誤読ノート529 「こころは宇宙大」
「中井久夫との対話 ―生命、こころ、世界―」(村澤真保呂、村澤和多里、河出書房新社、2018年)
黒船などという想像を絶する正体不明のものが現れこれまでの社会の確実性がなくなり、その社会と自分の精神との結びつきも崩壊しようとするとき、天理教祖の中山みきは、奈良盆地の自然と歴史を自分の世界観の土台(メタ世界)にしながら、憑依現象により「われは天理王命であるぞ」と宣言した。「中井はこれを発病とみなすより、一種の自己治療とみなす」(p.197)。
わたしたちはメタ世界を失いやすい。職場や学校や家の中にしか、脳が向かない。詩人や歌人、哲学者や宗教者は、そこにメタ世界を回復させる者たちだった。
イエスは支配者の圧政や病気や貧困、差別であえぐ人々の前で、「神の国が近づいた」と叫んだ。この言葉によって、メタ世界を回復させた人びと、自分たちは神の治めのなかに生きていたのだと視野を大きくさせた人びとがいても不思議ではない。
カリスマたちにだけでなく人間にはそのような機能が備わっているらしい。メタ世界の回復回路が暴走するとき、それは、発病や妄想と見えるのかもしれない。メタ世界が暴力的な形で侵入してくるのかも知れない。他方、治癒はメタ回復回路が穏やかに作用するようになっていく過程なのかも知れない。
メタ世界そのものは必要なものである。人のこころは脳内、体内にとどまらず、「宇宙」とつながっている。人は、こころとともに宇宙を形成しているのだ。