キリスト教史は長く、太い。だから、何冊読んでも、細かいところも覚えきれないし、いくつかの流れも理解し切れない。だから、この本の題のように、「1冊で」、しかも「わかる」と言われると飛びつかないではいられない。じっさい、二千年の教会史を、ざっと復習することができた。
それだけではない。本書には「それぞれ社会のなかでキリスト教はどのような展開を見せたのか」(p.10)というテーマがある。具体的には、たとえば、「古代はローマ帝国との関わり、中世と宗教改革はヨーロッパ、近世・近代はヨーロッパの市民社会と世界への拡大」(p.12)といったテーマだ。
さらに具体的には、たとえば、「ルターの万人祭司論(全信徒祭司論)→平等な人権→同意に基づく政治=民主主義→普通選挙権」(p.160)という流れがイギリスの政治哲学者リンゼイを援用して導き出されている。
日本については、キリスト教徒社会との関係の一例として、「明治維新により社会的・経済的地位を失った佐幕派(旧幕府派)の士族出身者」(p.211)が明治初期のキリスト者を構成したことが指摘されている。
ところが、第二次世界大戦下の日本で、戦争遂行協力のために軍事政権から強いられた、キリスト教諸派・諸教会の合同については、「くすしき摂理」(p.223)と述べられているのはいかがだろうか。むしろ、国家による強制ゆえに抗えなかった痛みと、許してしまった罪が、社会との関連では、語られるべきではないか。
キリスト教と社会との関係については、当然、批判的視点が必要だ。