438「静かに詩人は歌で息をした」  「歌集 滑走路」(萩原慎一郎、角川書店、2017年)

 32歳で詩人は息を引き取った。武蔵高校早稲田大学卒。いくつもの受賞歴。けれども、そのうらには、いじめや非正規雇用、失恋があったようだ。


 詩人は歌で息をした。


「抑圧されたままでいるなよ ぼくたちは三十一文字で鳥になるのだ」


 無視されたままでいないよ ぼくたちもフェイスブックで鷲になるのだ


「草をかき分けてゆくごと文章を書いてゆくのだ 乗り越えるため」


 印刷もされない文字を書き連ねる 道なき丘の向うが見たくて


「君からのエールはつまり人生を走り続けるためのガソリン」


 君からのメールはすなわち荒れ野を行くためのオアシス


「思いつくたびに紙片に書きつける言葉よ羽化の直前であれ」


 浮かび来るたびにモニタに叩きつける言葉よ発酵していなくても


「箱詰めの社会の底で潰された蜜柑のごとき若者がいる」


 こいつらは蜜柑じゃないです人間ですと叫んだ先生ひとり


「デモ隊の列途切れるな 途切れないことでやがては川になるのだ」


 きみは反貧困デモへ ぼくは沖縄を返せデモへ 川はやがて海になるのだ

https://www.amazon.co.jp/%E6%AD%8C%E9%9B%86-%E6%BB%91%E8%B5%B0%E8%B7%AF-%E8%90%A9%E5%8E%9F-%E6%85%8E%E4%B8%80%E9%83%8E/dp/4048764772/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1534394365&sr=8-1&keywords=%E8%90%A9%E5%8E%9F%E6%85%8E%E4%B8%80%E9%83%8E