調でもない。朴訥だし、上手でないけれども、ちゃんと映画のセリフになっている。おどらない、静かな、だからこそ、耳に入ってくる映画を作り上げている。

 パンフレットにあった映画ライター中西愛子さんの言葉。(主人公を演じる少年は)「あまり感情を表に出さないけれど、よく観ると、相手のセリフをしっかり聞き、びっくりするくらい自然に反応している」

 うさぎに誘われ、少年もうさぎになっていた。

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