6 「未熟を自覚している者が世話役に」


井上ひさし 「グロウブ号の冒険」

1980年代末に井上ひさしが雑誌に連載していた小説が未完のまま、逝去後一年経ったこの四月、単行本として刊行されました。

主人公が流れ着いたのは名前のない島。名前だけでなく、保存食もなく、最終的な権威付けをする者、王や皇帝や島民会議もありません。

名前がない・・・つまり、場所もない、固定的なものがない、ユートピアということでしょうか。

食糧を貯蔵しない、だから、それを支配する権力者もいません。

いるのは「世話役」だけです。しかも、人生経験ゆたかな老人ではなく、もっとも未熟な、成人になりたての若者が世話役になるのです。

なぜでしょうか。

「自分の未熟さを自覚している若者こそ宝さ。第一に他人(ひと)の意見にすなおに耳を傾ける。第二に遠慮があるから独走しない。第三に体力があるから骨惜しみしない。第四に人生の勉強になる」からです。

すばらしい。ただ、わたしとしては、できれば、体力がなく、あまりばりばり働かない若者に世話役になってもらうと、あくせくせずに、皆がもっとのどかな気持ちになれるかも知れないと期待するのです。