32歳で詩人は息を引き取った。武蔵高校、早稲田大学卒。いくつもの受賞歴。けれども、そのうらには、いじめや非正規雇用、失恋があったようだ。
詩人は歌で息をした。
「抑圧されたままでいるなよ ぼくたちは三十一文字で鳥になるのだ」
無視されたままでいないよ ぼくたちもフェイスブックで鷲になるのだ
「草をかき分けてゆくごと文章を書いてゆくのだ 乗り越えるため」
印刷もされない文字を書き連ねる 道なき丘の向うが見たくて
「君からのエールはつまり人生を走り続けるためのガソリン」
君からのメールはすなわち荒れ野を行くためのオアシス
「思いつくたびに紙片に書きつける言葉よ羽化の直前であれ」
浮かび来るたびにモニタに叩きつける言葉よ発酵していなくても
「箱詰めの社会の底で潰された蜜柑のごとき若者がいる」
こいつらは蜜柑じゃないです人間ですと叫んだ先生ひとり
「デモ隊の列途切れるな 途切れないことでやがては川になるのだ」
きみは反貧困デモへ ぼくは沖縄を返せデモへ 川はやがて海になるのだ