404 「言葉と悲しみ。天の住民」  「詩集 見えない涙」(若松英輔著、亜紀書房、2017年)

 若松英輔さんの批評やエッセイは、とても詩的です。リルケなど何人かの詩人の批評もしておられますから、いっそうそのような印象があります。

 その若松さんがどのような詩を書かれるのでしょうか。この詩集は、ぼくには、意外にも、散文的に思えました。詩的な批評やエッセイと比べて、簡潔で、明解で、良い意味で説明的に思えました。(リルケに門前払いを食らった者も、若松さんの詩は受け入れてくれます。)

 大著数冊を含む、これまでの何冊もの著作の中で、落葉を重ねるように、あるいは、半径の大きな、ゆるやかな螺旋階段を昇るように、つづって来られた言葉が、この詩集には、凝縮されています。

 若松さんのコトバ論、悲しみ論が凝縮され、しかも、素朴な姿になっています。

 花が咲き出るように、涙は湧き出ます。見える涙は、「見えない涙」、悲しみの結晶ではないでしょうか。「悲しみ」は、わたしがその人を愛し、その人がわたしを愛し、ふたりがともにいる庭なのです。

 「かなしみは/生者と死者が/出会う場所/悲愛という名の/楽園」(p.19)。

 言葉の源にあるコトバ、言葉になる前のコトバ。かなしみはコトバに限りなく近いものです。

「おもいを/言葉の舟にのせ/こころを流れる/かなしみの調べに浮かべよ/あとは 深緋色をした/祈りの風に託すがよい/いつか/彼方の世界にたどりついて/還らぬ者たちにも届くだろう」(p.88)。

 「ぼくは弱い/だから/鋼鉄の甲冑を着た/騎士にはなれない/でも ぼくの/胸をつんざいて/生まれた言葉はちがう」

 胸の奥にコトバがあり、言葉を胸を破って産み出してくれます。ぼくは城門さえくぐれませんが、コトバがぼくの胸から送り出してくれる言葉は、二千年かけて地球を七周し、天に戻って行きます。

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