820 「いのちは詩です」 ・・・ 「暗やみの中で一人枕をぬらす夜は――ブッシュ孝子全詩集」(ブッシュ孝子、2020年、新泉社)

巻末で若松英輔さんがつぎのように書いています。


「人は死んでも「死なない」。むしろ、「いのち」として新生することを、詩は私たちにそっと教えてくれる」(p.161)。

その「いのち」は、ブッシュ孝子さんの詩の中にすでに表れています。

 

「あの日以来 私の心は

 不安におののき あこがれにやかれ

 一点の青空を求めて 黄色い空の中をただひたすら

 とびつづけているのです」(p.15)

「あこがれ」はその「いのち」、「一点の青空」はその住まいではないでしょうか。

「私は信じる

 私にも詩がかけるのだと

 誰が何といおうと

 これは私のほんとうのうた

 これは魂のうた」(p.40)

「魂」はその「いのち」、詩はその「いのち」の歌だと思います。

 

「暗やみの中で一人枕をぬらす夜は

息をひそめて

私をよぶ無数の声に耳をすまそう

 地の果てから 空の彼方から

 遠い過去から ほのかな未来から

夜の闇にこだまする無言のさけび

あれはみんなお前の仲間達

暗やみを一人さまよう者達の声

沈黙に一人耐える者達の声

声も出さずに涙する者達の声」(p.104)

 「無数の声」「無言のさけび」「お前の仲間達」「暗やみを一人さまよう者達」「沈黙に一人耐える者達」「声も出さず涙する者達」は、ともに苦しむ者たちであり、天使であり、若松さんの言う「いのち」のようにわたしには思えます。

「詩は生命(いのち)から生まれる

生命は詩から生まれる

 

そんな詩でなければ詩とはいえない

そんな生命でなければ生命とはいえない」(p.118)

やはり、詩は「いのち」なのです。

 

「誰でも人は自分の奥深く 

 暗くよどんだ泉をもっている

 ・・・・

 泉の中にもっと広い世界が

 広がる予感にうちふるえながら

 

 それはお前のやってきた世界か 

 それはおまえのもどっていく世界か」(p.123)

 わたしたちの奥深くには「暗くよどんだ泉」がありますが、そのさらに奥には「もっと広い世界」「やってきた世界」「もどっていく世界」があります。自分の深奥のこの世界は、まさに「いのち」でありましょう。

 

「ああローソク

 お前の丸やかな静かなひらめきの中には

 古しえからの無数の灯と

 古からの無数の人の祈りとが

 ひそんでいる気が私にはする」(p.144)

 

「古しえからの無数の灯」「古からの無数の人の祈り」、まさに、これが「いのち」です。

 

https://www.amazon.co.jp/%E6%9A%97%E3%82%84%E3%81%BF%E3%81%AE%E4%B8%AD%E3%81%A7%E4%B8%80%E4%BA%BA%E6%9E%95%E3%82%92%E3%81%AC%E3%82%89%E3%81%99%E5%A4%9C%E3%81%AF%E2%80%95%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5%E5%AD%9D%E5%AD%90%E5%85%A8%E8%A9%A9%E9%9B%86-%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5-%E5%AD%9D%E5%AD%90/dp/4787720074/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=3PRWBHT016W6J&dib=eyJ2IjoiMSJ9.DVPUnyhNitm1kq_v0lQLFc9Ac9u09SH6JiOAPT3wjDRLkAVdTtxE9MTJAobIQr3WKPEPgHfqUJevJjr5ZsboI69sPzSq3O66vHkGhnUE9H8pxthgZc--sz78_Yqu61JzIYHsVM_tY2-gjvRuDwTX-g.7sxUNqyhFEOnasef3NVSkqppnn_arrFR0JgQJmpxsn0&dib_tag=se&keywords=%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5%E5%AD%9D%E5%AD%90&qid=1728012943&sprefix=%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5%E5%AD%9D%E5%AD%90%2Caps%2C155&sr=8-1