誤読ノート464 「詩人は、庭となり、木となり、青空を想いだす」
十代で姉を亡くし、三十手前でつれあいを亡くし、三十九才で広島で被爆、四十五才で鉄道で死んだ原民喜の詩集。
詩人の系譜がそうであるように、原もまた、宙に身を重ねた。
「雨の降つてゐる庭がそのまゝ私の魂となってゐるやうな、ふしぎな時であった。私はうつうつと祈ってゐるのだつた」(p.13)。
原もまた、木となり、天を見上げた。
「網の目をなして空にひろがる梢の、かなたにのびてゆくものがある。かすかにそれをみとどけねばならぬ」(p.20)。
原もまた、天を信じた。
「私の頭上に青空があることさへ忘れ、はしたない歳月を迷った。けれども雲はやつぱし絶えず流れつづけてゐた。そして今、私が再び雲に見入れば、雲は昔ながらの、雲のつづきだ」(p.136)。